みんな等しく貧しくなる日本「高齢者世代いなくなる時が本当の危機」(AERAdot. 2023/03/27 06:30)
山田昌弘(やまだまさひろ)/1957年生まれ。中央大学文学部教授。専門は家族社会学。著書に『パラサイト・シングルの時代』ほか
“既得権者”“社会のお荷物”──。シニア世代へのバッシングが止まらない。中央大学の山田昌弘教授は「高齢者世代がいなくなる時が本当の危機」だと警告する。
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少子高齢化が進む日本で、若い世代の社会保障負担が重くなっているのは事実です。ただ、それが極端な世代間対立につながっているわけではありません。若い人は「損をしている」とは思っていても、格差是正を求める大きな運動にはなっていません。日本で問題なのは、世代内の格差がそのまま次世代に引き継がれていることです。貧しい親の子どもは貧しいまま。日本はパラサイト(寄生)社会ですから、経済的に豊かな親の恩恵を受けている子どもも多い。
東京都立大教授の宮台真司さんが、大学内で男に切りつけられる事件がありました。容疑者とみられる無職の男は死亡しましたが、親が年金保険料を払っていたそうです。成人した子どもの生活費だけでなく保険料まで親が面倒を見ることは、欧米では考えられないことです。
ただ、これは日本の文化なので、そう簡単には変わりません。だから制度を変える必要があるのですが、日本人は制度が変わるのが嫌なんです。
なぜ、変わるのが嫌なんでしょうか。それは「今の生活を変えたくないから」。たとえば、格差是正のために、高等教育の無償化を目指したとします。そこには財源が必要で、どこかで痛みが出ます。でも、その痛みは自分に降りかかってくるかもしれない。だから制度を変えたくない。
官僚は優秀なので、消費税の税率を上げるのが大変なことはわかっています。代わりに、社会保険料を少しずつ上げていく。気がついたら、昔は年に2回行けていた旅行が1回になる。そうやって、みんなでだんだん貧しくなっているのが今の日本です。
それでも、みんな等しく貧しくなっていくのなら、日本人は気にしないのではないでしょうか。外圧や戦争といったことが起きない限り、この国は変わらないのでしょう。
では、子どもを援助している今の高齢者世代がいなくなるとどうなるのでしょうか。おそらく、その時に日本の本当の危機が訪れます。
※週刊朝日 2023年3月31日号