マイクロプラスチック、人間の血液内で発見される…その影響は今のところ「何も分かっていない」(BUSINESS INSIDER Mar. 30, 2022, 11:00 AM)
● 22人を対象とした新しい研究で、マイクロプラスチックが初めて人間の血液中で発見された。
● これは、人体がプラスチックを吸収し、それが血液を通じて循環していることを示す初めての証拠だ。
● この研究の対象はプラスチックへの添加物だったため、人体へのリスクはまだ明らかにはなっていない。
爪よりも小さく、完全に分解することのないプラスチックの破片、マイクロプラスチックはすでにどこにでもあるように思われる。マリアナ海溝やエベレストの頂上、ほこりや食べ物や飲み水、人間の胎盤や哺乳瓶からも発見されている。
そして今、科学者たちは人間の血液の中からマイクロプラスチックを発見した。
2022年3月24日にEnvironment International誌に発表されたオランダの研究で、健康な成人22人のうち、17人の血液中からプラスチック粒子が検出された。対象は少人数であるが、この種の研究は初めてである。
この研究に関与していない、アリゾナ州立大学環境健康工学バイオデザイン・センター所長のロルフ・ハルデン(Rolf Halden)は、Insiderに対し、「今回の研究は、プラスチックポリマーが血流に侵入しているという、まさに最初の証拠で、これが何を意味するのかは未だかなり不確かだが、不安なニュースではある」と述べている。
2019年の分析によると、我々が食べるもの、飲む水、吸う空気にマイクロプラスチックが含まれているため、アメリカ人は平均で毎年約5万個のマイクロプラスチック粒子を摂取し、ほぼ同量を吸い込んでいるという。2021年の別の調査では、人間は毎週平均して、クレジットカード1枚分のプラスチックを摂取していると推定されている。
他の研究では、幼児や大人の大便からプラスチックが発見されているが、それは吸収されずに消化器官を通過した粒子に過ぎない。マイクロプラスチックがヒトの胎盤に存在することは、それが血液を介して移動していることを示唆していたが、それは直接的な証拠ではなかった。今回の研究成果は、プラスチックが人間の血流に吸収され、全身に行き渡ることを示す、最初の決定的な証拠である、とハルデンは述べている。
アムステルダム自由大学に勤務しながら、今回の研究を主導した化学者で生態毒性学者のヘザー・レズリー(Heather Leslie)は、「これは、(マイクロプラスチックが)消化管を通過するだけではなく、長く体内に留まっているということだ」とInsiderに語った。
それが人体にどのような影響を及ぼすかは不明だ。しかし、レズリーたちは、人間の血液中にプラスチックが存在することを証明することで、健康への潜在的な影響に関する研究のための資金をより多く集めたいと考えている。
今回の論文を共同執筆した自由大学の化学者、マルジャ・ラモリー(Marja Lamoree)はInsiderに対し、「結局、我々全員が影響を受けているだろう」と語っている。
そして、「ただし、体内のマイクロプラスチックが危険かどうかを判断するのは早計だ」とも述べている。
プラスチックが健康に与える影響については「暗中模索」
プラスチックに含まれる一般的な化学物質に関する研究では、発がんリスクの増加、不妊や発育の問題、ホルモンの乱れとの関連が指摘されている。しかし、人の健康とプラスチックに関する研究のほとんどは、プラスチックそのものを構成するポリマーではなく、BPA(ビスフェノールA)のような単一分子や添加物について調査したものだ。
血液中のポリマーに関しては、ハルデンは「我々はほとんど暗闇の中にいるのと同じだ」と述べた。
レズリーのチームは、血液からプラスチック粒子を分離し、サンプルを加熱して添加物を蒸発させ、ポリマーだけを取り出した。
このポリマーは、プラスチックが粉々に砕けた微小な残骸で、埃に紛れて我々の家庭環境、食品、水に浸透しているが、そもそもは衣類やタイヤなど身の回りにある物からはがれ落ちたものだ。
「我々は1世紀にわたってプラスチックを使ってきたが、最近までプラスチックの粉塵のことは考えていなかった」とレズリーは述べている。
次のステップは、質量を測定できるようにするために、サンプルをさらに加熱することだった。そして最終的に、彼女らはポリマーの質量を計算することができた。
研究参加者の血液1ミリリットルあたり平均1.6マイクログラムのプラスチックポリマーが検出された。この濃度はバスタブ10杯分の水に小さじ1杯のプラスチックが含まれていることに相当する。血中プラスチックの安全な濃度はどの程度なのか、また、プラスチックが多く存在することによる健康への影響はどの程度なのか、どちらもまだよく分かっていない。
人間の体内には、まだまだ研究すべきプラスチックが数多く存在する
科学者たちは、マイクロプラスチックが人間の血流中に存在することを知り、そのプラスチックを測定できるようになった今、さらに多くのことを知ろうとしている。
レズリーは、より多くの人々の血液を調べるために研究を拡大している科学者たちの一員だ。彼らは、腸や肺の組織からマイクロプラスチックが見つからないか、その検査も行っている。
今回の研究では測定できなかった、より小さなサイズのプラスチック粒子が存在する。そうした微小な粒子は、血液脳関門を通過したり、他の組織に移動して、科学者がまだ発見していない大惨事を引き起こす可能性がある。
「プラスチックは至る所に存在する」とハルデンは述べている。
「そして今、それが環境にとどまらず、我々の体内にも入ってきていることが分かった。その体内のプラスチックが何を引き起こすかは、今のところ何も分かっていない」
(編集:Toshihiko Inoue)