トランプ氏再選は日本、韓国など同盟国には「悪夢」 元国家安保会議アジア部長が見通す最悪のシナリオ

米大統領選2024 国際

トランプ氏再選は日本、韓国など同盟国には「悪夢」 元国家安保会議アジア部長が見通す最悪のシナリオ(東京新聞 2024年1月3日 06時00分)

<米大統領選2024 変わる世界>②

東アジアでは北朝鮮が核ミサイル開発をやめず、中国が影響力拡大を続ける。大統領選後の米国は中朝といかに向き合い、日本や韓国などの同盟国と付き合うのか。ジョージタウン大のビクター・チャ教授は、ブッシュ(子)政権などで北朝鮮問題などに携わってきた経験から、バイデン政権のアジア政策を評価する。一方、トランプ政権の再来という「悪夢」に対して日本や韓国など同盟国の備えは不十分と指摘する。

バイデン政権は「うまくいってる」

チャ氏は、米国が「唯一の競争相手」と位置付ける中国に対し「地政学的な競争という点で米国政府は十分に組織化されていなかったが、バイデン政権は発足直後から対応した」と分析。日米韓の関係強化や、米英豪による「AUKUS(オーカス)」など、経済も含めた安全保障に軸足を置いた連携強化の枠組みを次々と構築し、「非常にうまくいっている」とみる。

同時に、中国とは対話による緊張緩和も模索する。半導体など戦略的に重要な製品や技術について、中国抜きでまかなえるようにするサプライチェーン(部品供給網)づくりを目指しつつ、「ほかの品目の貿易については中国とのデカップリング(分離)は考えていないだろう」。バイデン政権の「競争するが対立は求めない」という難しいかじ取りを評価する。

北朝鮮とロシアの急接近を懸念

一方、北朝鮮問題については懸念を強める。外交での打開策を見いだせないからだ。

国連安全保障理事会が機能不全に陥っているため、決議違反のミサイル発射を止められない。さらに、対ウクライナでの弾薬調達を狙う常任理事国ロシアが北朝鮮に急接近しており、核開発の技術を提供した可能性が指摘される。

現段階では米国が核戦力を含む軍事力で日本と韓国を防衛する「拡大抑止」に「心配はない」としつつ、「北朝鮮がロシアの原子力潜水艦の技術協力を受けて海上配備型の核兵器能力を持つようになれば、米国の拡大抑止力の信頼に影響しかねない」と憂慮する。

北朝鮮が米国の対話の呼びかけに応じる兆しはなく、米国は中国に影響力の行使を求めるが、中国は「米国を助けることに関心はない」という。

中国と全面的な競争関係に突入したことで

チャ氏は2000年代前半に、北朝鮮の核開発を協議する同国と日米中韓ロシアの6カ国協議にも携わった。「当時は中国が成長している段階で、われわれは中国に主催者になるよう求め、彼らはその責任に興奮していた」といい、「互いに北朝鮮から言われたことを突き合わせて、北朝鮮のウソを見破ったりしていた」と振り返る。しかし現在、米中は全面的な競争関係に突入し「『責任ある利害関係者』という関係は失われてしまった」

こうした難しい局面のなか、24年秋の米大統領選に向けた世論調査で、目下の人気トップはトランプ前大統領。前政権では日韓に米軍の駐留経費の大幅増額を要求したとされ、一部製品の関税の引き上げも迫るなど同盟関係を揺さぶった人物だけに、チャ氏は「同盟国にとって悪夢が戻ってくるようなものだ」と語る。

「トランプ氏は、同盟国や友好国は米国の力を奪うと信じている」ため、バイデン政権が進めた多国間枠組みの「重要性を理解するとは思えない」と協力の後退を懸念する。

トランプ氏復権を「習近平主席は大喜びするだろう」

また、トランプ氏は「外交を金銭的側面から考える」ため、高い関税をかけている対中貿易については変化はないとみられる。しかし、バイデン政権が自由や民主主義の観点から重視してきた台湾や香港、新疆ウイグル地区について「トランプ氏は気にかけていない」。中国が実際に台湾への侵攻に踏み切るかは「台湾総統選などほかの要因にもよる」としつつ「侵攻への障害が減るという認識をアジア諸国に植え付けることは確かだ」と話した。

同じく「フィリピンやベトナムといった中国からの軍事的脅威にさらされている国も、見捨てられるのではないかと心配になる」と推測。「中国の習近平国家主席は大喜びするだろう」として「インド太平洋地域全体の安全保障の力学にただちに影響する」と懸念した。北朝鮮についても、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記と直接対話を重ねながらも非核化への道筋を見いだせなかったため、「事実上の核保有国として受け入れるかもしれない」と語った。

米ハーバード大などによる23年12月の世論調査では、次期大統領選がバイデン氏とトランプ氏の再戦になった場合、トランプ氏の支持率は47%で、バイデン氏の42%を上回る。チャ氏は、トランプ氏には「世論調査ほどの大きなリードがあるとは思わない」としつつ、韓国やフィリピンなどでは「トランプ再来」への備えは「まだあまり行われておらず、24年にどのような態度をとるか注目している」と述べた。

ビクター・チャ
1961年ニューヨーク生まれ。米コロンビア大で博士号(政治学)取得。2004~07年まで国家安全保障会議(NSC)アジア部長、北朝鮮の核開発問題を協議する6カ国協議では米国の次席代表も務めた。18年に駐韓国大使に内定したものの、トランプ氏の北朝鮮に対する攻撃案に反対して取り消された。著書に『米日韓 反目を超えた提携』(有斐閣)など。戦略国際問題研究所(CSIS)上級副所長も務める。

<米大統領選2024 変わる世界>
各国の識者への取材から、米大統領選が世界情勢にもたらす影響を探る。

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