9月16日の夜、菅内閣発足後初めての閣議が開かれた。安倍政権の取り組みを継承しさらに前に進めるとした上で、新型コロナウイルスへの対応については感染対策と社会経済活動との両立を図るとし、また、行政の縦割りや前例主義を打破して既得権益にとらわれずに規制の改革を全力で進める「国民のために働く内閣」をつくる、とする基本方針を決定した。
高い支持率でスタートした菅内閣だが、雰囲気で判断するのではなく、事実に即して分析すると、中々厳しい実態が浮かんでくる。
高い支持率でスタートした菅内閣
首相指名選挙が16日、衆参両院の本会議で行われ、自民党の菅義偉総裁が第99代首相に選出された。夜、皇居での首相任命式と閣僚認証式を経て、自民、公明両党連立による菅内閣が発足した。
早速、報道各社が世論調査を行った。結果は6割~7割という極めて高い支持率を記録した。読売新聞(1978年以降)と日本経済新聞(1987年以降)によると、内閣発足直後の支持率としては、2001年の小泉純一郎内閣(読売87%、日経80%)、2009年の鳩山由紀夫内閣(読売・日経75%)に次いで歴代3位の高さとなった。
支持する | 支持しない | 調査日 | |
朝日新聞 | 65% | 13% | 9月16日~17日 |
共同通信 | 66.4% | 16.2% | 9月16日~17日 |
日経新聞 | 74% | 17% | 9月16日~17日 |
毎日新聞 | 64% | 27% | 9月17日 |
読売新聞 | 74% | 14% | 9月19日~20日 |
通常、新政権が発足すれば、一定の期間はハネムーン期間として特別な理由がなくても支持率は高くなる。それに加えて、この度の菅内閣は、メディア報道を通じて作られた菅総理のイメージが影響しているものと思われる。
「秋田県の農家の長男に生まれ」、「高校卒業後上京して2年間はダンボール工場で働き」、「工場を辞めてアルバイトで学費を貯め、法政大に進学」、「地縁・血縁のない中、ゼロからスタート」などのサクセスストーリー
また、
テレビで何度も放映された「新元号『令和』の色紙を掲げる『令和おじさん』」や、ネットで拡散した「大きな口を開けて大好物のパンケーキをほおばる姿」が、いずれも可愛いとの評価
これらが好感度を上げている。
しかし、表面上の「可愛い」は一面の真実であっても、本質は非常に冷徹な人間であることを覚悟する必要がある。
菅総理の高圧的な発言 有無も言わせない左遷人事
「反対するのであれば異動させる」
フジテレビ、9月27日(日)午前7時30分からの「日曜報道 THE PRIME」に自民党総裁選挙の3候補が出演し、橋下徹・元大阪市長が3候補に、「政治的に決定した後、官僚が反対してきた場合」の対応を質問した。3氏の答弁は、
菅氏 「私ども選挙で選ばれていますから、そういう中で、何をやるという方向を決定したのに反対するのであれば異動させる。」
岸田氏 「まずは説得する努力をしなければならない。しかしながら、決めたことは貫かなければいけないので、必要であれば異動させる、それはあると思う。」
石破氏 「それは異動させることはある。ただ、これが組織を委縮させるものであってはいかん。・・その人が反対したことも自分の信念に基づくものであれば、その後不利な取扱いをしちゃいかん。そうすると組織全体が委縮してしまう。」
菅氏の答弁は3人の中で一番高圧的である。
ふるさと納税に異を唱えた官僚は異例の左遷人事
また、菅官房長官(当時)肝いりの「ふるさと納税」に異を唱え、左遷されたとされる、元総務官僚の平嶋彰英さんのインタビュー記事が、朝日新聞デジタル(2020年9月11日 17時00分)に掲載されている。
「ふるさと納税は総務相を務めた菅さんの肝いりで、08年[2008年、[ ]は筆者]に創設されました。その後の14年、官房長官となった菅さんから、自治体に寄付する上限額の倍増などを指示されました。ただ、自治体から寄付者への返礼品が高額化し、競争が過熱する懸念があった。私は総務省通知と法律で一定の歯止めをかける提案をしましたが、菅さんは『通知のみでいい』とおっしゃいました。」
