2023政治 国の針路が問われる年だ

2023年、国の針路が問われる 政治・経済

2023政治 国の針路が問われる年だ(新潟日報 2023/1/3 6:00)

論語の「民無信不立」(民、信無くば立たず)は、政治家が好んで使う言葉だ。諸説ある中に、こんな説がある。

孔子は、政治を行う上で大切なものを問われ「軍備」「食糧」「民衆の信頼」を挙げた。

三つのうち、どうしても一つを捨てるとしたらと聞かれると、軍備を捨てよ、と答えた。

次に捨てるのは食糧。そして、最も重要なのが信頼だと説いた。民衆の信頼がなくては、国も人も立ちゆかないのだ-と。

岸田文雄首相がこの言葉を用いたのは2021年、自民党総裁選に挑んだ時だ。

そして昨夏、銃撃されて死亡した安倍晋三元首相の国葬実施や、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政治の関係を巡って批判された際にも、「信なくば立たず」と口にした。

原点に立ち返り、自ら先頭に立って政治の信頼回復に取り組む。そう決意を強調した。

しかしその後の政権運営は、首相が目指したものとは違う方向に進んでいる印象がある。

日本の政治はどこへ向かって進むのか。23年は改めて国の針路が問われる。

◆影を潜めた「聞く力」

昨年は閣僚の更迭劇が年末まで続いた。旧統一教会問題や「政治とカネ」の問題で10月以降、4人が閣僚を辞した。

いずれも最後まで十分な説明ができず、閣僚にふさわしいとは言えなかった。

同時に際立ったのは「決められない首相」の姿だ。速やかな局面打開に動こうとせず、問題の収束を長引かせた。辞任ドミノを防げなかったことで、政権の求心力は低下した。

一方で首相は、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有や原発の運転期間延長など、国の根幹をなす安全保障やエネルギー政策の方針を驚く速さで転換した。

歴史的な大転換でありながら、国会での十分な議論や国民に対する丁寧な説明を欠いており、拙速さは否めない。

安倍氏の死去から1週間もたたないうちに国葬実施を決め、各党への打診もなく閣議決定した時に似た唐突さだ。

首相は先月、防衛費増額の財源として増税を打ち出したが、これもまた突然だった。

こうした「岸田流」の政治スタイルは、国民に受け入れられているとは言い難い。

共同通信社が先月中旬に行った世論調査では、防衛力強化のための増税に対し64.9%が「支持しない」と答えた。増税を巡る首相の説明は「不十分だ」との回答が87.1%に達した。

内閣支持率は発足以降最低の33.1%だった。

国民は、首相が特技としてきた「聞く力」が影を潜め、姿勢が変化したと如実に感じ取っているのではないか。

今年は国際社会でも手腕が試される。日本は先進7カ国(G7)の議長国となり、岸田首相はかじ取り役として、ウクライナ侵攻の停戦実現などに力を尽くすことが求められる。

首相は新たな安全保障関連3文書を閣議決定した後の記者会見で、「外交力には裏付けが必要だ。外交における説得力にもつながると考えて、防衛力を整備している」と述べた。

そうだろうか。外交の舞台で説得力を持つのは、政治家としての言葉のはずだ。日本に求められるのは平和国家として対話を重ね、信頼を築く努力だ。

◆時代の分岐点に立つ

今年は岸田政権にとって政権運営の正念場となる。

昨夏の参院選は自民党が大勝し、首相は当面、大型国政選挙がない「黄金の3年間」を手にしたとされた。しかし教団を巡る問題や急激な円安、物価高の直撃を受けた。防衛費問題では党内基盤の弱さが露呈した。

一方、立憲民主党をはじめ野党は真価を問われる年になる。

昨年の臨時国会では閣僚を次々と辞任に追い込み、旧統一教会問題で被害者救済法を与党に迫って成立させた。半面、政策論争は生煮えだった。

今月始まる通常国会では、安保問題やエネルギー政策のほかに、少子化対策の柱となる子ども予算倍増といった前進させねばならない難題が待つ。

国民は、同性婚や選択的夫婦別姓といった家族の在り方、国政選挙での「1票の格差」問題など、国会での議論を促されている課題にも注視している。

時代の分岐点に立つ私たちをどこへ導くのか。国会は論戦を通じて未来への選択肢を国民に示さなくてはならない。