石破茂首相が唱える「地位協定の改定」を基地の街は疑う 同じ口で「日米同盟強化」…「本気でやれるのか」(東京新聞 2024年10月2日 06時00分)
1日に誕生した石破茂新内閣。石破首相は、在日米軍に特権的な地位を認める日米地位協定の改定を掲げる。首都圏には横田基地(東京都)や横須賀基地、厚木基地(ともに神奈川県)といった重要拠点があり、航空機騒音や事故、米兵による犯罪などにさらされてきた。1960年の締結以来改定されていない地位協定の改定は地元の悲願だが、「本気でやれるのか」といぶかる声が上がった。(松島京太、曽田晋太郎、森田真奈子、奥野斐)
アメリカ側は一貫して否定的
「本当に改定するつもりがあるのか本気度が伝わってこない」。米空軍横田基地の騒音被害の損害賠償やオスプレイの飛行差し止めを求める第3次新横田基地公害訴訟の奥村博原告団長は冷ややかに語った。米側は一貫して改定に否定的な上、石破氏がどのような改定を目指すのかはっきりせず、住民の負担軽減につながるのか見通せない。「石破新首相は日米同盟の強化を掲げており、基地の機能強化につながりかねない」と心配した。
横田基地に市域の一部がかかる東京都立川市の酒井大史市長は「地位協定改定の検討を表明すること自体は一定の評価をしたい」とした上で、「早期の解散表明など総裁指名以前と言行不一致が甚だしい。地位協定改定への期待も残念ながらしぼんでいる」と話した。基地西側の羽村市の基地対策担当者は「改定実現に向けて取り組んでほしい」とした。小池百合子都知事は「これからどうなさるか注視していきたい」と述べた。
「軍備拡張と一体化ではだめ」
米原子力空母ジョージ・ワシントンが母港とする神奈川県横須賀市の米海軍横須賀基地。原子力空母の配備に反対してきた呉東正彦弁護士も「軍備拡張と一体化する方向の改定では困る」と警戒した。改定を目指すのであれば「地位協定に不平等を感じ、改定を求めてきた市民の声を踏まえた改定にしてほしい。米国の反発が想定され、万難を排して取り組む覚悟を持ってほしい」と求めた。
在日米軍基地の活動を監視する市民団体「リムピース」の金子豊貴男共同代表=相模原市=は、石破内閣の閣僚と自民党役員に防衛相経験者が石破氏を含めて多数いるなど「防衛の影が色濃い陣容」に注目。「改定に防衛官僚がどこまで動くか。期待はあるが、外務省は抵抗するだろうし、本当に進むか。石破首相が本気で基地負担に苦しむ国民のために行動してくれるのか注視したい」と話した。
国際的には「対等」が標準化
神奈川県基地対策課は「今後の国の動きを注視していく。渉外知事会などを通じ、今後とも地位協定の改定をはじめとする基地問題の解決を国に訴えていく」とコメントした。
地位協定に詳しい東京外国語大の伊勢崎賢治名誉教授(国際関係論)はドイツやイタリア、フィリピンなどと米国の地位協定の例を挙げ、「国際的には対等な法的地位を担保する協定が標準化している。他国の例も参考に米国との交渉を進めていくべきだ」と指摘した。
日米地位協定への改定要請 米軍基地がある都道府県でつくる「渉外知事会」は、米軍に大きな権限がある協定の改定を長年求めている。主な要請項目は▽基地内への日本側の立ち入り権限を認める▽環境や生活衛生、航空関係で国内法を適用する▽刑事事件で米側が拘束している米兵の身柄を、日本側が要請した場合はすべて引き渡す▽基地外で起きた米軍機事故などで、日本側が機体の捜索・差し押さえをできるようにする—など。