コオロギ食が議論 根強い抵抗と不安 専門家は安全性強調「アレルギーには注意すべき」

食用コオロギが話題になっている 社会

コオロギ食が議論 根強い抵抗と不安 専門家は安全性強調「アレルギーには注意すべき」(ENCOUNT編集部 2023.02.23)

急速に普及しつつあるコオロギ食を巡る議論が過熱している。学校給食に提供されて話題になり、養殖しやすく、たんぱく源になるなどの利点があるが、一方で、ネット上には「#コオロギ食に反対します」「#昆虫食に反対します」のハッシュタグが立つ。その見た目に抵抗感を持ち、口に入れることを不安視する声が収まらない。NPO法人食用昆虫科学研究会の吉田誠理事にコオロギ食についての気になる疑問を聞いた。

日本で食用とされているコオロギは、ヨーロッパイエコオロギ、フタホシコオロギという種類だ。フタホシコオロギは琉球列島に野生で見られるが、それ以外の地域では両種とも野生では見られず、本州でよく見られるエンマコオロギなどとは別の種類となる。欧州で食用に用いられているのも同じヨーロッパイエコオロギ及びフタホシコオロギで、素揚げやピザ、スープの具のほか、粉末パウダーに加工すればパンやコロッケ、菓子にまぜることができ、幅広い用途での利用が期待されている。

吉田氏はコオロギ食のメリットについて、養殖しやすい点を挙げる。

「コオロギは大量に高密度での養殖が可能で、かつ温かい室温下であれば、1年中養殖できます。このことからはちゅう類などのペットフードとして用いられており、すでに養殖技術が確立していることから、生産しやすいメリットがあります。また、養殖の餌も穀物主体(タイではニワトリの餌を流用)で手に入りやすい。他の家畜との比較では、飼育スペースが小さくて済むこと、養殖サイクルが短いこと、が利点として挙げられます。このことから、タイでは農家の所得向上策として食用のコオロギ養殖が取り入れられています」

味については「食用昆虫には多様な味や香りの昆虫がおり、タガメのようなフルーティーな香りの昆虫やサゴムシのような脂が乗ってジューシーな昆虫などがいます。一方、コオロギは無難な味で、目立ったおいしさやまずさがないので取り扱いやすい種類と思っています。揚げるとサクサク感があり、スナックとして良いです。コオロギはえぐ味や苦味があまりなく食べやすい反面、うま味や香りなどの特徴が薄めです」と続けた。

NTT東日本が食用コオロギを展開する徳島大学発のスタートアップ「グリラス」とのコラボを発表。大手企業も参入し、市場も広がるコオロギだが、調理や食べるときに注意点はないのだろうか。

吉田さんは「注意点としては、加熱してしっかり火を通すことが求められます。加熱することで雑菌等のリスクは排除できます」と加熱の重要性を指摘した。

また、昆虫アレルギーの発症にも気をつける必要があるという。

「小麦アレルギーやそばアレルギーがあるように、昆虫を食べてアレルギー症状が出る可能性があります。昆虫は、イナゴなどの文化は残りつつも、穀物ほど食べられてきた食材ではないので、自身が昆虫にアレルギーを持っているかを知らない人が多いため、アレルギーには注意すべきです。EFSA(欧州食品安全機関)による昆虫種の安全評価でもアレルギーについての言及がなされています」。日本でも田舎ではイナゴを食してきた文化は残るが、昆虫は一般的になじみの薄い食材だ。アレルギー検査で事前に特定することは難しく、アレルギー物質を含んだ他の食品同様の注意が必要となる。

TPCマーケティングリサーチ株式会社が行った国内の昆虫食市場について調査によると、2021年における昆虫食市場は、前年から約6割増の10.8億円に膨らんだ。20年5月に良品計画の「コオロギせんべい」が発売となったことで認知が拡大したとしている。

昆虫食は13年に国際連合食糧農業機関(FAO)が人口増加による食糧不足を補う食糧源として示した。SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みの一つとして、欧州でも食用化の研究が盛んに行われるようになった。

「見た目がNG」というのは仕方がないが、注意点に留意すれば食べることによる健康への影響は他の食品と変わらないというコオロギ。吉田さんは「個人的なオススメとしてはコオロギの揚げ物がおつまみとしてよいと思います。新鮮なコオロギにナンプラーで下味をつけて、レモングラスと一緒に揚げます。あとはお好みのドリンクとお供として食べます。コオロギのサクサク感が良いおつまみになるかと」と話す。

食糧危機に備えた新食材というよりも、し好品としての位置づけが強いと吉田さんは言う。

「各国で食べられてきたおいしい昆虫があり、日本でもフルーティーなタガメサイダーが販売されるなど、し好品としての扱いを強めつつあります。すでにタイではコンビニのおつまみコーナーにコオロギスナックが売られていたりして、し好品としての扱いが定着しています」

世界に食用昆虫は2000種以上に上り、現代の日本人にとってはそのほとんどが未知なる食材だ。

ニュースなどでは、昆虫は安価なたんぱく源、また食糧危機に備えるための昆虫食といった扱いされることもありますが、養殖で飼料として穀物を消費してしまう昆虫が安価になることも、食糧危機の際に昆虫が率先して食べられることも、考えにくいです。どちらかというと、これまで無視されてきた2000種超もある未開拓食材として、し好品としての開拓が進むのではないでしょうか。し好品としての昆虫消費の裏で、昆虫生産者の所得向上や採取する環境の保全などが図られるなどもあるとは思いますが、新食品としては、新しい味や香り、食感として新しい価値を提供する面があります」と吉田さんは今後の見通しを語っている。