マイナンバーカードは、いつか来た道「財産税」取り立てが目的か? 危険な公金受け取り、健康保険と紐づけ

マイナンバーカードは、いつか来た道「財産税」取り立てが目的か? 政治・経済

マイナンバーカードは、いつか来た道「財産税」取り立てが目的か? 危険な公金受け取り、健康保険と紐づけ(現代ビジネス 2022.11.09)

大原浩 国際投資アナリスト 人間経済科学研究所・執行パートナー

真の目的は「国民の資産を奪う」ことである?

「住基カード(住民基本台帳カード)」なるものを記憶している読者はどれほどいるであろうか。2003年8月に開始され、マイナンバーカードの交付開始に伴い2015年12月限りで発行が停止されている(既に発行されたカードは、券面有効期限若しくはマイナンバーカード交付時まで利用可能)。

この住基カードの開始から11年後の2014年の累計枚数は800万枚あまりである。赤ん坊まで含めた日本の総人口約1億2500万人の1%をはるかに下回る数であるから、「大失敗」に終わったといえよう。

しかし、それにもかかわらず、2016年1月にマイナンバーカードの交付を開始した。過去を振り返る限り、日本政府は「国民にプラスになること」にはあまり興味が無いが、「政府に都合が良いこと」には熱心になるのが通例だ。いわゆる「国民総背番号制」に執着するのも、後者の理由だと考えられる。

「マイナンバーカード」に対しても、最初国民は警戒していたのだが、ペイペイ並みの大盤振る舞い(ただしその費用は我々の血税で賄われる)の「ポイントキャンペーン」のおかげもあってかなり普及してきた。

日本経済新聞8月23日の記事「マイナカード、普及率100%でなくても『ほぼ全員』」によれば、マイナポイントの約1年半の第1弾期間中にカード交付数は3000万枚近く増加し、普及率は40%を超えた。

さらに、今回のマイナポイント第2弾でも同じくらいの上乗せ効果があると仮定した場合、今年6月はじめにおいて交付枚数5660万枚(普及率45%)なので3000万枚分が加わると8660万枚(普及率は68%)になるとのことだ。しかも、ポイント事業が好調であることに気をよくしたのか、マイナポイントを受け取れる申請期間を9月末から12月末まで延長したのでもっと増えるかもしれない。

16歳以上の運転免許証の普及率が7割だそうだから、「保有しているのが普通」となり、マイナンバーカードは住基カードとは違って後戻りすることはないであろう。

だが、政府がばら撒く「飴」によって普及したマイナンバーカードが、国民に対する「鞭」になることはないであろうか。大変心配である。

もっとも懸念されるのが、昨年10月25日公開「日本は外国に借金していないからデフォルトしないというのは本当か?」、1月15日公開「親方日の丸の巨大産業・医療-年金だけでなく健康保険も破綻はある」、2019年7月22日公開「年金は巨大な『国営ねずみ講』だから、負の所得税に一本化すべきワケ」などで述べた、財政、年金、健康保険が破綻した際に政府に「悪用」されるリスクである。

外国に借金なし、国民から取り立てるしかない

前記「日本は外国に借金していないからデフォルトしないというのは本当か?」でも述べたように、「日本がデフォルトしない」というのは詭弁である。

外国から多額の借金をしている場合、支払いができなければデフォルトとなり対外的な信用を失う。だが、(直接的に)投資をした資金が戻らずに損をするのは外国人であり日本国民ではない。

それに対して、外国に借金をしていなければ、破綻(デフォルト)となった場合損をするのは日本国民である。

国内で破綻を解決するには大きく分けて2つのやり方がある。

1.不足した金額を「財産税」などの苛烈な税金で国民から徴収する
2.(ハイパー)インフレで、政府の借金の実質的金額を減らす

である。いずれにおいても日本国民が犠牲になるしかない。

第2次世界大戦敗戦直後は、1と2の2つとも実行されたといえよう。深刻なインフレが進む中で、「新円切り替え」、「財産税」が1946年に大日本帝国憲法の下で実行された。

再び行われるのか?

1946年当時の日本は米国の占領下にあり、大日本帝国憲法も有効であった。したがって、日本国民の財産権を侵害するような強権的な政策もまかり通った。しかし、現在の日本国憲法の下では、国民の代表(議員)によって構成される国会の議決を経なければ法律を制定できないことになっている。したがって、その可能性はそれほど高くない(希望的観測かもしれないが)。

また、戦後、ほとんどの国民は焼け出されたり、日々の食事もままならなかったりする状態であったから、財産税のターゲットは絞られていた。(旧)華族と財閥(創業家など)である。戦前の財閥一族や華族は、現代日本では想像もつかないほどの資産を保有していたのだ。

さらに、財閥は戦前の日本の象徴として解体されたし、華族も身分制のシンボルとして民主主義にふさわしくないと考えられていたから、彼らに財産税を負担させることは(少なくとも当時は)合理的だと判断されたのであろう。

だが、それ以来、最高税率55%の相続税、同じく45%の所得税(現在)などによって、日本では超富裕層がほとんど生まれなくなっている。

なお、所得税と住民税のおおよそ10%を合わせると最高55%ほどになる。また、復興特別所得税も別途かかる。

今度は庶民がターゲットだ

その代わり、終戦直後は鍋や茶わんくらいしか資産が無かった一般日本人の金融資産(2人以上世帯平均)は約1500万円に増えた。また、戦前の庶民は借家が当然(住宅ローンが普及していなかったことなどから)であったものが、現在の持ち家比率は60%前後である。

