安倍総理が語ったすべての施政方針演説 簡潔に紹介

桜 政治・経済

日本の憲政史上、最長を記録した安倍内閣。2020年9月16日をもって終止符が打たれました。第1次安倍内閣を含めて、通常国会で行った施政方針演説は9回に及びます。

全体に共通することは、「はじめに」と「おわりに(むすび)」の箇所に、故人、一部生存中の人もおられますが、その人のエピソードや言葉を引用していることです。もう一つは、演説の途中に記された見出し(これは読まれません)が、いずれもキャッチコピーとして威勢の良い文言が並んでいます。実際にどの程度実現したかは別にして、安倍内閣は次々にスローガンを掲げました。

安倍内閣時代全体を見通すために、施政方針演説の「はじめに」と「おわりに」の抜粋、及び「中見出し」を抽出しました。そして、短く解説を添えました。

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安倍晋三総理大臣 施政方針演説

「美しい国、日本」の実現  第166回国会(2007年1月26日)

施政方針演説

(はじめに)
私は、日本を、21世紀の国際社会において新たな模範となる国にしたいと考えます。
そのためには、終戦後の焼け跡から出発して、先輩方が築き上げてきた、輝かしい戦後の日本の成功モデルに安住してはなりません。憲法を頂点とした、行政システム、教育、経済、雇用、国と地方の関係、外交・安全保障などの基本的枠組みの多くが、21世紀の時代の大きな変化についていけなくなっていることは、もはや明らかです。我々が直面している様々な変化は、私が生まれ育った時代、すなわち、テレビ、冷蔵庫、洗濯機が三種の神器ともてはやされていた時代にはおよそ想像もつかなかったものばかりです。
今こそ、これらの戦後レジームを、原点にさかのぼって大胆に見直し、新たな船出をすべきときが来ています。「美しい国、日本」の実現に向けて、次の50年、100年の時代の荒波に耐えうる新たな国家像を描いていくことこそが私の使命であります。

(むすび)
「未来は開かれている」との信念の下、今年を「美しい国創り元年」と位置付け、私は自ら先頭に立って、明日に向かってチャレンジする勇気ある人々とともに、様々な改革の実現に向け、全身全霊を傾けて、たじろぐことなく、進んでいく覚悟であります。
福沢諭吉は、士の気風とは、「出来難き事を好んで之を勤るの心」と述べています。困難なことをひるまずに、前向きに取り組む心、この心こそ、明治維新から近代日本をつくっていったのではないでしょうか。
日本と自らの可能性を信じ、ともに未来を切り拓いていこうではありませんか。

中見出し

はじめに
成長力強化
「チャンスにあふれ、何度でもチャレンジが可能な社会」の構築
魅力ある地方の創出
国と地方の行財政改革の推進
教育再生
「健全で安心できる社会」の実現
主張する外交
むすび

解 説

「戦後レジームを大胆に見直し、『美しい国、日本』の実現に向けて、次の50年、100年の時代の荒波に耐え得る新たな国家像を描くことが私の使命だ」とした上で、「新しい国創りに向け、国の姿、形を語る憲法改正の議論を深めるべきだ」と訴えた。
「美しい国づくり」プロジェクトを発表したものの、2回の企画会議が行われた後は立ち消えた。

「強い経済」を取り戻す  第183回国会(2013年2月28日)

施政方針演説

(はじめに)
「強い日本」。それを創るのは、他の誰でもありません。私たち自身です。
「一身独立して一国独立する」
私たち自身が、誰かに寄り掛かる心を捨て、それぞれの持ち場で、自ら運命を切り拓こうという意志を持たない限り、私たちの未来は開けません。
日本は、今、いくつもの難しい課題を抱えています。しかし、くじけてはいけない。諦めてはいけません。
私たち一人ひとりが、自ら立って前を向き、未来は明るいと信じて前進することが、私たちの次の、そのまた次の世代の日本人に、立派な国、強い国を残す唯一の道であります。
「苦楽を与(とも)にするに若(し)かざるなり」
一身の独立を唱えた福沢諭吉も、自立した個人を基礎としつつ、国民も、国家も、苦楽を共にすべきだと述べています。
「共助」や「公助」の精神は、単に可哀想な人を救うことではありません。
懸命に生きる人同士が、苦楽を共にする仲間だからこそ、何かあれば助け合う。そのような精神であると考えます。

(おわりに)
江戸時代の高名な学者である貝原益軒は、牡丹の花を大切に育てていました。ある日、外に出ていた間に、留守番の若者が、その花を折ってしまいました。怒られるのではないか、と心配する若者に対して、益軒は、こう述べて許したと言います。
「自分が牡丹を植えたのは、楽しむためで、怒るためではない。」
「何のため」に牡丹を植えたのか、という初心を常に忘れず、そこに立ち戻ることによって、寛大な心を持つことができた益軒。
私は、この議場にいる全ての国会議員の皆さんに、呼び掛けたいと思います。
我々は、「何のため」に、国会議員を志したのか。
それは、「この国を良くしたい」、「国民のために力を尽くしたい」、との思いからであって、間違っても、政局に明け暮れたり、足の引っ張り合いをするためではなかったはずです。
全ては国家、国民のため、互いに寛容の心を持って、建設的な議論を行い、結果を出していくことが、私たち国会議員に課せられた使命であります。

中見出し

はじめに
被災者の皆さんの強い自立心と復興の加速化
経済成長を成し遂げる意志と勇気
・世界のフロンティアへ羽ばたく
・日本が世界の成長センターになる
・世界一を目指す気概
・家計のための経済成長
世界一安全・安心な国
暮らしの不安に一つひとつ対応する政治
・子どもたちが主役の教育再生
・子育て・介護を支える社会
・女性が輝く日本
・誰もが再チャレンジできる社会
・持続可能な社会保障制度の構築
原則に基づく外交・安全保障
今、そこにある危機
おわりに

解 説

通常国会が開幕し、安倍首相が再登板して初めての所信表明演説にのぞんだ。経済再生を「最大かつ喫緊の課題」と位置付け、デフレ脱却と円高是正によって「強い経済」を取り戻すとの決意を示し、「大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の『三本の矢』で経済再生を進める」と改めて表明した。

演説の中で、「世界で一番企業が活躍しやすい国」を目指すなどの言葉が繰り返された。「デフレ不況」の打開に肝心なのは国民の所得を増やすことだが、総理は産業界の要請を優先した。

すべての女性が、輝く日本  第186回国会(2014年1月24日)

施政方針演説

(はじめに)
「何事も、達成するまでは、不可能に思えるものである。」
ネルソン・マンデラ元大統領の偉大な足跡は、私たちを勇気づけてくれます。誰もが不可能だと諦めかけていたアパルトヘイトの撤廃を、その不屈の精神で成し遂げました。
「不可能だ」と諦める心を打ち捨て、わずかでも「可能性」を信じて、行動を起こす。一人ひとりが、自信を持って、それぞれの持ち場で頑張ることが、世の中を変える大きな力になると信じます。
かつて日本は、東京五輪の一九六四年を目指し、大きく生まれ変わりました。新幹線、首都高速、ゴミのない美しい街並み。
やれば、できる。二〇二〇年の東京オリンピック・パラリンピック。その舞台は東京にとどまらず、北海道から沖縄まで、日本全体の祭典であります。
二〇二〇年、そしてその先の未来を見据えながら、日本が新しく生まれ変わる、大きなきっかけとしなければなりません。その思いを胸に、日本の中に眠る、ありとあらゆる「可能性」を開花させることが、安倍内閣の新たな国づくりです。

(おわりに)
アフリカの人々のため。八十七年前、アフリカに渡った一人の日本人がいました。野口英世博士です。
「志を得ざれば再び此(この)地を踏まず」
故郷・福島から世界に羽ばたき、黄熱病研究のため周囲の反対を押し切ってガーナに渡り、そしてその地で黄熱病により殉職。人生の最期の瞬間まで、医学に対する熱い初心を貫きました。
我々が国会議員となったのも、「志を得る」ため。「この国を良くしたい」、「国民のために力を尽くしたい」との思いからであったはずです。改めて申し上げます。
全ては国家、国民のため、互いに寛容の心を持って、建設的な議論を行い、結果を出していくことが、私たち国会議員に課せられた使命であります。

中見出し

はじめに
創造と可能性の地・東北
経済の好循環
・この道しかない
・好循環実現国会
・財政健全化
社会保障の強化
あらゆる人にチャンスを創る
・女性が輝く日本
・若者を伸ばす教育再生
オープンな世界で日本の可能性を活かす
・日本を売り込む
・アジアの架け橋
イノベーションによって新たな可能性を創りだす
・中小・小規模事業者の底力
・成長分野の可能性を引き出す
地方が持つ大いなる可能性を開花させる
・農政の大改革
・元気な地方を創る
・観光立国
安心を取り戻す
積極的平和主義
地球儀を俯瞰する視点でのトップ外交
おわりに

