政倫審出席、岸田首相が延命へ「焦土作戦」 セキュリティー・クリアランス制度の穴「ハニートラップ」の検査項目がない(zakzak by 夕刊フジ 2024.3/6 11:00)
飯田浩司
先週の木曜日(2月29日)と金曜日(1日)、衆院政治倫理審査会が開かれました。メディアへの公開か非公開かをめぐり、開催が一日ズレました。トップバッターは、そうした経緯に業を煮やした岸田文雄首相でした。
岸田首相が完全公開で出席したため、ニッポン放送も含め、多くの放送局が首相の弁明を生中継しました。私も夕方の生放送の準備をしながらその様子を見聞きしていたのですが、頭に思い浮かんだのは「焦土作戦」という言葉でした。
「焦土作戦」とは、戦争などで、守勢に回る側が自らの領土内の田畑や家屋などすべてを焼き払うことによって、敵軍に利用価値のある物を一切残さず、敵を生存の窮地に陥らせる戦術です。
自民党派閥のパーティー収入不記載事件で、岸田派の元会計責任者まで立件されているのですから、岸田首相が守勢であることは明らかです。守勢の首相は得点を挙げることよりも、与党内のライバルや、もちろん野党にも得点を一切与えない戦術をとっているように見えました。
立憲民主党の野田佳彦元首相の質問に答え、「在任中は(政治資金パーティーを)やることはないと考えている」と明言したことが見出しになっていましたが、国民の大部分は「問題はそこじゃない!」と思ったでしょう。これで得点を挙げたと思ったら大間違いです。
岸田首相は弁明冒頭、「政治不信を払拭する」と言いましたが、折しも確定申告のこの時期に、誰しもが疑問に思う「政治資金ならば税務申告しなくていいのか」ということに言及しなければ政治不信はむしろ深まるばかりです。
政治風土そのものを焦土と化す岸田首相の戦術。賛成できるものではありませんが、結果として追い込まれているのは野党も一緒です。
一方、今国会の焦点とも言える重要法案が、この騒動の最中に閣議決定されました。経済安全保障に関する機密情報の管理を強化するための「重要経済安保情報保護・活用法案」です。国が保有する経済安保情報の取り扱いを有資格者に限定する「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度の創設が柱です。
国民民主党の玉木雄一郎代表が指摘していますが、実はこの法案には穴があって、アルコールや薬物、性的嗜好に関する項目がありません。いわゆる「ハニートラップ」についての検査項目がないのです。また、大臣、副大臣、政務官などは、適性評価なしでも重要経済安保情報にアクセスできるというのも性善説が過ぎるのではないでしょうか?
政権としては、自分たちに使い勝手の良い法律にしたいのかもしれませんが、国益を考えれば至極まっとうな指摘です。
今は政倫審の陰に隠れて目立ちませんし、野党が衆院3補選(4月16日告示、28日投開票)まで、このまま「政治とカネ」の話で政権支持率を落とそうとすると、与野党対決のこちらの法案は修正の機会なくシレッと通ってしまうかもしれません。
本来、野党の出番のはずです。
飯田浩司(いいだ・こうじ)
1981年、神奈川県生まれ。2004年、横浜国立大学卒業後、ニッポン放送にアナウンサーとして入社。ニュース番組のパーソナリティーとして、政治・経済から国際問題まで取材する。現在、「飯田浩司のOK!Cozy up!」(月~金曜朝6―8時)を担当。趣味は野球観戦(阪神ファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書など。