当時、平嶋さんは総務省の自治税務局長だったが、菅官房長官に異を唱えたため、その8カ月後に自治大学校長に異例の転出となった。旧自治官僚や総務官僚の間では驚きをもって受け止められた。
平嶋さんは続けて語る。
「こうした『異例人事』は私だけではありません。だから、いまの霞が関はすっかり萎縮しています。官邸が進めようとする政策の問題点を指摘すれば、『官邸からにらまれる』『人事で飛ばされる』と多くの役人は恐怖を感じている。どの省庁も、政策の問題点や課題を官邸に上げようとしなくなっています。」
菅氏の言動を「まっとうな意見。あるべき行政の姿」と見る人もいるが、「抵抗したら干される」と恐怖を抱く官僚も数多くいる。
実際に安倍政権では、官邸への忖度が常態化し、文書の改ざんや情報の隠ぺいという深刻な問題が発生した。不正を働いても意向に沿う官僚は出世し、上からの指示を受けてまじめに作業した現場の職員は自殺に追い込まれた。
「自助・共助・公助、そして絆」 これは人生の成功者・強者の言葉である
自民党総裁選挙に立候補した3候補は8日、所信演説会でそれぞれの政策を訴えた。菅氏は、その中で、
「私の原点について少しだけお話をさせて頂きたいと思います。雪深い秋田の農家の長男として生まれ、地元で高校まで卒業いたしました。卒業後、すぐに農家を継ぐことに抵抗を感じ、就職のために東京に出てきました。町工場で働き始めましたが、・・・」
と自分の生い立ちを話し、最後の方で、
「私が目指す社会像というのは、まずは『自助・共助・公助、そして絆』であると考えております。自分でできることはまず自分でやってみる。そして家族、地域でお互いに助け合う。その上で、政府が責任を持って対応する。そうした国民の皆さまから信頼される政府を目指したいと思っています。」
と訴えた。
14日の両院議員総会で自民党総裁に選出された後、菅新総裁は挨拶し、「私の目指す社会像というのは、『自助・共助・公助、そして絆』であります。」と、再度語った。
第99代内閣総理大臣に決定した16日の官邸での記者会見でも、
「私が目指す社会像、それは、自助・共助・公助、そして絆であります。まずは自分でやってみる。そして家族、地域でお互いに助け合う。その上で政府がセーフティーネットでお守りをする。こうした国民から信頼される政府を目指していきたいと思います。」
と話した。
以上の発言の中で、2つの問題点を指摘したい。
政治は「自助・共助・公助、そして絆」を国民に押し付けるべきでない
「自助、共助、公助」、この言葉が広く知られる切っ掛けとなったのは、1995年の阪神・淡路大震災だ。阪神・淡路大震災では、7割弱が家族も含む「自助」、3割が隣人等の「共助」により救出されており、「公助」である救助隊による救出は数%に過ぎなかった。
突発の大災害に対処するためには、事前に国や自治体が対策を強化するが、それだけでは不十分であり、国民一人ひとりが日ごろから防災・減災意識を高め、日ごろから災害に備え、いざ災害時には具体的な行動を的確に起こすことが重要である。
また、災害発生から自治体や自衛隊の救援活動が入るまでの間は、自助と共助で生き延びなければならない。そのことが後の公助につながる。
それが「自助・共助・公助」の意味である。それを拡大解釈し、国家の在り方、望ましい社会像として掲げるのは間違っている。
菅総理は、「自助・共助・公助、そして絆」と並べているが、「まず自分で出来ることは自分でやってみる」と「自助」の必要性を強調している。菅総理の目には、われわれ国民は努力しないで怠けていると映っているのだろう。
必至で頑張ってもその日を生きるのが精いっぱいの非正規労働者や一人親家庭。コロナ禍でアルバイトが出来ず、無念にも大学を中退せざるを得ない学生。少ない年金で不安な生活を送る独居老人・・。このような人にも自助を強要するのか。