解 説

「やれば、できる」。総理はこの言葉を4回繰り返した。日本経済が「長く続いたデフレで失われた『自信』を取り戻しつつある」と指摘し、「消費の増加を通じて、さらなる景気回復につながる。『経済の好循環』なくしてデフレ脱却はない」として、「この道しかない」と呼びかけた。

総理は、「女性が活躍できる社会を創るのが、安倍内閣の成長戦略の中核だ」 「国家公務員の採用は再来年度から全体で3割以上を女性にする」 と語った。さらに、成長戦略として医療や農業、 観光分野などの規制緩和を推し進めていく考えを示した。

また、世界平和と安定への一層の貢献をうたう「積極的平和主義」を外交、安全保障政策の「基本思想」と位置づけ、集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈の変更について「対応を検討する」と表明した。

「改革断行」を強調  第189回国会(2015年2月12日)

施政方針演説

(はじめに)
明治国家の礎を築いた岩倉具視は、近代化が進んだ欧米列強の姿を目の当たりにした後、このように述べています。
「日本は小さい国かもしれないが、国民みんなが心を一つにして、国力を盛んにするならば、世界で活躍する国になることも決して困難ではない。」
明治の日本人に出来て、今の日本人に出来ない訳はありません。今こそ、国民と共に、この道を、前に向かって、再び歩み出す時です。皆さん、「戦後以来の大改革」に、力強く踏み出そうではありませんか。

(おわりに)
「日本国民よ、自信を持て」
戦後復興の礎を築いた吉田茂元総理の言葉であります。
昭和の日本人に出来て、今の日本人に出来ない訳はありません。私は、この議場にいる全ての国会議員の皆さんに、再度、呼び掛けたいと思います。・・・
そして、日本の未来を切り拓く。そのために、「戦後以来の大改革」を、この国会で必ずや成し遂げようではありませんか。

中見出し

戦後以来の大改革
改革断行
・農家の視点に立った農政改革
・オープンな世界を見据えた改革
・患者本位の医療改革
・エネルギー市場改革
・改革推進のための行政改革
・改革断行国会
経済再生と社会保障改革
・経済の好循環
・社会保障の充実
誰にでもチャンスに満ち溢れた日本
・女性が輝く社会
・柔軟かつ多様な働き方
・若者の活躍
・子どもたちのための教育再生
地方創生
・地方にこそチャンス
・地方目線の行財政改革
・安心なまちづくり
外交・安全保障の立て直し
・平和国家としての歩み
・戦後七十年の「積極的平和主義」
・地球儀を俯瞰する外交
二〇二〇年の日本
・東日本大震災からの復興
・オリンピック・パラリンピック
・日本は変えられる

解 説

成長戦略実行に向け「この国会に求められていることは『改革の断行』だ」と強調し、戦後以来の大改革として経済再生、東日本大震災からの復興、社会保障改革、教育再生、地方創生、女性活躍、外交・安全保障の立て直しに取り組むと訴えた。

経済再生の目玉として全国農業協同組合中央会(JA全中)の改革を打ち出し、地域農協主導による農産品のブランド化や海外展開を促すとした。

一億総活躍への挑戦  第190回国会(2016年1月22日)

施政方針演説

(はじめに)
開国か、攘夷か。
百五十年前の日本は、その方針すら決められませんでした。終わらない議論、曖昧な結論、そして責任の回避。滅び行く徳川幕府を見て、小栗上野介は、こう嘆きました。
「一言以て国を亡ぼすべきものありや、
どうかなろうと云う一言、これなり
幕府が滅亡したるはこの一言なり」
国民から負託を受けた私たち国会議員は、「どうにかなる」ではいけません。自分たちの手で「どうにかする」。現実を直視し、解決策を示し、そして実行する。その大きな責任があります。
経済成長、少子高齢化、厳しさを増す安全保障環境。この国会に求められていることは、こうした懸案に真正面から「挑戦」する。答えを出すことであります。

(おわりに)
「挑戦」
日本で初めての孤児院を設立した石井十次は、児童福祉への「挑戦」に、その一身を捧げました。たくさんの子どもたちを、立派に育て上げ、社会へと送り出しました。
孤児がいれば救済する。天災の度に子どもの数は増えていきました。食べ物が底を尽き、何度も困窮しました。コレラが流行し、自らも生死の境を彷徨いました。
しかし、いかなる困難に直面しても、決して諦めなかった。強い信念で、児童福祉への「挑戦」を続けました。
「為せよ、屈するなかれ。時重なればその事必らず成らん」
安倍内閣は、諦めません。目標に向かって、諦めずに進んでいきます。
一億総活躍の未来を拓く。日本と世界の持続的な成長軌道を描く。平和で安定した、より良い世界を築く。安倍内閣は「挑戦」を続けてまいります。

中見出し

はじめに
・未来へ挑戦する国会
・世界経済の新しい成長軌道への挑戦
地方創生への挑戦
・TPPは大きなチャンス
・農政新時代
・中小・小規模事業者、中堅企業の海外展開
・被災地の復興
・地方の創意工夫
・観光立国
一億総活躍への挑戦
・多様な働き方改革
・介護離職ゼロ
・希望出生率一・八
・アベノミクスの果実
・GDP六百兆円
より良い世界への挑戦
・地球儀を俯瞰する外交
・希望の同盟
・積極的平和主義
・世界の中心で輝く日本
おわりに

解 説

総理は一億総活躍社会や経済、地方創生や外交を柱に課題に取り組む姿勢を提示した。一億総活躍社会に関しては「1人ひとりの事情に応じた、多様な働き方が可能な社会への変革。そして、ワーク・ライフ・バランスの確保」が重要課題だとし、非正規労働者の待遇を改善する「同一労働同一賃金」の実現、格差是正を進める考えを訴えた。

環太平洋経済連携協定(TPP)に関しては、「2年半にわたる粘り強い交渉によって、国益にかなう最善の結果を得られた」と強調し、国内対策を講じて「攻めの農業」を支援する方針を掲げた。

今年は憲法施行70年の「節目」  第193回国会(2017年1月20日)

施政方針演説

(はじめに)
しかし、先人たちは決して諦めなかった。廃墟と窮乏の中から敢然と立ち上がり、次の時代を切り拓きました。世界第三位の経済大国、世界に誇る自由で民主的な国を、未来を生きる世代のため創り上げてくれました。
戦後七十年余り。今を生きる私たちもまた、立ち上がらなければならない。「戦後」の、その先の時代を拓くため、新しいスタートを切る時です。

(おわりに)
土佐湾でハマグリの養殖を始めたのは、江戸時代、土佐藩の重臣、野中兼山(けんざん)だったと言われています。こうした言い伝えがあります。
「美味しいハマグリを、江戸から、土産に持ち帰る。」
兼山(けんざん)の知らせを受け、港では大勢の人が待ち構えていました。しかし、到着するや否や、兼山(けんざん)は、船いっぱいのハマグリを全部海に投げ入れてしまった。ハマグリを口にできず、文句を言う人たちを前に、兼山(けんざん)はこう語ったと言います。
「このハマグリは、末代までの土産である。子たち、孫たちにも、味わってもらいたい。」
兼山(けんざん)のハマグリは、土佐の海に定着しました。そして三百五十年の時を経た今も、高知の人々に大きな恵みをもたらしている。
まさに「未来を拓く」行動でありました。・・・
憲法施行七十年の節目に当たり、私たちの子や孫、未来を生きる世代のため、次なる七十年に向かって、日本をどのような国にしていくのか。その案を国民に提示するため、憲法審査会で具体的な議論を深めようではありませんか。

中見出し

はじめに
世界の真ん中で輝く国創り
・日米同盟
・地球儀を俯瞰する外交
・近隣諸国との関係改善
・積極的平和主義
力強く成長し続ける国創り
・「壁」への挑戦
・中小・小規模事業者への好循環
・地方創生
・観光立国
・農政新時代
・イノベーションを生み出す規制改革
安全・安心の国創り
・被災地の復興
・国土の強靱化
・生活の安心
一億総活躍の国創り
・働き方改革
・女性の活躍
・成長と分配の好循環
子どもたちが夢に向かって頑張れる国創り
・個性を大切にする教育再生
・誰にでもチャンスのある教育
おわりに

解 説

今年が憲法施行から70年の節目に当たることに触れ、「次なる70年に向かって日本をどのような国にしていくのか。その案を国民に提示するため、憲法審査会で具体的な議論を深めようではありませんか」と呼びかけた。

