光熱費を25%削減できる「水で満たされたガラス窓」

(左)冬季は太陽光で作られた温水を暖房の補助として利用、(右)夏は絶えず冷水に入れ替えて太陽光の熱を受け止める 科学・技術

光熱費を25%削減できる「水で満たされたガラス窓」(ナゾロジー 2023.01.30 MONDAY)

近年では異常気象により、極端な寒さや暑さへの対応を求められることが増えました。

そのため、より効果的な断熱システムが必要とされています。

イギリスのスタートアップ「Water-Filled Glass」社は、その名が示す通り、「水で満たされたガラス窓」を開発しました。

2層のガラスで挟んだ水を入れ替えることにより、夏は涼しく、冬は暖かい室内を提供できます。

「水で満たされたガラス窓」が太陽光を受け止める

断熱効果を高める方法として一般的なのが「二重窓(窓の内側に別の窓があるもの)」や「ペアガラス(ガラス自体が2層になっている)」です。

どちらもガラスとガラスの間に空気層が生まれ、これが断熱効果を高めてくれるのです。

ところがWater-Filled Glass社は、ガラスとガラスの間に空気ではなく、水を満たすという新たな断熱システムを開発しました。

「水で満たされたガラス窓」では、内部の水ポンプで入れ替わる

この「水で満たされたガラス(WFG:Water-Filled Glass)窓」は、単に水をガラスで挟んでいるだけではありません。

それぞれの窓が建物のポンプと繋がっており、内部の水をいつでも交換できるのです。

WFG窓は季節に応じて、次のように働きます。

夏に強い日差しが窓に当たると、水が熱を受け取るため、室内の温度上昇が抑えられます。

窓内部の水が一定の温度に達すると、その温水をポンプで排出。壁のパイプを通って建物内の貯蔵タンクに移動させます。

同時に「まだ太陽光を浴びていない冷水」が、入れ替わるようにして元の窓の隙間に供給されるのです。

そして貯蔵された温水は蛇口から使用でき、シャワーやお風呂のために利用できます。

貯蔵された温水の温度は「高くてもせいぜい40℃」だと言われており、場合によってはもっと低温のぬるま湯でしょう。

それでも給湯器の稼働エネルギーを低減させるには十分です。

窓内部の温水利用でエネルギー使用率が25%低減する

冬は、WFG窓の水が「室内から逃げる熱」と「太陽から降り注ぐ熱」の両方を吸収。

建物内でも日が当たらない部分の冷水と入れ替えることができます。

日光がよく当たる南向きの窓で作られた温水を床下の水と入れ替えて、床暖房のような効果を生み出すこともできるでしょう。

また、昼間に蓄えた温水を極寒の夜まで貯蔵しておき、パイプに送り返して部屋全体を温めたり、温水としてそのまま利用したりできます。

ちなみに、冬場の凍結を防ぐため、WFG窓は3層のガラスが重なった「トリプルガラス」になっています。

1つの隙間には水、もう1つの隙間には高い断熱性をもつアルゴンガスが充填されているのです。

Water-Filled Glass社は、「この3層構造により、氷点下の気候でも窓内部の水が氷ることはないだろう」と主張しています。

また標準的な窓と比較した場合、エネルギー使用率を約25%削減できると推定しています。

ポンプを稼働させるために余分のエネルギーが必要ですが、冷暖房を節約できるので、全体としては使用エネルギーが削減されるというのです。

さらに、断熱のために窓を着色したり、外部シェードを取り付けたりする必要がないので、窓本来の透明度が保たれ、窓からのぞく景色を楽しめるというメリットもあります。

このシステムには自動で水を綺麗に保つための監視装置が取り付けられており、年に 1 回の保守点検で維持できるとのこと。

現在、WFG窓が実装されたプロトタイプの建物「ウォーターハウス2.0」が台湾で完成しており、その姿を見ることができます。

加えて最初の商業プロジェクトも進行中であり、WFG窓を採用したハンガリーの工業ビルとアメリカの集合住宅が建設中です。