〈社説〉少子化対策試案 総括と財源なき底の浅さ(信濃毎日新聞 2023/04/04 09:31)
加速する少子化は、社会の存続さえ危うくしている。
「異次元」という言葉で耳目を集め、危機感の共有を図ったにしては、岸田文雄首相がまとめた対策の試案は小粒だ。
ここ30年歴代政権が取り組んできた対策の総括も不十分なまま、従来の施策の延長線上にとどまっている。首相の言う「社会全体の構造や意識を変える」には遠い。これで若い世代が未来に希望を持てるだろうか。
試案は、今後3年間を集中取り組み期間とし、児童手当の所得制限撤廃や多子世帯への増額、保育の拡充、育児休業給付金の額を実質で休む前の手取り10割に引き上げるなどの施策を列挙している。
各施策の実効性を精査し、優先度を整理する必要がある。
例えば保育では、親の就労状況を問わず保育所などを利用できる制度を検討する。1歳児と4~5歳児について、受け持つ保育士の配置を手厚くする。
それには保育士の数を増やさなくてはならない。まずは慢性的な保育士不足の解消が前提になる。待遇の改善が欠かせない。
育休給付金の増額は産後の一定期間、最大で28日間という。これで男女とも安心して子育てできるといえるだろうか。
高等教育費の負担軽減策は盛り込まれたものの、対象は限られる。高等教育の無償化は、親の経済状況にかかわらず子どもの学ぶ権利を守ることにもなる。踏み込んで検討すべきだ。
さらに視野を広げたい。試案は子育て世帯の支援が主で、独身の若年層への支援策が弱い。結婚や出産以前に、所得増対策などで生活の安定を図る必要がある。
肝心の財源の議論が先送りされている。今の段階は、お金がないのに買いたいものをリストに書き出しているようなものだ。
政府内では社会保険料に上乗せし、1兆円程度を捻出する案が浮上。医療保険を軸に調整しているという。社会保険の趣旨をゆがませる。増税よりも反発を招きにくいと考えているのか。
保険料の主な担い手は現役世代である。少子高齢化で担い手が減り、ただでさえ負担が重くなる傾向にある。
児童手当の拡充だけでも兆円単位の予算が見込まれる。少子化対策の財源は、社会保険でまかなえる規模ではない。
長期にわたり安定財源を確保するため、幅広い年代で負担をどう分かち合うのか。政府も与野党も議論から逃げてはならない。