不登校の長女が人気ゲーム開発スタッフに 転機になった衝撃の一言(毎日新聞 2022/11/19 07:00 最終更新 11/20 00:50)
中学時代に不登校だった長女(23)が人気ゲーム「ファイナルファンタジー16」の開発スタッフになるまでの曲折を、ボランティアでフリースクール事務局員を務める父親の久保健一さん(47)=滋賀県長浜市=が自身の「失敗」を基に語った。12日に同市高月町で開かれた「ながはまコミュニティカレッジ」に講師役として登壇し、参加者に自らの経験から「子供を追い詰めないで」と呼び掛けた。
久保さんの長女は、保育園、小学校とあまり積極的に通うタイプではなく、中学校では入学式に出たきり、ほとんど学校に行けなくなった。当初、久保さんは不登校は気持ちの問題だと考え、「何サボってるねん」「なまけるな」などと声を荒げ、引きずってでも学校に行かせようとしたという。
しかし、学校に行けないまま1年がたったころ、大きな転機が訪れる。長女が泣きながら衝撃の言葉を吐き出した。「もう死にたい。このままだとパパに殺される」。久保さんはその言葉を聞き、我に返った。「自立させて、また笑顔を取り戻してあげたいと必死でやってきた結果、どんどん娘を追い詰めていた。娘のためだと思ってやっていたことが、生きていく希望と夢を全部奪っていた」。
以来、学校に無理に行かせようとせず、長女が「こうなりたい」「こうしたい」という声に懸命に耳を傾けるようにした。長女は登校できないものの次第に前向きになり、中学3年の夏ごろ、高校進学を目指すようになった。大津にある県立高校の通信制課程に進学し、週1回の登校日を休むことなく3年間通い切った。アニメーションやゲームに興味を持ち、卒業後は大阪にある専門学校に進学。そこでも4年間、無欠席で卒業した。
長女が就職先に選んだのは、ドラゴンクエストやファイナルファンタジーで知られるゲーム制作会社「スクウェア・エニックス」(東京都)。幼いころ、毎日のように父と一緒に遊んだ同社制作のゲーム「キングダムハーツ」に思い入れがあったからだ。そのゲームの開発担当者が面接官だったという幸運もあり、倍率100倍を超える難関を突破して採用された。現在は「ファイナルファンタジー16」の制作スタッフとして、CGを使ったアニメーションなどを担当している。
昨年、就職で東京に出発する前日、長女が久保さんに声をかけた。「学校に行けなかった時は大変だったと思うけど、その後、私がやりたいこと全部させてくれた。面接でちゃんと話ができたのもパパが毎日私と遊んでくれてたから。本当に感謝してます。今まで本当にありがとうございました」
久保さんは目を潤ませながら、もし10年前の「あの時」長女の言葉に向き合っていなければ「娘がいなくなっていたかもしれない」と振り返った。大人になった長女に学校に行けなかった理由を聞いても答えは「分からない」だった。
久保さんは、居場所がないと感じている子供や不登校問題に悩む親に「何で学校に行けないのという問いに対する答えを求めても、行けないものは行けない。進むスピードは人それぞれ違う。今進めなくても何かのきっかけで前にどんどん行ける子もいる。子供の未来を信じてあげて」と語り掛けた。