「改憲勢力」衆参で3分の2以上だけど…9条や緊急事態条項で距離 世論とも温度差(東京新聞 2022年7月21日 06時00分)
先の参院選で改憲に前向きな自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党の「改憲勢力」4党が、国民投票にかけるための改憲案の発議に必要な3分の2以上の議席を維持した。4党は衆院でも3分の2以上を保持しており、自民党内では「できるだけ早く発議を」との声が強まっているが、9条改憲や緊急事態条項創設などの具体論では各党に距離もある。報道各社の世論調査で国民が改憲を優先課題としていないことも鮮明で、議論の進め方でも温度差が見える。
首相「できる限り早く発議」
岸田文雄首相は参院選後の11日、自民党総裁としての記者会見で、改憲について「できる限り早く発議に至る取り組みを進める」と表明。改憲の実現に力を注いだ故安倍晋三元首相の名を挙げ「思いを受け継ぐ」とも強調した。
自民の茂木敏充幹事長も「(政党間で発議までの)日程感を共有していくことが大切だ」と同調。維新の松井一郎代表も「スケジュールを定めて国民に判断してもらう。自民に責任を果たしてほしい」と促す。
自民幹部の1人は「衆参の選挙で連勝した今、首相の頭にあるのは2年後の総裁選の再選だ。そのためにも改憲に力を入れる」と解説。「総裁選までに発議までもっていきたい。そうじゃないと、保守層に首相の存在意義がないと思われる」と心境を代弁する。
公明は慎重「国民の多くは…」
だが、4党間では改憲内容で違いも見える。
自民は①9条への自衛隊明記②緊急事態条項の創設③参院合区の解消④教育の充実―の4項目を掲げる。維新も9条と緊急事態ではおおむね自民と同様の意見だ。
国民民主は9条改憲の議論に積極的だが、自衛権の行使の範囲などの論点整理が必要と主張している。緊急事態条項も議員任期延長には賛成だが「緊急時における行政府の権限の統制」を求め、内閣の権限強化を掲げる自民などとトーンが異なる。
さらに距離があるのが公明だ。参院選公約に9条改憲の「検討」を盛り込んだが「違憲論を解消するため、自衛隊の存在を明記すべきだとの意見がある。しかしながら国民の多くは違憲の存在とはみていない」と慎重な記述を加えた。
緊急事態条項の議員任期延長も、党内では必要性について意見が割れており、公約では「さらに議論を積み重ねていく」とするにとどめた。
世論は半数以上が「改憲急ぐ必要ない」
議論を急ぐ首相に対し、公明の山口那津男代表は参院選後に「憲法を変えないとどう困るかを国民が納得した上で合意をつくることが大事だ」とけん制した。
公明の姿勢の背景には、世論の動向があるとみられる。共同通信の11~12日の世論調査では、改憲を「急ぐ必要はない」が58.4%に上った。参院選の投票で最も重視したのは「物価高対策・経済政策」が42.6%で最高だったのに対し、改憲は5.6%にとどまった。
北側一雄副代表も「ムードだけで憲法改正ができるとは思わない」と発言し、4党だけでなく幅広い合意が必要との考えを強調。立憲民主党や共産党、れいわ新選組など改憲に慎重・反対の党を含め、秋の臨時国会から議論の幕が開く。
自民党の改憲4項目
安倍政権下の2018年に「優先的な検討項目」として決定した4つの条文イメージ。
①戦争の放棄を明記した9条1項、戦力の不保持を定めた2項を維持しつつ、9条の2を創設して自衛隊を明記する「9条改憲」
②大災害が発生した場合、国会に代わり内閣が緊急政令を定めたり、国会議員の任期を延長したりする「緊急事態条項の創設」
③参院で都道府県単位の改選1議席を維持する「合区解消」
④教育の重要性を書き込む「教育の充実」
―を打ち出した。9条改憲に対しては、1、2項の制約がなくなり「死文化」するとの懸念がある。緊急事態条項は、過度の私権制限を招きかねないと指摘されている。