いよいよ「グーグル1強」が終わる? ユーザー爆増中のChatGPTがもたらすインパクト(ITmediaビジネスONLINE 2023年02月03日 05時00分 公開)
古田拓也
◇
ChatGPTと呼ばれる高度な人工知能技術によって、ビジネス界に革命が起こる可能性がある。ChatGPTは、AIでありながら人間のようなテキストを生成し、膨大なデータに基づいて洞察や予測を提供するツールだ。
近年、ChatGPTは、カスタマーサービスやマーケティング、金融、ヘルスケアなど、さまざまな業界にすでに浸透している。今後、さらに進化・高度化し、ビジネスシーンに与えるインパクトは大きくなるだろう。
本記事では、ChatGPTがどのようにビジネス環境を変えつつあるのか、またこの技術によってもたらされるメリットと潜在的な課題を探っていきたい。
――一見すると何の変哲もない記事の導入文に見えなくもないが、実はここまでの文章は今話題のAIツールである「ChatGPT」が自動で出力したものである。筆者が「ChatGPTがビジネス環境にどのような変化をもたらすのかという記事の導入部分を考えてください」と質問し、これに対する返答が以上の文章となった。
一部怪しい部分もあるが、このクオリティーを見るに、今後Webサイトやメディア記事の多くはAIに取って代わられるのかもしれないと思わされた。現に、ChatGPTはローンチから2カ月後には月間アクティブユーザーが1億人に達したとも報じられるほどの盛況を見せている。米メディアのバズフィードは記事コンテンツについて、ChatGPTを開発するOpenAIの技術を活用する方針を1月30日に公表したばかりだ。
株式市場では、このニュースがきっかけとなり、バズフィードに大量の買い注文が殺到した。OpenAIによる高い品質の記事が一瞬で大量に生成できることを期待して、プレスリリース直後からわずか数日でバズフィードの株価は4倍になった。現在の株価は2ドル代前半まで落ち着いているものの、元が1ドル未満の価格帯の銘柄であっただけに、いまだ底堅いAIへの期待が株価の熱狂ぶりからもうかがえる。
ではここで、「日本の人不足は採用市場にどのような影響を与えるか」という質問を投げかけてみよう。そうすると、ChatGPTから次のような返答がなされた。
「人手不足が採用市場にもたらす影響は?」 ChatGPTの回答
日本の人不足は採用市場に様々な影響を与えます。以下はいくつかの例です:
1:就職先決定権が求職者に移ります。企業は競争力のある福利厚生や待遇を提供しなければなりません。
2:採用コストが高まります。面接や人材紹介代行などの採用費用が増加します。
3:積極的なタレントハントが必要になります。企業は新しいタレントを積極的に探します。
4:年齢層やスキルなどの採用基準が緩和されます。企業は採用条件を緩和することでより多くの人材を採用することができます。
5:外国人労働者の採用が増加します。外国人労働者は労働力不足を補完するために採用されることが多くなります。
この返答が出力されるまでにかかる時間は、およそ20秒程度。労働力不足による効果として1から5まで、いずれの論点もおおむね問題のない解説といえる。一部表記が気になる点などを修正すれば、十分にちまたのWebサイトにあふれる記事と遜色のないものが完成しそうだ。1回の文字数は200~300文字程度と少ないが、記入する段落さえ考えてしまえば、ものの5分ほどで2000文字程度の記事が書けることになる。
通常、2000文字程度の記事を作成するには、リサーチなどの時間も含めると数時間はかかる。しかし、これがものの5分で完結するとなれば、その生産性は計り知れない。特に、冒頭のバズフィードの事例のように、SNSで話題の記事を取り上げる形の記事であれば、医療や法律などの記事とは異なり、法令違反のリスクも小さい。フォーマット化もしやすいため、少しのリソースで大量の記事制作が可能となりそうだ。
ChatGPTは「グーグル1強」を崩すか?
簡単な質問を入力するだけで、それに対する回答をチャット形式で答えてくれるChatGPTは、さまざまな業界をひっくり返すポテンシャルがあるかもしれない。
特に危ないと指摘されるのが、検索エンジンの「Google」だ。
チャットツールと検索エンジンの間には一見、何らの関係性もないようにも思われる。しかし、今後技術がさらに進化した場合、疑問に思ったことは何でも分かりやすく回答してくれるChatGPTは、検索エンジンを代替し得る存在となる可能性がある。
そもそも、インターネットの世界を支配しつつあり、安泰と思われるGoogleの検索エンジンも、デメリットや欠点が一切ないかといわれれば、そういうわけでもないはずだ。
例えば、知りたい情報を検索したときに「SEO対策だけが施されていて、品質の低いブログ」にヒットしたり、「アドセンス収入を稼ぐためにページの至る場所に広告が貼られているページ」がヒットしたり。
何とか検索ワードを工夫して、ようやくまともな記事にたどり着いたかと思えば、アフィリエイトを前提とした中立性を欠く記事にヒットする――。Googleを使っていると、毎日のようにこうした体験に出くわしているはずだ。
一方で、ChatGPTにはSEO対策やアフィリエイトといった概念が存在しないため、中立的な回答を教えてくれるとされる。そして、時には人間が生み出す文章よりも優れた回答を示す可能性も秘めている。今後は「何かを調べたい」となったとき、“ググる”のではなく、ChatGPTに聞いてみる、となっていく可能性もあるのだ。
まだあるChatGPTの脅威
ChatGPTがグーグルにとって脅威なのは、検索エンジンそのものを淘汰する可能性がある点だけではない。ChatGPTによって、検索結果が“汚染”されることも考えられる。
そもそも、AIは総論や一般論についての記載は得意だが、個別論点や時事問題のようなテーマには誤りのある情報が含まれたり、全く事実と異なる文章がそれらしく出力されたりすることもある。とすると今後は、AIを用いた、一見するとそれなりの文章だが、事実とは異なる内容がまとまったブログやメディアが増加していく危険性がある。
これによって、検索エンジンが提供する情報の信頼性が一層低下するリスクがあり、グーグルは自社の検索結果がAIに荒らされ得るという点においても脅威を抱えていることになるわけだ。
大きな懸念は、医療や美容、ダイエットなど、誤った情報が取り返しのつかない健康被害につながるような分野で記事が粗製濫造されることだろう。これはかつて医療キュレーションサイト「WELQ」で起こった問題をほうふつさせる。WELQ問題が発端となり、当時に流行の兆しを見せていた「キュレーションサイト」の多くは閉鎖に追いやられた。同様の騒動が、今後ChatGPTによって引き起こされる可能性は十分にあるだろう。
バズフィードを皮切りに、AIをライターとして起用する動きは今後一層広がりを見せるはずだ。そのような時代では、情報がAI製であるかどうかを見抜くスキルや、そもそも記事の内容を精査できるだけの資格ないし専門知識を有するという”強み”が求められてくるだろう。AI製のコンテンツはAI製のコンテンツであると見抜ける人でないと、インターネットを使うのは難しい時代は、そう遠くないかもしれない。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら