フェーン現象って何 !? 原理をわかりやすく説明

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9月3日、日本海側ではフェーン現象で気温が上がり、新潟県三条市では全国で最高の40.4度を観測しました。国内観測史上、9月として初の40度超えの猛暑となりました。最高気温は他に、新潟県胎内市で40.0度、山形県鶴岡市で39.1度、石川県輪島市で38.6度を観測しました。
フェーン現象は何故生じるのか、その仕組みをわかりやすく説明します。

フェーン現象とは

湿った風が山を越えて反対側に吹き下りた時、風下側の麓では、空気が乾燥し気温が高くなります。その風のことを「フェーン」と言い、 そのために付近の気温が上昇することを「フェーン現象」と呼びます。山から吹く風は高温で乾燥しているため、火災に注意する必要があります。

名称「フェーン」の語源は、ヨーロッパの大きな山脈、アルプスの北側斜面のスイス人が使っていたドイツ語方言から生まれた言葉です。山から吹き降りてくる地域特有の乾いた熱い風のことを言います。南寄りの風が吹くと気温が上がり、春先の雪が消えるなどで有名となり、今では他の地域でも同様の現象をフェーン現象と呼ぶようになりました。

『車輪の下』で有名なヘルマン・ヘッセによる、スイスの青年を主人公にした小説『郷愁―ペーター・カーメンチント』(新潮文庫)、『青春彷徨(ペーター・カーメンチント) (岩波文庫)にも「フェーン」が出てきます。
「冬の終わりにはいつも、フェーンが低いどよめきとともにやってきた。」

フェーン現象が起きる原理・仕組み

湿った風が山地に向かって吹くと、山にぶつかった風は山の斜面に沿って上昇します。上空に行くほど気圧が低いため、空気は膨張し温度が下がります。100メートル上昇するごとに、温度は1℃低下します。

【参考】
自転車のタイヤにポンプで空気を入れると、ポンプが熱くなるのを経験したことがあると思います。空気を圧縮すると温度が上がり、逆に、減圧すると温度が下がります。

さらに空気が上昇し、温度が下がっていくと、空気中に溶け込んでいた水蒸気は水滴となり雲が発生します。この時、大気中に潜熱(凝縮熱)を放出します。そのため、標高による気温低下は緩和され、100メートル上昇するごとに温度は0.5℃の低下となります。そして雲は雨となり、空気中の水分が抜けて行きます。

【参考】
夏の暑い炎天下、道路に水をまくと周囲の温度が低下し、涼しくなります。これは気化熱といって、水が水蒸気になる際に大気中の熱を奪うためです。逆に、空気中に溶け込んだ水蒸気が水滴になると、大気中に熱を放出します。この熱を凝縮熱と言います。

さて、山頂を越えた気流は、風下側の山を下降します。この時、乾いた空気は100メートル下降するごとに温度が1℃上昇します。

図に沿って説明

日本アルプスは3000メートル級の山々が連なっていますから、ここでは標高3000メートルの山に向かって湿った風が吹いたと仮定します。

①風上側、標高0メートル地点での気温を25℃、湿度60%とします。

②山にぶつかった風は山頂を目指して上昇します。風は標高1000メートルあたりになると、大気中の水蒸気の量が飽和量に達して水滴となり、雲を発生させ、さらにその雲は雨を降らせます。それまで間は、100メートル上昇するごとに温度は1℃低下します。従って、1000メートル地点での気温は、
25 ℃ - 1 ℃ × 1000メートル/100メートル = 15℃

③雲が出来、雨を降らせながら、気流は山頂に向かいます。その間、潜熱(凝縮熱)を放出するので、100メートル上昇するごとに温度は0.5℃低下します。従って、山頂の気温は、
15 ℃ ― 0.5 ℃ ×(3000-1000)メートル/100メートル = 5℃

④3000メートルの山頂から風下の麓まで気流が下る際には、大気中の水分が抜けて乾いているため、100メートルごとに温度が1℃上昇します。従って、0メートル地点の気温は、
5℃ + 1℃ × 3000メートル/100メートル = 35℃

風上の標高0メートル地点で気温25℃の風は、山を越えた風下、標高0メートル地点では気温35℃にまで上昇し、湿度もおおよそ60%から20%にまで乾燥します。これがフェーン現象の仕組みです。

専門用語の説明….乾燥断熱減率、湿潤断熱減率、飽和水蒸気量

断熱膨張・断熱圧縮
外部と熱(エネルギー)の出入りがない状態を断熱状態と言います。空気のような気体が断熱状態で膨張すると、外からの圧力に逆らって体積を増やす、すなわち仕事をすることになります。その際に自身のエネルギーを使うため、温度が下がります。これを断熱膨張と言います。その逆を、断熱圧縮と言います。

乾燥断熱減率
空気の塊は上昇すると、まわりの圧力が下がるので自然に膨張します。この時は外部との熱の出入りはほとんどない断熱膨張なので、温度が下がります。水蒸気の凝結や水の蒸発が起きない乾燥した条件での温度変化の割合を乾燥断熱減率と言います。変化する割合。高度 100mにつき0.9768℃の割合で減少します。

飽和水蒸気量と雲の発生

通常、空気中には水蒸気が含まれています。ただし、空気中に含まれる水蒸気の量には限界があり、1立方メートルの空気中に含むことが出来る最大の水蒸気量を飽和水蒸気量と言います。空気塊が上昇すると気温が下がり、やがて限界点(露点)に達し、空気中の水蒸気が凝結して細かい水滴となり雲が発生します。

湿潤断熱減率
水蒸気が飽和(露点)に達し雲を発生させた空気塊が上昇する時は、水蒸気の凝結に伴って潜熱(凝縮熱)が放出され周囲が暖められるので、空気塊の気温の下がり方は、乾燥断熱の割合よりも小さくなります。この割合を湿潤断熱減率と言い、平均すると100mの上昇につき0.5℃です。

フェーン現象と火災

フェーン現象が発生すると乾燥した高温の風が吹きます。このような時に街中や山林で火災が起きると大変なことになります。これまで日本海側では、度々、フェーン現象が原因と見られる大火が発生しています。

1952年の鳥取大火や1956年の魚津大火(富山県)が一例ですが、最近では、2016年12月22日、新潟県糸魚川市大町の中華料理店から出火し、広範囲に甚大な被害を出した糸魚川市大規模火災が有名です。

12月22日昼前に発生した火災は、強風の南風に煽られて火元から海岸に向かって147棟(全焼120棟・半焼5棟・部分焼22棟。床面積30,412m2)を焼き尽くし、鎮火したのは翌日の夕方で、約30時間続きました。

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