そもそも政府は公助のために存在する。国のトップが「まずは自助」を強調するのは、国はなすべきことを放棄している。そのような社会では強い者は生き延びることが出来ても、力のない者は滅ばざるを得ない。
雪深い秋田の農家の生まれ、地縁・血縁のないゼロからのスタート これは危険な成功物語
もう一つの問題は、努力による成功物語、努力信仰である。
菅氏は自民党総裁選挙で、
「雪深い秋田の農家の長男として生まれ、地元で高校まで卒業いたしました。卒業後、・・・まさに地縁、血縁のないゼロからのスタートでありました。・・・50数年前、上京した際に、今日の自分の姿とはまったく想像することも出来ませんでした。私のような普通の人間でも努力をすれば総理大臣を目指すことができる。まさにこれが日本の民主主義じゃないでしょうか。」
と述べ、支持を訴えた。
秋田の田舎から東京に出て、何の地縁、血縁のない政界で、努力して総理にまで上り詰めた、これはたいへん素晴らしいサクセスストーリーである。しかし、聞きようによっては大変危険な話である。
多くの国民は未来に夢を描いて努力を重ねても、実際に成功を手にする人は少ない。成功できなかった人や生活困窮者は、本人が努力しなかったからか。挫折し失望し彷徨う人に、あなたはまだ苦労が足りない、まだ努力が足りないと言うのか。
「自助を強調する」ことや「努力すれば成功する」という言葉は、強者や成功者が発する言葉である。第三者が、総理は苦労し努力して総理になったと褒めるのは良いが、本人自らが地縁・血縁のない中で成功したと話すのは如何なものか。菅総理は、強い者が成功することを推奨する新自由主義の思想を強くお持ちのようだ。菅総理が掲げる社会像は、弱者には今以上に厳しい社会である。
菅内閣の規制改革に期待すること、危険なこと
菅総理は16日の記者会見で、
「行政の縦割り、既得権益、そして悪しき前例主義、こうしたものを打ち破って、規制改革を全力で進めます。国民のためになる、ために働く内閣をつくります。」
と述べ、続いて記者からの質問に対して、
「7年8か月の官房長官を務める中で、なかなか進まない政策課題というのは、大体役所の縦割りや前例主義、これが壁になって出来なかったのです。・・河野太郎大臣というのは、党の行政改革もやっていましたので、それで任命を致しました。・・私自身がこの規制改革というのをこの政権のど真ん中に置いていますから、これは大臣と総理とで、これはしっかりやって行きたい、このように思っています。」
と答弁した。規制改革を政権のど真ん中に置いていると明言した。
河野大臣に、「国民の側から見た規制改革」を期待する
河野太郎氏と言えば、事前に官房長官として噂されていたが、総理は、目立ちたがり屋の河野氏では危ないと判断したのか、官房長官には手堅い加藤勝信氏を任命し、河野氏には大胆さと突破力、発信力を期待して、行政改革、規制改革を担当する大臣に任命した。
新内閣発足時、各閣僚が官邸で順番に就任会見をしたが、順番が深夜1時頃となった河野大臣は、
「この記者会見も各省に大臣が散ってやりゃあ、もう今頃みんな終わって寝てますよね。それを延々、ここでやるというのは前例主義、既得権、権威主義の最たるものだと思いますので、こんなものさっさとやめたらいいと思います。」
と、早速切って捨てた。
また、総理から指示のあった「縦割り110番」は、翌17日に河野氏の個人サイトに開設した。18日には通報や相談、激励メッセージが4000件を超え処理能力がオーバーしそうなので、募集を一旦停止した。
慣例や既得権益にとらわれず、スピード感を持って実行する河野大臣には大いに期待したいが、規制改革は何でも良いわけではない。大臣が17日の会見で、「国民の側から見て、如何に価値をつくるかということから必要な規制改革をやりたい」と述べたように、あくまでも国民の側から見て必要な規制改革を実行して頂きたい。
国民の安全と安心を切り捨て、強者がより強くなる危険な改革