したがって、今回「財産税」で政府のしりぬぐいをさせられる場合は、広く庶民に課税することが容易に想像できる。

例えば、現在の相続税の基礎控除は3000万円(プラス600万円×法定相続人数)だが、これを「ニュー財産税」の基準としてみよう。

1946年の事例を見れば、「すべての資産」に課税されるのが原則であるから、預金、株式、不動産はもちろん、資産運用型の生命保険、自動車、美術品なども対象になるはずだ。

都心の自宅だけで軽く基準を超える人もいるであろうし、世帯の色々な資産を合算すれば超えてしまうことが多いのではないかと思う。

もちろん、状況によっては、2000万円、1000万円が線引きの基準になるかもしれない。終戦直後の財産税においては「徴税コスト」という問題があったが、ほぼすべての資産がオンラインで管理されるようになった現在は、「徴税コスト」は劇的に低下しているからだ。コンピュータのボタンを押せば、国民の口座の資産を凍結するのは簡単なことである。

結局、国民の資産が政府の管理下に置かれるというのは、とても恐ろしいことだといえる。

危険なのは預金との紐づけだ

もちろん、マイナンバーカードを取得しただけで我々の財産が把握されるわけではない。

また、すでに証券口座ではマイナンバーが必須であるため、保有株や預け金がいつ政府によって恣意的に凍結されるのかわからない状態であるのも事実だ。

だが、政府がマイナンバーカード普及を必死になって推進する背景には、「預金口座情報」の取得という「本丸」の存在がある。

マイナポイントの資料を見ると、マイナンバーカードの取得そのものには5000ポイント(キャッシュレス決済でのチャージ支払いが前提)しかつかないが、「公金受け取り用の預貯金口座」の登録を行えば7500ポイントが付く。政府でも営業マンでも「お勧め」するのは顧客に有利な商品ではなく、自分(会社、政府)が得をする商品である。

預金口座というのは、様々な資産の売却、購入等に使われるから、国民の資産を把握する上で重要なのだ。したがって、安易に日常的に使用する口座を登録するのは危険である。新規に専用口座を開設するか、それが難しければ休眠に近い口座を活用すべきであろう。

また、この制度が、「すべての銀行口座とマイナンバーを紐づけ」する恐ろしいシステムの導火線の役割をはたすことも懸念される。

河野大臣のスタンドプレーか? それとも……

健康保険証としてマイナンバーカードを使用することにも7500ポイントが付与される。健康保険証との紐づけによって、直接的な財産権の侵害が起こるとは考えにくいが、保有資産に応じて健康保険の赤字分を負担させられる「準財産税」のような措置はあり得ると考える。

とにかく、政府が懸命になって推進する政策には「裏」があると考えるべきであろう。

また、10月13日の河野大臣の発言は、民医連「【声明2022.10.14】河野太郎デジタル相のマイナンバーを違法に強制する健康保険証の廃止発言の撤回を求める」などという騒ぎになっている。

河野デジタル大臣は、小泉純一郎・孝太郎親子のような、「口先で勝負するスタンドプレー」を得意としているから、実績をアピールしようとする単なるパフォーマンスとも思える。

だが、NHK10月31日「首相 健康保険証一体化 カードない場合でも受診仕組み検討急ぐ」のように、岸田首相も「紐づけ義務化を前提に例外措置を認める」という、「批判があったから玉虫色にする」という方針だ。つまり、政府も実際には一体化を義務にしたいのが本音であろう。

確かに一体化によってさまざまな効率が増すが、これまでも述べてきたように、健康保険の最大の問題は「財政的にすでに実質破綻している」という点にある。

後期高齢者の自己負担の1割を2割に引き上げる際には、大幅に「妥協(所得を考慮)」したのに、(それで足りなくなった分を補うために)保険料の上限を来年から2万円引き上げるなど姑息な手段でさらに保険料を徴収しようとする政府は全く信用できない。すべての後期高齢者の負担割合も、一般の国民と同様の3割に早急に変更すべきである。なお、後期高齢者でも現役並みの所得の場合は、すでに3割負担である。

目先のポイントにつられて、血と汗によって築いた、老後資金を含めた自らの資産を政府によって没収されることが無いようにしたい。

日銀の低金利政策は、ハイパーインフレ誘導のため?

だが、国民に苛烈な税金をかけても解決できないかもしれない。あるいは、国民が選んだ議員が頑張って官僚の暴走を抑えるかもしれない。

その時には、ハイパーインフレを起こすしかない。

それを想定しているのか、日本政府は終戦後と同じように、冒頭で述べた1と2の政策を併用する腹積もりであるようにも思える。

2月26日公開「強烈インフレを目の前にして黒田日銀は日本をトルコにするつもりか」で述べた内容が、いまだに「超金融緩和」を続けていることによって、現実のものとなりつつある。来年4月の黒田総裁の退任後に方針を変更してももはや手遅れかもしれない。

だが、このような無能にも思える金融政策も、2のハイパーインフレによって、国家の借金をチャラにするのが目的であるとすれば合点がいく。

平時には日本政府は概ね頼もしいが、危機においては「国民」を犠牲にして「国体」を維持してきたのは歴史的に明らかだ。

我々は、「大乱」の時代においては、日本政府に頼らない人生設計を真剣に考えなければならないということである。