大型バイオマス発電、相次ぐ計画中止 輸入頼み燃料、価格2割増

アブラヤシの実を積み込む作業員。実から油を搾り取った後の「ヤシ殻」は、バイオマス発電の燃料として世界中で需要が増え、価格が高騰しているという 科学・技術

大型バイオマス発電、相次ぐ計画中止 輸入頼み燃料、価格2割増(毎日新聞 2022/8/22 06:00 最終更新 8/22 07:04)

脱炭素社会実現に向けて再生可能エネルギーの導入拡大が急がれる中、大型のバイオマス発電計画を中止するケースが続いている。海外から輸入する木質バイオマス燃料の価格高騰などで採算性が悪化。ロシアによるウクライナ侵攻の影響も加わり、今後も撤退が続く可能性がある。

「コスト増、採算見込めない」

日本製紙(東京都千代田区)は今年2月、山口県岩国市の自社工場敷地内で計画していた、国内最大級のバイオマス発電計画を中止すると県に通知した。計画では発電規模11.2万キロワット。大型船が入港できるふ頭に隣接し、木質ペレットや木質チップなどの燃料を輸入する予定だった。

2017年から県条例に基づく環境影響評価(アセスメント)の手続きを始めていた。同社は取材に「燃料の価格上昇でコストが増すなどし、採算が見込めなくなった」と回答した。

同社は、秋田市でも11.2万キロワット規模の大型バイオマス発電所の計画をしていたが、19年に「十分な事業性が見込めない」と撤退している。

バイオマス燃料の売買や製造を手掛けるバイオマスフューエル(東京都千代田区)も、福井県坂井市でのバイオマス発電所計画(出力3.3万キロワット)を中止した。地元・福井県は、今年3月に計画断念の報告を受けた。複数の関係者によると、燃料として想定していたパームヤシの殻の価格が上がり、安定的に燃料を調達する見通しが立たなかったことなどが背景にあるという。

バイオマスとは動植物由来の資源のことで、間伐材や家畜のふん尿、食品廃棄物などが含まれる。木質バイオマス発電では燃料として直接燃焼したり、ガス化したりして発電する。

国内で稼働しているバイオマス発電所の発電容量は約530万キロワット(21年6月時点)。原発約5基分に相当する。政府はこれを2030年度までに800万キロワットに引き上げる目標を掲げる。バイオマス発電事業者協会によると、国内にある1万キロワット以上の大規模な木質バイオマス発電所では、地元の国内材だけでは燃料をまかなえず、海外からの輸入に頼る。

だが、輸入燃料価格の上昇傾向は20年後半ごろからみられ、ロシアのウクライナ侵攻後の資源価格の高騰や円安がコスト高に拍車をかけている。財務省貿易統計によると、木質ペレットの5月の輸入平均単価は1トン当たり約2万6400円で、年初から約2割跳ね上がった。バイオマス発電事業者協会代表理事の成田正士・丸紅クリーンパワー社長は「燃料は全体費用の6~7割を占める。価格が上がり、特に新規案件では採算面で厳しい。いろいろ工夫しないといけない」と危機感を隠さない。

化石燃料のみならず、再生エネでも海外依存の危うさが露呈した日本。加えて、気候変動対策や持続可能性の観点からも大型バイオマス発電は岐路に立たされている。