「聖域なき構造改革」、「改革なくして成長なし」。この言葉を叫んだのは、郵政民営化を断行した小泉純一郎元総理である。2001年~06年の5年5か月の在任期間中、国民は彼の劇場型政治に踊らされ高い支持を示したが、現実の社会では格差が拡大し、パート、アルバイト、派遣社員など非正規労働者が雇用者全体の約3人に1人にまで急増していった。
竹中平蔵氏は、小泉内閣で民間人として、経済財政政策担当大臣、IT担当大臣、金融担当大臣を務め、2004年第20回参議院議員通常選挙で自民党比例当選の参議院議員となり、経済財政政策担当大臣、郵政民営化担当大臣に就任した。2005年10月、第3次小泉改造内閣においては総務大臣兼郵政民営化担当大臣に就任した。
竹中氏が総務大臣の時、菅義偉氏は総務副大臣として竹中大臣を支えた。小泉内閣の後、第1次安倍内閣が誕生したが、菅氏は総務大臣(2006年9月26日~2007年8月27日)に就任した。
規制には、国民の命や健康と日常生活、労働者の安全や処遇を守るため、絶対に必要な規制がある。ところが竹中氏は、労働者の身分を保障する労働法制を緩和し、非正規雇用の適用分野を拡大した。それまで派遣は専門性を有するごく限られた人材にのみ適用されていた。小泉・竹中改革により製造業や一般の職種にまで派遣は拡大された。今では4割が身分不安定で給与も少ない派遣社員となっている。
改革により人材派遣業界、特に業界大手のパソナグループは大儲けすることになり、竹中氏はその取締役会長に就任した。一部の人は竹中氏のことを、「政商」とか「レントシーカー」と呼ぶ。ちなみにレントシーカーとは、政府や役所に働きかけ、法や制度、政策を自らに都合の良いように変更させて、利益を得る者のことをいう。
竹中氏は、第2次以降の安倍内閣においても、産業競争力会議、未来投資会議、国家戦略特別区域諮問会議などのメンバーとして政府に影響力を行使した。
菅内閣は中小企業をつぶす
菅総理に政策的に強い影響力を与えている人物に、竹中平蔵氏の他に、デービッド・アトキンソン氏がいる。
彼は1965年イギリスに生まれ、オックスフォード大学で「日本学」を専攻した。1990年頃に来日し、ゴールド・マンサックス社において金融アナリストを務め、2009年に国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社の社長に就任した。日本の文化財政策や観光政策に関する提言などを積極的に行っている。
現在、菅内閣が進めている中小企業の生産性向上や再編は、デービッド・アトキンソン氏の提案によるものだ。彼は、日本の生産性が低い最大の原因は中小企業だとして、中小企業の大胆な改革を提言している。
彼の考えが端的にわかる記事を引用しよう。
「日本では、全企業の99.7%が中小企業です。これらの中小企業をひとくくりにして『日本の宝だ』というのは、究極の暴論です。冷静な目で見ると、中小企業は日本という国にとって、宝でもなんでもありません。宝なのは、大企業と中堅企業です。
特別な理由がないかぎり、小規模事業者や中小企業に『宝』と言えるような価値はありません。将来、中堅企業や大企業に成長する通過点としてのみ、価値があると言えます。永遠に成長しない中小企業は、国の宝どころか、負担でしかないのです。」
引用:「日本は生産性が低い」最大の原因は中小企業だ――誰も言い出さない「生産性の衝撃的な本質」 デービッド・アトキンソン(小西美術工藝社社長) 『東洋経済』2020.03.27 5:00
彼によると、日本の中小企業は「国の宝どころか、負担でしかない」とのことだ。菅内閣はデービッド・アトキンソン氏の考えに沿って、現在、中小企業の再編を進めている。中小企業の半数は倒産や閉鎖に追い込まれると言われている。
デジタル庁の発足に、期待すること、覚悟すること
今年、世界はコロナ禍に襲われ、日本では新型コロナ対策を巡って、数々の問題が浮き彫りになった。その一つが、デジタル化の遅れである。
代表的なものは、国民全員に一律10万円給付をオンライン申請した場合の混乱である。政府が用意した「マイナポータル」サイトに記入し申請すると、それが自治体で保有する住民基本台帳と紐づいていないため、目視で照合するという作業が必要となった。記入ミスや記入漏れがあり、照合にかなりの時間を要することとなり、一部の自治体では途中でオンライン申請を停止した。
もう一つは、PCR検査の報告体制である。医療機関はPCR検査の実施件数や結果を毎日、用紙に手書きし、それを保健所にFAXで送信する。保健所では各医療機関から受信したデータを集計し用紙に記載して、都道府県にFAXで報告していた。アナログ大活躍である。
デジタル後進国・日本、デジタル庁創設に向けて動き出す
新型コロナ対策で、日本の行政がデジタル化に如何に遅れているかの実態が明らかになった。
菅氏は、デジタル化の推進に向けデジタル庁の創設を、自民党総裁選挙における自身の目玉政策の一つとして掲げた。そして菅内閣が誕生するや、関係閣僚に早期の実現を命じた。
担当大臣は、自民党きってのIT通議員、平井卓也氏である。デジタル改革担当、情報通信技術(IT)政策担当、内閣府特命担当大臣(マイナンバー制度)の任に就いた。
ITは各省庁にまたがっているため、デジタル庁の創設は縦割りの弊害を打破しなければならない。規制改革担当の河野大臣の出番である。
政府は早速23日に、デジタル改革に関する関係閣僚会議を開いた。総理は冒頭の挨拶で、
「この新たな組織(デジタル庁)の創設により、
国、自治体のシステムの統一・標準化を行うこと、
マイナンバーカードの普及促進を一気呵成に進め、
各種給付の迅速化やスマホによる行政手続きのオンライン化を行うこと、
民間や準公共部門のデジタル化を支援するとともに、
オンライン診療やデジタル教育などの規制緩和を行うこと
など、国民が当たり前に望んでいるサービスを実現し、デジタル化の利便性を実感できる社会をつくって行きたいと考えます。」
と述べ、「年末には基本方針を定め、次の通常国会に必要な法案を提出したい」と明言した。
デジタル庁創設は、菅内閣の目玉政策の一つであり、総理の意気込みが伝わる。しかし、簡単ではない。立ちはだかる困難、デジタル化に潜む問題点、国民の覚悟、変わらなければならない政府の姿勢などについて、次に述べてみたい。
行政の縦割りを打破できるか
2000年9月、森喜朗総理は所信表明演説で「Eジャパンの構想」を打ち上げた。
「私は、20世紀最後のこの国会を、21世紀の日本新生の礎を築く重要な国会にしたいと考えております。・・・日本新生の最も重要な柱はIT戦略、いわばEジャパンの構想であります。日本型IT社会の実現こそが、21世紀という時代に合った豊かな国民生活の実現と我が国の競争力の強化を実現するための鍵であるからであります。人類は、そして我々日本人は、IT革命という歴史的な機会と正面から取り組む決意が必要であります。」(第150回臨時国会、衆参本会議、2000年9月21日)
同年11月27日に開かれた「IT戦略会議」において、
「我が国のIT革命への取り組みは大きな遅れをとっている。インターネットの普及率は、主要国の中で最低レベルにあり、アジア・太平洋地域においても決して先進国であるとはいえない。」
と、日本が諸外国と比べてIT化に遅れているとの認識を示した。
それ以降、政府はデジタル化推進に力を投入して来たはずだが、この度のコロナ禍対策で明らかになったように、国民が医療、福祉、教育などの分野や日常生活の面でデジタル化の利便性を十分に享受できる状況にはなっていない。
どこに問題があったのか。国民性に一因があるかも知れないが、最大の抵抗要因は、省庁の縦割り行政と、省庁と族議員と特定の業界の既得権益にあると考える。
これまで情報化推進の旗振りをして来たのは、内閣官房の情報通信技術総合戦略室、経済産業省、総務省であり、その他の省庁でも独自に情報化を進めている。
