トヨタはやはりダメなのか…古賀茂明

トヨタ自動車の豊田章男会長 政治・経済

トヨタはやはりダメなのか 古賀茂明(AERAdot. 2023/04/18 06:00)

筆者:古賀茂明

「トヨタがEV新戦略 26年までに10モデル投入、年150万台販売」

4月7日朝日新聞デジタルの見出しだ。夢のある話に聞こえるが、事情は全く異なる。

自動車全体の世界販売では、トヨタグループ(日野自動車とダイハツ工業を含む)は22年に1048万台で2位のフォルクスワーゲングループの826万台に大差をつけた。シェアも13%を誇る。しかし、電気自動車(EV)販売は、わずか2.4万台、シェア0.3%で世界28位に沈む。1位米国テスラ126万台、2位中国BYD86万台とは比較にならない(マークラインズ社調査)。

今回の新戦略では、26年までの短期間で、2.4万台から60倍の150万台に増やすというが、先行するテスラやBYDもそれまでにはさらに生産台数を大幅に伸ばすため、トヨタは依然としてかなり後方を走る状況になるのは確実だ。

しかも、テスラですらEV生産2万台規模から126万台に増やすまで9年かかった(日本経済新聞デジタル)。トヨタの本格的EV生産の立ち上げはテスラ以外の後発メーカーとの比較でも3年遅れ。既に価格競争が激化する状況だ。作れば売れるという保証もない。

そもそもトヨタにはまだまともなEVを作る技術もない。昨年鳴り物入りで出したbZ4Xは発売即リコールで、再販売後も評判は最悪だ。

テスラは、ギガプレスという大型の鋳造機を使い、車のボディをほとんど溶接なしで製造して世界を驚かせた。メキシコの新工場では、主要部品ごとに塗装や内装を施してから完成車に組み立てる新プラットホーム採用で自動車製造技術を根本から変える。これにより製造コストは半減するという。製造技術でもトヨタは完全に負けたのだ。

トヨタのEV嫌いで、電池の王者パナソニックは大口需要を確保できず世界トップから4位にまで落ちた。モーターのニデック(旧日本電産)も日本を見捨てた。トヨタが誇る世界一のサプライチェーンもEVでは全く役に立たない。

米テスラは利益率でトヨタの5倍。中国のBYDも利益が出にくい小型車EV中心でもトヨタ並みの利益率だ。BYDは高級車市場にも参入予定で、利益率はさらに上がる。トヨタの切り札、資金力も色あせてくる。

トヨタはまず高級車レクサスのEVで何とか儲けを出す戦略だが、米国高級車市場では、既にテスラが52万台でレクサスの29万台の倍以上だ。それを追うベンツやBMWも既にEV販売を本格化している。25年からEV販売を本格化させるレクサスには厳しい状況だ。

最後に、トヨタの「環境にやさしい先進企業」というブランドが欧米で崩壊したことも致命的だ。「うるさくてガソリン臭いクルマがいい」という豊田章男会長の迷言もあり、欧米では時代に取り残された企業というイメージが漂うトヨタのEVに期待する者はいない。

トヨタの新戦略発表後、株価は全く反応しなかった。それこそが正直な市場の評価である。

ガソリン車、ハイブリッド、EV、水素自動車などすべてを選択肢として残す「全方位戦略」を掲げた豊田章男会長への忖度で、今もこれを捨てられないトヨタ。

日本の屋台骨の自動車産業の盟主トヨタがEVで敗戦すれば日本は終わる。「全方位」からの脱却を今こそ決断する時だ。

古賀茂明(こが・しげあき)
古賀茂明政策ラボ代表。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。自身が企画プロデューサーを務めた映画『妖怪の孫』の原案『分断と凋落の日本』(講談社)が発売中

※週刊朝日  2023年4月28日号