なぜ今、円安が起きているのか? 答える人・日本総合研究所会長 寺島実郎

日本総合研究所会長 寺島 実郎 政治・経済

なぜ今、円安が起きているのか? 答える人・日本総合研究所会長 寺島実郎(『財界』編集部 2022-10-20)

日本総合研究所会長 寺島 実郎

金利を上げて一番困るのは誰なのか?

─ 足元ではウクライナ危機によってエネルギーや食糧の価格が高騰し、急速な円安もあって、日本の経済は混乱しています。

寺島 この10年の日本の経済政策は、アベノミクスに代表されるように、異次元金融緩和と財政出動で、とにかく円安に持っていく調整インフレ政策でした。

金融をじゃぶじゃぶにして、株価を上げ、為替を円安に誘導しようということでやってきました。これの一番の問題は、日本銀行の柔軟性を失ったということです。つまり、調整弁が働かなくなった。経済にバネがなくなったんですね。

日銀がETF(上場投資信託)買いという形で株を買い、日銀が国債を引き受けて財政赤字をどんどん増やし、結局、6月末の発表によると、国の借金が1255兆円になりました。

─ 国の借金が増えるというのは、結局、将来世代の負担を重くするということですね。

寺島 わたしはよく、米国のように日本も金利を上げられないのか聞かれますが、金利を上げて一番困るのは誰かと言ったら国なのです。

国の借金は1255兆円ですから、もしも金利を1%上げたら、単純計算で12.5兆円、2%上げたら25兆円です。米国との金利差が3%だとすると、仮に3%水準まで上げたとしたら、金利負担だけで一気に37兆円もかかってしまうのです。

37兆円という規模の意味を考えてみてください。例えば、ウクライナ危機が起こったから日本も防衛予算を増やすべきだと言っています。ところが、昨年の防衛予算は5.4兆円にすぎない。それを考えたら、いかに37兆円という額が大きいか、その規模感が分かるはずです。

円水準はどれくらいが妥当なのか?

─ これは金利負担だけの数字ですからね。

寺島 そうです。要するに、今は日本経済を右にも左にも行けないくらいの金縛り状態にしてしまった。どこの社会主義国家なのかと思うくらい、一種の国営資本主義のような形にして、株は国が買い支え、国債も国が買い支えると。

今までは日本人が買っているのだから大丈夫ではないかという思いでやってきましたが、じわじわ世界の日本の国債に対する評価は下がってきて、いまや世界24位になった。24位ということは、韓国や中国の国債よりも下の格付けです。これは、日本人としては耐えられないことですよ。

最近、円水準はどのくらいが適当かとよく聞かれるんですが、物価水準で対比した国際比較でいうと、今は1㌦=92円くらいが妥当だと思います。

─ それが日本の本来の実力値だと。

寺島 ええ。ですから、90円を割り込むような円高は苦しいと感じたのは分かります。2011年に70円台にまでなった円高圧力をなんとかしてくれという時の悲鳴は分かります。

ところが、それが100円になり、110円になり、今では145円という水準にまで来た。「悪い円安」なんていう言葉を通り越して「恐怖の円安」とでも言うべき局面にまで入ってきました。

つまり、わずか10年で7割もの円安になったわけで、まともな経済人であれば、通貨の価値が7割も落ちている自分たちの国とは何なのかと。そういう問題意識を強くもたなければいけないのです。