例えば、警察庁では、道路を走行する車両の速度違反を自動的に記録・取り締まるオービス(ORBIS)、車のナンバープレートを自動で読み取り犯罪捜査に活用するNシステム、街頭に設置した防犯カメラなど、さらに人工知能(AI)やビッグデータを活用する動きを本格化させている。
各部局は、それぞれのシステムを持っており、それぞれに大手IT企業群がくっつき利権構造をつくっている。
新しく創設されるデジタル庁は、これらの利権構造と密着している既存の部局をどのように統合するのか、容易ではない。
既得権益にメスを入れると、族議員から猛反発を受ける
統合における困難の一つは、システムの標準化、共用化の技術面にある。複数の銀行が統合された時、それぞれのシステムをスムーズに統合することが出来ず、しばしば不具合を起こし、利用者は迷惑を被った。
既存の利権構造にメスが入る場合は、もっと深刻である。省庁、業界、族議員がもっともらしい理由を並び立てて抵抗すること間違いない。
消費税10%への引き上げに際しても、新聞には食料品と同様に軽減税率を適用し8%に据え置いたから出来たのであって、10%に引き上げたのなら、大手新聞界が先頭に立って増税反対キャンペーンを大々的に展開したに違いない。据え置きの理由は、「ニュースや知識を得るための負担を減らすため」「活字文化の維持、普及にとって不可欠」、ということだそうだ。
菅内閣は、細田派、麻生派、竹下派、二階派、石原派の自民党5大派閥の支持を得て誕生した。菅総理は無派閥なので自身の基盤は極めて弱い。各派閥に絡んだ利権構造にメスを入れた途端、強大な抵抗にあう。
かつて菅氏が自民党選挙対策副委員長だった2009年、次期衆議院選挙に関して、自民党も身を切っていると思われないと選挙には勝てないとして、「3親等以内の親族らの同一選挙区からの立候補を禁ずる」という「世襲制限」を挙げた。
しかし案の定、自民党内に多数存在する世襲議員から猛烈な反発や抵抗を受け、世襲制限はその後なし崩し的に消えてしまった。
この度はどこまで既得権益に踏み込めるか、菅内閣の力量が問われる。
セキュリティ対策は大丈夫か
これまで人類の歴史は、科学技術の発展に伴って社会を大きく進歩させて来た。
18世紀には石炭燃料を用いた軽工業の機械化による第1次産業革命、19世紀半ばから20世紀初頭にかけて石油や電気を用いた重工業の機械化・大量生産化による第2次産業革命、1970年に入るとコンピュータとロボット技術が製造工程に加わり単純作業の自動化が進んだ第3次産業革命、2010年からは車や家電製品や住宅やロボットなどモノがインターネットと繋がったIoT(Internet of Things)やビッグデータや人工知能(AI)により知的活動の自動化を進める第4次産業革命へと発展してきた。
さらに、第4次産業革命と最新のバイオテクノロジーが融合することにより、健康・医療、工業、エネルギー、農業の分野にまで大きなパラダイムシフトが起こることが予想されている。経済産業省は「スマートセルインダストリー(Smart cell industry)」と呼んでいる。
産業界のデジタル化の進展に比べて、日本社会のデジタル化は相当遅れている。社会のデジタル化が進めば、利用者の利便性が高まり、行政の効率化が期待でき、企業にとっては生産性の向上と消費者へ多様なサービス提供が可能となる。
しかし、当然、良いこと尽くめではない。
まず警戒すべきことは、セキュリティの問題である。
操作がオンラインで可能になると、利用者にとって便利な反面、不正アクセスによる被害発生の可能性が高くなる。最近ニュースを賑わしている「ドコモ口座」や「ゆうちょ銀行」の事件はほんの一例に過ぎない。サービスを提供する側は、最低限でも二段階認証とすべきだが、これでも安全が100%保証される訳ではない。
サイバー攻撃により機密情報が抜き取られたり、仮想通貨が盗まれたり、工場のラインや病院業務に支障を来した例もある。
マルウェア(ウイルス、ワーム、トロイの木馬)、フィッシング詐欺、個人情報の漏洩などに細心の注意と対策が必要だ。
万が一、システムがダウンした時は?
