統一教会から分派「サンクチュアリ教会」指導者が来日 文鮮明7男は集会でアブナイ発言を連発(デイリー新潮 2022年07月12日)
米国でトランプ前大統領を支持し武装化を唱える“銃の教会”と呼ばれる宗教団体をご存知だろうか。その指導者が、よりによって参院選の真っ只中に来日。ジャーナリストの藤倉善郎氏が、集会に潜入取材を敢行した。
◇
ジョー・バイデン氏が勝利した2020年の米国大統領選。当時、政府の中枢はディープステート(影の政府)に支配されていると言い出し、ドナルド・トランプ氏をそれと戦う英雄として支持する陰謀論集団「Qアノン」が、選挙は不正に操作されたと主張した。バイデン氏の当選が確定した21年1月6日、Qアノンは連邦議会を襲撃。警官1人を含む5人の死者を出した。下院特別委員会では現在、クーデター未遂とも言えるこの事件を調査する公聴会が開かれている。
実を言うと、一連のQアノンの活動に、日本にも縁が深いある宗教団体が加わっていた。
ペンシルベニア州に本部を置く「サンクチュアリ教会」だ。指導者は、日本で霊感商法などが長らく問題視されてきた統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の教祖・文鮮明(ムン・ソンミョン=2012年死去)氏の7男・文亨進(ムン・ヒョンジン=42)氏だ。トランプ氏を支持し、YouTubeなどでもQアノン陰謀論を発信。連邦議会襲撃のまさにその時、彼もまたQアノンに交じって議事堂前での抗議活動に参加していたのだ。
サンクチュアリ教会は、米国では“銃の教会”とも呼ばれる。銃を聖書に登場する「鉄の杖」だと主張し、自動小銃の銃弾で作った王冠をかぶって礼拝。テネシー州に土地を購入して軍事訓練なども行う。大統領選の一般投票の前日、ニューヨークに拠点を置くネットメディア「Religion Unplugged」は、亨進氏がYouTubeライブで「将来の迫害に対してドナルド・トランプ大統領のために武装して死ぬ準備をしなければならない」との趣旨のスピーチを行ったと報じた。
6月22日、この“Qアノン教団”の指導者が30年ぶりに来日したのだ。
日本でもトランプ支援デモ
そもそもサンクチュアリ教会は、2012年に統一教会の創立者・文鮮明氏が死去した後、その妻で現・統一教会総裁の韓鶴子(ハン・ハクジャ=79)氏と子供たちの間で跡目争いが勃発し、3男派や7男派が分派。7男の亨進氏が設立したのがサンクチュアリ教会である。
その日本組織は一般社団法人「日本サンクチュアリ協会」(本部・東京都文京区)で、全国に約60の支部教会を持つ。同協会のウェブサイトによると、2015年に統一教会から離れた時点でのメンバーは40人と、かなりの小集団だった。
亨進氏がトランプ支持を打ち出した2017年以降、日本でも信者がトランプ氏を支持するデモや街宣を展開した。大統領選の一般投票でトランプ氏の敗北が濃厚となった2020年11月頃には激しく活動し、同月下旬には日比谷公園前から銀座を抜けるルートで、1000人近い参加者を集めるトランプ支援デモを行った。
当時、デイリー新潮でも「博多でトランプを支援する『Jアノン』 デモ密着で見えた正体」(21年01月19日配信)で、このデモを取材したルポライターの安田峰俊氏によるリポートを配信した。
彼らはトランプ氏の敗北が確定した後は、自民党総裁選で高市早苗氏を支持する街宣を行い、さらに反北京冬季五輪の集会とデモも行った。このデモに、自民党の国会議員4人が激励メッセージを寄せたことは、デイリー新潮「北京五輪をボイコットせよ! 『Jアノン』が1年ぶりに大集結を実況中継」(21年12月14日配信)でも報じた。今年6月の参院選公示直前には、参院選で幸福実現党と参政党を応援する旨ののぼりを掲げたサンクチュアリ教会の街宣車が目撃されている。
統一教会から分派した直後に比べ、最近は組織を拡大しているようだ。亨進氏の日本縦断ツアーの第一声となった「文亨進二代王帰還歓迎勝利報告大会 日本大会」の「東京大会」(6月25日)には400人近い信者たちが集まった。
陰謀論のネタ元は聖書?
