「菅首相の長男との”仲間意識”」総務省幹部の規律が緩みきっていた根本原因(水野泰志 PRESIDENT Online 2021/03/01 18:00)より
計11チャンネルを運営する「東北新社」は明白な利害関係者
これらの処分を呼んだ「違法接待」は、菅首相の長男・正剛氏が勤める放送事業会社「東北新社」によるもので、判明しただけで2016年から2020年にかけて延べ39件、総額約60万円、うち21件に正剛氏が出席していた。
「東北新社」は、計11チャンネルの衛星放送を運営しているため、総務省が許認可権を持っており、利害関係者そのものであることは明白。放送行政の中枢を担ってきた官僚なら、知らないわけはない。
だが、谷脇康彦・総務審議官は2月22日の国会で、正剛氏らについて「利害関係者との認識はなかった」と答え、そのしらじらしさには失笑が漏れた。
秋本芳徳・前情報流通行政局長も湯本正信・前情報流通行政局担当総括審議官も当初、「利害関係者だとは思っていなかった」と弁明したが、こんなとぼけた釈明が通用するはずもない。放送業務に関わる話題についても、「記憶がない」とシラを切っていたが、「文春砲」の第2弾で会食の際の音声が暴露されると、一転して認めるというお粗末な展開をたどった。
「東北新社の接待」は、氷山の一角にすぎない
とはいえ、絶対的証拠を突きつけられない限り事実関係を認めない官僚の姿は、安倍晋三政権下の「森友・加計学園」問題と重なる。
なにしろ、今回の「違法接待」でも、総務省の調査では、懲戒処分になった官僚が自発的に名乗り出たケースは皆無で、「東北新社」から提供された接待リストを突きつけられて初めて会食の有無を認めたというのだから。
“仲間意識”で安心して「違法接待」を受けた?
今回の「違法接待」では、「総務官僚は、菅首相の息子に誘われたら断れない」と総務省人事を牛耳る菅首相ににらまれるのを恐れて心ならずも会食に応じざるを得なかった旨の報道が目につくが、実情はいささか異なるようだ。
菅首相について「自分に徹頭徹尾従った人には人一倍の恩義を感じ、報いようとする。逆に、抵抗すれば干す」と評した元総務官僚がいた。
なるほど、現在の総務省幹部は基本的に菅首相の眼鏡にかなった人物であり、かつて菅総務相の政務秘書官を務めていた正剛氏とは旧知でもある。それだけに、仲間意識で安心して「東北新社」の「違法接待」を受けたという見方がある。官僚の心理としても、権力者の息子と懇意になればプラスに働き、うまく取り入れば出世も早まるという思惑が働いてもおかしくない。
一方、放送事業者としては後発の「東北新社」は、「権力者の息子」をフルに活用して、衛星放送事業を拡大してきたともいえる。
やはり「東北新社」は「特別」だった
いささか高額な会食でも、特段の便宜を図ってもらったり極秘情報をいち早く入手できたりするのであれば、安い出費だろう。
「違法接待」が繰り返されている最中の2018年5月にはCS放送「囲碁将棋チャンネル」の新規参入が認められ、2020年12月にはBS放送「スター・チャンネル」の事業認定が更新された。
やはり「東北新社」は「特別」だったことをうかがわせる。
武田良太総務相が「違法接待」で「行政がゆがめられたことはない」と訴えても、額面通りに受け止める向きはいない。
次代の有望株を軒並み処分され、旧郵政人脈は壊滅状態
総務省は、統合官庁の常で、自治省、郵政省、総務庁の3省庁は容易に交わることはなく、幹部人事も新人採用も別々に行われるという時代が長く続いた。
トップの事務次官も3省庁によるたすき掛けが続いたが、その後、総務庁人脈が払底して次官を送り出せなくなると、旧自治官僚と旧郵政官僚が主導権争いでシノギを削るようになった。
そんな中、旧郵政官僚の鈴木茂樹前次官が2019年末、日本郵政グループに対する行政処分問題で、任期を全うできずに辞職。さらに、今回の「違法接待」で、旧郵政人脈トップの谷脇氏が一敗地にまみれ、続く吉田氏も、さらに続くはずだった秋本氏も、致命的な懲戒処分を受けた。
次代の有望株も軒並み処分され、旧郵政人脈は壊滅状態に陥った。当面、次官を狙えるような傑物は見当たらず、隠忍自重の日々が続くことになりそうだ。
こうした動きを静かに見守っているのが、旧自治官僚だ。