また、1月20日に就任するトランプ次期米大統領との早期会談に意欲を示すとともに、日米同盟が日本の外交・安全保障政策の基軸であることを「不変の原則」と強調した。

働き方改革 人づくり革命  第196回国会(2018年1月22日)

施政方針演説

(はじめに)
百五十年前、明治という時代が始まったその瞬間を、山川健次郎は、政府軍と戦う白虎隊の一員として、迎えました。
しかし、明治政府は、国の未来のために、彼の能力を活かし、活躍のチャンスを開きました。
「国の力は、人に在り。」
東京帝国大学の総長に登用された山川は、学生寮をつくるなど、貧しい家庭の若者たちに学問の道を開くことに力を入れました。女性の教育も重視し、日本人初の女性博士の誕生を後押ししました。
身分、生まれ、貧富の差にかかわらず、チャンスが与えられる。明治という新しい時代が育てた数多(あまた)の人材が、技術優位の欧米諸国が迫る「国難」とも呼ぶべき危機の中で、我が国が急速に近代化を遂げる原動力となりました。

(おわりに)
「五十年、八十年先の国土を富ます。」
百五十年前。天竜川はたびたび氾濫し、村人たちは苦しめられてきました。子々孫々、洪水から村を守るため、金原明善は、植林により治水を行いました。
六百ヘクタールに及ぶ荒れ地に、三百万本もの木を植える壮大な計画。それでも、多くの人たちが明善(めいぜん)の呼び掛けに賛同し、植林のため、共に、山に移り住みます。
力ある者は、山を耕し、苗木を植える。木登りが得意な者は、枝を切り落とす。女性や子どもは蔦(つた)や雑草を取り除く。それぞれが、自身の持ち味を活かしました。
多くの人たちの力を結集することによって築き上げられた森林は、百年たった今でも、肥沃な遠州(えんしゅう)平野の守り神となっています。・・・
五十年、百年先の未来を見据えた国創りを行う。国のかたち、理想の姿を語るのは憲法です。各党が憲法の具体的な案を国会に持ち寄り、憲法審査会において、議論を深め、前に進めていくことを期待しています。

中見出し

はじめに
働き方改革
人づくり革命
・全世代型社会保障
・教育の無償化
・多様な学び
生産性革命
・中小・小規模事業者の生産性向上
・政策の総動員
・行政の生産性向上
地方創生
・農林水産新時代
・地方大学の振興
・観光立国
・安全と安心の確保
・東日本大震災からの復興
外交・安全保障
・積極的平和主義
・北朝鮮問題への対応
・防衛力の強化
・日米同盟の抑止力
・地球儀を俯瞰する外交
おわりに
・力を結集する

解 説

今国会を「働き方改革国会」と銘打ち、冒頭で、働き方改革を「70年ぶりの大改革」とし、事実上青天井だった残業時間の上限規制の他、高収入の専門職らを労働時間などの規制から外す脱時間給制度(高度プロフェッショナル制度)を導入する方針を示した。

また、少子高齢化を「国難」と呼び、「少子高齢化を克服するために、わが国の社会保障制度の改革を力強く進めていかなければならない」と訴え、「働き方改革」の他、教育の無償化など「人づくり革命」、小規模事業者への設備投資支援など「生産性革命」といった看板をアピールした。

「同一労働同一賃金」に関しては、「いよいよ実現の時が来ました。雇用形態による不合理な待遇差を禁止し、『非正規』という言葉を、この国から一掃してまいります。」と訴えている。

「平成」から「令和」へ  第198回国会(2019年1月28日)

施政方針演説

(はじめに)
「内平らかに外成る、地平らかに天成る」
大きな自然災害が相次いだ平成の時代。被災地の現場には必ず、天皇、皇后両陛下のお姿がありました。・・・
「しきしまの大和心のをゝしさはことある時ぞあらはれにける」
明治、大正、昭和、平成。日本人は幾度となく大きな困難に直面した。しかし、そのたびに、大きな底力を発揮し、人々が助け合い、力を合わせることで乗り越えてきました。

(おわりに)
一九七〇年の大阪万博。リニアモーターカー、電気自動車、携帯電話。夢のような未来社会に、子どもたちは胸を躍らせました。
「驚異の世界への扉を、いつか開いてくれる鍵。それは、科学に違いない。」
会場で心震わせた八歳の少年は、その後、科学の道に進み、努力を重ね、世界で初めてiPS細胞の作製に成功しました。ノーベル生理学・医学賞を受賞し、今、難病で苦しむ世界の人々に希望の光をもたらしています。・・・
憲法は、国の理想を語るもの、次の時代への道しるべであります。私たちの子や孫の世代のために、日本をどのような国にしていくのか。大きな歴史の転換点にあって、この国の未来をしっかりと示していく。国会の憲法審査会の場において、各党の議論が深められることを期待いたします。

中見出し

はじめに
全世代型社会保障への転換
・成長と分配の好循環
・教育無償化
・一億総活躍
・全世代型社会保障
成長戦略
・デフレマインドの払拭
・第四次産業革命
・中小・小規模事業者
地方創生
・農林水産新時代
・観光立国
・地方創生
・国土強靱化
・東日本大震災からの復興
戦後日本外交の総決算
・公正な経済ルールづくり
・安全保障政策の再構築
・地球儀俯瞰外交の総仕上げ
・世界の中の日本外交
おわりに

解 説

4月30日に「平成」が終わる。総理は、「平成の、その先の時代に向かって」という言葉を7度も繰り返したが、具体的なビジョンは示さず、既存の政策の繰り返しや自画自賛が多かった。厚生労働省の「毎月勤労統計」の不正調査問題を、初めて国会で陳謝した。

10月に予定する消費税率10%への引き上げに向け、国民に理解と協力を求めた。これまで増税を2回延期しているが、「少子高齢化を克服し、全世代型社会保障制度を築き上げるために、安定的な財源がどうしても必要だ」と訴えた。

東京五輪・パラリンピックの話題を随所に  第201回国会(2020年1月20日)

施政方針演説

(はじめに)
五輪史上初の衛星生中継。世界が見守る中、聖火を手に、国立競技場に入ってきたのは、最終ランナーの坂井義則さんでした。
八月六日広島生まれ。十九歳となった若者の堂々たる走りは、我が国が、戦後の焼け野原から復興を成し遂げ、自信と誇りを持って、高度成長の新しい時代へと踏み出していく。そのことを、世界に力強く発信するものでありました。
「日本オリンピック」。坂井さんがこう表現した六十四年大会は、まさに、国民が一丸となって成し遂げました。未来への躍動感あふれる日本の姿に、世界の目は釘付けとなった。

(おわりに)
「人類は四年ごとに夢をみる」
一九六四年の記録映画は、この言葉で締めくくられています。新しい時代をどのような時代としていくのか。その夢の実現は、今を生きる私たちの行動にかかっています。
社会保障をはじめ、国のかたちに関わる大改革を進めていく。令和の新しい時代が始まり、オリンピック・パラリンピックを控え、未来への躍動感にあふれた今こそ、実行の時です。先送りでは、次の世代への責任を果たすことはできません。
国のかたちを語るもの。それは憲法です。未来に向かってどのような国を目指すのか。その案を示すのは、私たち国会議員の責任ではないでしょうか。新たな時代を迎えた今こそ、未来を見つめ、歴史的な使命を果たすため、憲法審査会の場で、共に、その責任を果たしていこうではありませんか。

中見出し

はじめに
・日本オリンピック
・新しい時代へ踏み出す
復興五輪
地方創生
・観光立国
・農産物輸出
・地方創生
成長戦略
・中小・小規模事業者
・規制改革
・イノベーション
・アベノミクス
一億総活躍社会
・全世代型社会保障
・子育て支援
・一億総活躍社会
外交・安全保障
・積極的平和主義
・安全保障政策
・国際社会の課題解決
おわりに

解 説

東京五輪・パラリンピックの話題を随所に織り込み、「新しい時代」へ向けた夢や希望を語る一方で、桜を見る会やカジノ汚職、辞任閣僚の公職選挙法違反疑惑など、政権のうみと言うべき昨年来の問題には一切触れなかった。

現役世代から高齢者までが安心できる「全世代型社会保障」の実現に向け、改革を進める方針を示した。

悲願の憲法改正は「歴史的使命」と訴え、重ねて決意を表明した。
70年の節目を迎えた2017年以降、憲法改正に触れる分量が増えているが、総理は、憲法を、「国のかたち」「国の理想」を語るものであり「次の時代への道しるべ」として位置付けている。
これは権力者側の発想であり、ヨーロッパで長い間、多くの血を流して勝ち取った、憲法とは権力者の勝手な振る舞いを制限するという立憲主義の考えとは全く異にしている。