あまり指摘されていないが、デジタル化が進んだ社会において、万が一にもシステムがダウンした場合、その社会がどうなるかを事前に予測し事前に対策を講じておく必要がある。
例えば、昨年秋、台風が関東地方や東北地方を直撃し、広範囲にわたって停電が発生した。普段は非常に便利なオール電化の住宅は調理が出来ず、タワーマンションはエレベーターが動かない。スマホの基地局が作動せず、連絡が出来ない。
これは電力供給がダウンした場合だが、デジタル化が日常生活の隅々まで普及した社会においては、デジタルシステムのダウンはもっと深刻になる。人間に例えると、大雑把に言えば、電力供給は食料・エネルギー供給、デジタル網は神経網に該当する。神経系統に損傷が生じた場合、人体はどうなるか。
高齢者は使いこなせるか、新たな格差が生まれる
デジタル化は高齢者にも利便性を提供する。
高齢者の健康状態をインターネットで家族や医師と共有する、祖父母が遠く離れた子供や孫とSNSで画像を見ながら会話する、ネットで仲間とコミュニケーションしたり動画配信して社会参加する。使いこなすとこのような楽しい日常が待っている。
しかし、多くの高齢者はデジタル化について行けない。スマホキャリアの代理店やNPOが高齢者向けにセミナーを開いているが、今さら新しい技術を習得するのは億劫だし、挑戦しても果たしてどこまで理解できるか。デジタル化に取り残される国民は一定数は残ってしまう。そして、デジタル格差が生まれる。
デジタル化の推進と並行して、デジタル弱者に対するきめ細やかな対応が欠かせない。
マイナンバーカードの普及の前提は、政府が情報公開と説明責任を果たすこと
菅総理は9月16日の就任会見で、
「行政のデジタル化のカギはマイナンバーカードです。」
と述べ、25日の第3回マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループの会合で、
「デジタル社会に不可欠なマイナンバーカードについては、ようやく普及率が2割を超えました。今から2年半後の令和4年度末には、ほぼ全国民に行き渡ることを目指し、普及策を加速してまいります。・・・来年3月から始まるマイナンバーカードの健康保険証利用について、利用が加速されるように取り組んでまいります。・・・令和7年度末までに必要なデジタル・トランスフォーメーションを完成するための工程表を、・・・このワーキンググループで策定していく、このように思います。」
と、工程表を明言した。
総理はデジタル化の要はマイナンバーカードの普及であるとの認識を示し、政府はマイナンバーカードと健康保険証や運転免許証との一体運用や、預貯金口座の紐づけをすでに検討している。
マイナンバー制度の普及は、メリットとして個人情報の一元管理による事務手続きの簡素化や事務コストの削減などが考えられるが、デメリットも十分に理解する必要がある。
デメリットの一つは、個人情報流出の懸念だ。個人の様々な情報が一つのカード或いは一つのナンバーで集約されていると、それが第三者に流れた場合、金銭面やプライバシー面で大きな被害に遭う危険性が高い。
また、税務署は将来的にはすべての資産をマイナンバーに紐づけることを目指すので、簡単に名寄せされ、全財産が正確に把握されてしまう。
さらに問題は、個人情報が自治体や政府に管理されることである。政府にとって不都合な人物が恣意的にマークされないか。国民の情報を管理する政府や自治体こそ、率先して情報公開を行い、説明責任を果たすべきである。
森友学園問題、加計学園問題、桜を見る会問題、検察幹部定年延長問題、カジノ汚職事件、河井夫妻による買収事件など、前内閣は数々の疑惑にまみれていたが、当時の菅官房長官は、「全く問題ない」「適切に対応している」「その指摘は当たらない」などと発言し、一向に説明責任を果たそうとしなかった。
総理に就任した後も、「関係者は処分され、結論は出ている」として、疑惑の再調査には否定的だ。
国民の情報を一元管理する前に、政府こそ疑惑を積極的に解明し、国民にオープンでクリーンな姿を示し、国民から信頼を得るべきである。そうでなければ、国民は自分の情報を政府に委ねることが出来ない。
法務と警察を牛耳る
政権を安定させ維持するために大事なことは、法務と警察を掌握することである。
検察は、ロッキード事件で田中角栄元総理を、東京佐川急便事件で金丸信元自民党副総裁を逮捕した。検察を敵に回すと、絶大な権力を持つ者であっても逮捕され失脚させられてしまう。
時には無実の人間に対しても罪状をでっちあげる。厚生労働省雇用均等・児童家庭局長村木厚子氏(肩書は当時)は、郵便不正に絡む厚生労働省の偽証明書発行事件で逮捕された。後に裁判で無罪となり、冤罪であることが判明した。
