「賃金を上げて、非正規雇用を見直せ」ジャーナリストのビル・エモットが考える「日本再生への道」(現代ビジネス 2022.11.10)
自信なさげにボソボソ喋るメガネの男、キシダに国を任せていて大丈夫なのか? 世界は、日本の総理に厳しい目を向けている。いったいどうすれば日本は復活できるのか、国内外の7人の「知の巨人」に聞いた。4人目はジャーナリストのビル・エモット氏だ。
キシダはまだまだ「影が薄い」
今年6月にシンガポールで開催された「アジア安全保障会議」では私が議長を務め、岸田総理には基調講演をしてもらいました。
シンガポールのリー・シェンロン首相やロイド・オースティン米国防長官、さらに各国の国防大臣などを前に「平和のための岸田ビジョン」を語っていただきましたが、岸田総理の存在は国際舞台ではまだまだ知られていないという印象を受けました。
8年という長きにわたり政権を担った安倍元総理と比べれば、岸田氏の「有名人」への道のりは遠いでしょう。
しかし世界情勢が不安定化するいま、岸田氏には時間をかけて存在感を高めていく余裕は残されていません。
中国や北朝鮮、ロシアに対抗するために防衛費を増やすことはもちろんですが、それ以上に重要なのが「経済成長」です。なぜなら継続的に経済が拡大していかない限り、税収は増えず肝心の防衛費を賄うこともできないからです。
岸田総理もそのことを十分に分かっているはず。にもかかわらず「新しい資本主義」と口先で言うだけで、経済再生のために絶対に必要なことに手を付けていません。
賃金アップです。
日本はこの30年、賃金をほとんど上げない戦略をとってきました。従業員の賃金を抑えることで商品の値段を下げ、中国や韓国などアジアの国々との価格競争を戦ってきたのです。
「非正規雇用の見直し」
一つの会社単位で見れば理に適う判断ですが、経済全体の成長を考えるとこの戦略には大きな問題があります。一般家庭の収入が増えず、内需が一向に拡大しないのです。
アメリカの工業史で有名な、フォードの逸話をご存知でしょうか。1914年、自動車会社を経営するヘンリー・フォードは、自社工場の従業員がフォードの車を買えるよう賃金を当時の平均の倍に上げました。実は「従業員の離職を防ぎたい」という目的もあったのですが、結果的に車が売れるようになり、フォードの業績は拡大しました。
日本も同じことをやるべきでしょう。現在の日本では賃上げがないまま物価が上がり続けており、家計の消費はしぼんでいく一方です。そんな時こそ賃上げが必要なのですが、岸田総理は具体的にどう賃金を上げていくかを明示できていません。
しかも日本には「労働市場の分断」という深刻な問題もあります。
労働者の6割を占める「正規雇用労働者」は恵まれた給与と福利厚生を享受していますが、残り4割の「非正規雇用労働者」は低賃金で不安定な暮らしを余儀なくされている。
日本企業は、非正規雇用労働者を使い倒すことで人件費を抑えてきました。岸田総理が本当に日本経済を復活させたいなら、労働市場の分断という問題を避けて通ることはできないでしょう。
まずは最低賃金を引き上げるところから始め、非正規も含めた労働者全体が潤うようにするしかない。人件費を切り詰め続けてきた日本企業の在り方を変えることができれば、岸田総理の名前も自ずと世界に知れ渡るようになるはずです。
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「知の巨人」シリーズ
1.ポール・クルーグマンが激白「日本経済を復活させるには、定年を廃止せよ」
2.昭和史を見つめてきた作家・保阪正康が岸田総理を斬る「宏池会の系譜に学ばぬ首相に失望した」
3.経済学者・野口悠紀雄の提言「早く金利を上げて、円安を止めなさい」
「週刊現代」2022年11月12日号より