信者の多くは中高年で、女性が6割ほど。若者や小さな子供の姿もあった。
一部は王冠をかぶり、中には銃弾を束ねて王冠にしている信者もいる。プラスチック製のレプリカのように見える。
25日の東京大会は、日本サンクチュアリ協会の江利川安栄会長(78)による亨進氏の歩みの紹介、統一教会本家との訴訟の勝訴報告、銃製造会社を経営し亨進氏を支援する国進氏(文鮮明の4男=51)の挨拶と進んでいく。江利川会長は、文鮮明の死後に息子たちを排除し独自色を強めた統一教会の韓鶴子氏を「“サタン”と通じ堕落した」と非難。さらに、こう続けた。
「(キリスト教の聖書の)黙示録6章にありますが、赤い馬が暴れまわる中国・北朝鮮、白い馬が暴れまわるグローバリスト、黒い馬が暴れまわるディープステート、そして緑の馬が暴れまわるイスラム圏。そしてコロナ。これは中国の生物兵器です」
「ヨハネの黙示録」には4頭の馬をきっかけとする厄災の描写はあるが、もちろん「ディープステート」云々の記述はない。しかしこのQアノン的な世界観は、彼らにとって聖書に記された教義なのだ。
銃弾王冠でノーマスクを説く
それから約3時間後、ようやく現れた亨進氏は、銃こそ持っていないが、妻・李妍雅(リー・ヨナ)氏とともに、いつもの金ピカ銃弾王冠を頭に載せている。まさか本物の銃弾ではないと思うが……。
亨進氏も、自身の母である韓鶴子氏を「堕落した」と非難し、世界のコロナ対策を批判し始めた。
「生物兵器(新型コロナ)にかかっても、99.7%の人は免疫力で勝つことができる。それが科学だ。なのにマスクを着けろと言う。マスクを着けた者たちは政府の奴隷になる。日本でも3年の間、市民にトラウマ与えて強制的にマスク、マスク、マスク! マスクは非科学的な詐欺だ。詐欺野郎!」
亨進氏はマスクを着けていない。会場の信者たちも、ほぼ全員がノーマスクである。講演の前後には賛美歌等の斉唱や宣誓文の唱和も行われていた。
ワクチンは中産階級を殺す作戦?
続いてワクチンについてこう述べた。
「共産主義者たちがTwitter(でのワクチン批判)を禁止し、ファイザー社はワクチンを売って800兆ウォンも儲けた。ロビー活動で政治家にカネを撒いた。ワクチン接種を3回受けたら90%以上、自分の免疫システムが壊れていく。若い者たちも突然、心臓麻痺で死んでいるという」
ワクチンを否定する陰謀論では、しばしば、ワクチンの目的はディープステートなど影の権力者による人間管理と人口削減と説明される。日本国内でワクチン接種会場に押し入って8人が逮捕された「神真都(やまと)Q」も同様だ。
「世界経済も壊されていき、日本もガソリン代、食糧費が上がり、世界供給ラインが壊されている。それは中産階級を殺す作戦だ。これが共産主義だ。政治サタン主義。全てのものは監視、検閲され、全て政府の許可のもとで行われる」
つまみ出される統一教会信者たち
亨進氏が再び韓鶴子氏批判を始めた場面で、会場に異変が起きた。
「魔女のような詐欺女! 韓鶴子バビロン。アボニム(父・文鮮明のこと)の敵たち!」
フロアから声が上がる。
「お母様(韓鶴子氏)を悪く言うな!」
声の主は4、5人ほどの統一教会の信者と思しき人たちだ。「暴力はやめろ!」などと叫びながら、会場の外へとつまみ出された。サンクチュアリ教会信者たちは満場の拍手で見送った。
2時間半に及ぶ長い講演が終わると、亨進氏がステージを降り、信者1人1人のところへ周りながら、何やら唱えて顔に手を当てる祈祷を始めた。サンクチュアリ教会で「聖霊の役事」と呼ばれる儀式だ。
最後に亨進氏が、信者の顔を軽く押す。信者は後ろに倒れ、待ち構えていたスタッフに支えられ床に倒れ込む。布をかけられ、死体のようにしばらく転がっている。一部のキリスト教会(福音派など)で見られる儀式とよく似ている。
私の眼の前で、転がったまま大声で泣きじゃくる女性がいた。2歳か3歳くらいの小さい子供が、つられて大泣きを始めた。
全てが終了したのは午後9時近く。開会から7時間もの長丁場だった。
無線機を使って伝道しろ?
亨進氏は、日本の信者の武装化までは主張しなかった。とはいえ、7月2日に大阪で行われた関西大会では、「平和軍警察」を組織するため、無線機やナイトスコープ(暗視装置)の購入と訓練を呼びかけた。
「(日本では)銃が持てないから軍の訓練ができない。それは言い訳だ。隣人と無線機パーティーをやって味噌ラーメンを食べましょう。無線機をあげて互いに気遣い合う。そうやって伝道していく。これが平和軍警察だ」
こうすれば日本の法令に触れない方法で、世界戦争や内戦が起こった際に隣人を守ることができるというのだ。Qアノン的な「戦いの準備」を呼びかけたのである。
本稿執筆時点で亨進氏は、東京、福岡、大阪での講演を終え、名古屋、札幌での講演を残している。最終日は7月13日、再び東京に戻り、定員1200人の会場で講演会が行われる予定だという。
◇
藤倉善郎(ふじくら・よしろう)
ジャーナリスト。1974年生まれ。宗教団体以外も含めた「カルト」の問題を取材。2009年にはカルト問題専門のニュースサイト「やや日刊カルト新聞」を創刊し、カルト被害、カルト2世問題、カルトと政治の関係、ニセ科学やニセ医療、自己啓発セミナーの問題などの取材を続けている。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島SUGOI文庫)。
デイリー新潮編集部