官邸の守護神、黒川弘務氏の異例人事
逆に、法務・検察を味方にすれば、内閣が吹っ飛ぶような疑惑でさえ無罪放免になる。長期に及んだ安倍内閣が起こした数々の疑惑、その大半は疑惑が解明されないまま今日に至った。それらをもみ消したのが黒川弘務氏と見られている。
彼は東大法学部卒業後、1983年に検事任官。東京、新潟、名古屋、青森などの地検勤務を経て、法務省に異動した。2011年8月に、法務・検察と政界の折衝役である官房長に就任した。2012年12月、第2次安倍内閣発足時に菅官房長官の信頼を得、それ以降、官邸とのパイプ役を一手に担った。
黒川氏が、大臣官房長、法務事務次官、東京高等検察庁検事長の任にあった間、確実な証拠はないが、もみ消したとされる疑惑に、甘利明元TPP担当大臣のあっせん利得処罰法違反、松島みどり元法務大臣の公職選挙法違反、小渕優子元経産大臣の政治資金規正法違反、佐川宣寿元理財局長の公文書管理法違反、菅原一秀元経産大臣の公職選挙法違反、そして安倍総理の森友・加計・桜疑惑がある。
彼は「官邸の守護神」と呼ばれ、安倍内閣は黒川氏を検事総長の座に就かせるため、従来の慣例を破り、黒川氏の定年を半年延長する閣議決定を行った。しかしその後、週刊文春が、新型コロナ感染に伴う緊急事態宣言中に新聞記者と賭けマージャンした疑惑を報じたため、辞職に追い込まれた。
「鉄の意志」を持つ上川陽子氏を法務大臣に
官邸が描いた「黒川検事総長」のシナリオは崩れた。検事総長には7月17日、林眞琴氏が就任した。彼は菅内閣の法務大臣に就任した上川陽子氏と特別な関係にある。と言っても、良好な関係ではない。
上川氏は1953年、静岡市生まれる。東京大学(国際関係論)を卒業後、三菱総合研究所研究員を経て、ハーバード大学ケネディスクールで政治行政学修士号を取得した。
第1次安倍改造内閣と福田内閣で少子化担当大臣を務め、第2次安倍内閣以降では、2014年に法務大臣(第95代、96代)に就任し、2017年にも法務大臣(第99代、第100代)に起用された。
彼女が法務大臣として目指していた「国際仲裁センター」の日本誘致をめぐる計画に、当時の林刑事局長が真っ向から反対した。そのため、上川氏は林氏を法務事務次官に就任させる人事を承諾せず、名古屋高検検事長に転出させる人事を決めた(2017年12月26日、閣議決定)。
菅総理は法務大臣に上川氏を就任させたが、その理由は、法務大臣として豊かな経験をもつ人物を任命し内閣運営を無難に乗り切るためではない。菅側近の河井克行元法務大臣と菅氏肝いりで擁立し応援した河井案里議員を、公職選挙法違反の罪で逮捕した特捜部の政界捜査ににらみを利かせるためである。
自民党本部が参議院選挙前に河井陣営に送金した計1億5000万円、安倍前総理の森友・加計・桜問題など、疑惑は残ったままだ。にらみが弱くなると、特捜部の手が入る。そこで総理は、「鉄の意志」を持つ上川氏を法務大臣に任命した。
彼女は、自身に反対した林氏を地方に飛ばし、オウム真理教事件で死刑が確定した教祖をはじめ死刑囚13人の死刑執行を命じた人物である。
また、警察を押さえるため、国家公安委員長には小此木八郎氏を任命した。彼は、菅総理がかつて秘書として仕えた小此木彦三郎氏の三男で、彼とは秘書時代を共にした間柄だ。
このように菅総理は、法務と警察を掌握するため、気心の知れた2人を就けた。
国民は目を覚まそう !!
菅総理は「国民のために働く内閣」という。そして国民は菅総理のことを「田舎から出て来た苦労人」「優しい令和おじさん」「実はシャイでパンケーキ好き」と思っている。しかし、時間が経てばその実態が明らかになる。
彼は決して優しいおじさんではない。安倍前内閣の時、大手マスコミに圧力を加え、内閣に反対するコメンテータの首を切ったのは、当時の総理と官房長官である。また、官房長官は従わない役人を有無も言わせず異動させ、恐怖と忖度の政治を行ったのである。
菅総理の目指す規制改革は、国民生活を豊かにする改革ではない。竹中平蔵氏が指導する、弱者切り捨ての改革である。すでに、日本企業の99.7%を占め、全労働者の7割が働く中小企業の再編、再編と言えば響きは良いが、実態は体力の弱い中小企業の切り捨てに着手している。
菅総理出身大学の総長が声明、任命拒否は「学問の自由に違反」
いよいよ本性がバレてきた菅総理 自分に不都合な人物は消す
菅内閣、露骨な言論統制。この度は学問の世界に政治介入して来た
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