「トランプ氏とは交渉できる」 中国政府系の専門家は「バイデン氏と民主党の惨敗」を予測(東京新聞 2024年1月6日 06時00分)
<米大統領選2024 変わる世界>④
緊張が続く米中関係は、今年秋の米大統領選を経てどう変わるのか。中国政府系シンクタンク、中国社会科学院の呂祥(りょしょう)米国研究所研究員は、トランプ前大統領の再選の可能性が最も高いと予測し「彼とは交渉ができる」と関係改善に期待する。一方で米中対立の焦点である台湾情勢は、大統領選では争点にならないとの見通しを示した。
大統領選が終わるまで米中関係は安定
米中は昨年11月の首脳会談での合意に基づき、軍当局間の対話が再開するなど改善の兆しが出ている。呂氏は米中間で意見や認識の違いは残っているものの、首脳会談では「互いの(戦略的)意図に対する理解が増した」と評価。首脳間の相互理解も深まり、大統領選が終わるまでは「米国側が冒険的な行為に出ない限り、両国関係は総じて安定する」と分析する。
大統領選を巡り「中国政府はさまざまなシナリオを準備するはずだ」とあらゆる選挙結果に備えていると指摘する。その上でバイデン大統領の低支持率などを根拠に「(与党民主党は)大統領の地位はもちろん、議会でも多数の議席を失い惨敗する」と共和党の完全勝利を見通す。
共和党候補がトランプ氏以外なら「大きな衝撃」
トランプ氏は2021年の議会襲撃事件を巡って刑事訴追されているが、「立候補できれば間違いなく当選する」と言い切る。一方、トランプ氏の立候補資格が取り消され、対中強硬発言で知られるデサンティス・フロリダ州知事やヘイリー元国連大使が当選すれば「両国関係に大きな衝撃を与える」と懸念した。
トランプ氏が返り咲いた場合は貿易戦争が再燃する可能性もあるが、前政権での経緯から「トランプ氏とは交渉できる」との考えを語る。根拠の一つが20年1月に達した貿易協議の「第1段階の合意」だ。直後の新型コロナウイルス禍で関係改善は停滞したが、「トランプ氏は中国と交渉したがっていた」として再び関係改善に向かう可能性があると分析する。
台湾問題は大統領選の争点にならない
一方、中国が対米関係で最も重視するのは台湾情勢だ。呂氏は「(1972年に米大統領補佐官だったキッシンジャー氏が訪中して)両国が接触を始めた初日から、台湾問題は最重要の問題だ」と強調する。
しかし米大統領選では「効果が小さく、リスクが大きい」として争点となりにくいと分析する。具体的には「米国の市民は(台湾総統の)蔡英文(さいえいぶん)が誰かも知らないし、米国にとっての台湾の重要性も分かっていない」ことから「効果が小さい」。その半面、「中国は必要とあらば武力解決できる能力があると示してきた」として「リスクが大きい」と指摘する。22年8月にペロシ米下院議長(当時)が訪台した際に中国人民解放軍が大規模軍事演習をしたことなどを例示する。
呂氏は台湾総統選についても「結果次第では米中間でちょっとした意見の衝突が起きる可能性はあるが、大局に影響しない」と語る。「台湾情勢の安定に最も関心が高いのは中国だ。対米関係についても同様に安定を望んでいる」と強調した。(北京・新貝憲弘)
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呂祥(りょしょう)
1985年南京大学哲学部卒、91年に中国社会科学院で博士号(西洋哲学)取得。2011年から同院米国研究所に在籍。12年から13年まで米国戦略国際問題研究所(CSIS)の訪問学者を務めた。近年は米国政治や中国の対外戦略などを中心に研究。
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<米大統領選2024 変わる世界>
各国の識者への取材から、米大統領選が世界情勢にもたらす影響を探る。
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