再びトランプ政権になっても日本と韓国は連携強化を 尹錫悦政権のブレーンが強調する「協力の利益」

米大統領選2024 国際

再びトランプ政権になっても日本と韓国は連携強化を 尹錫悦政権のブレーンが強調する「協力の利益」(東京新聞 2024年1月5日 06時00分)

<米大統領選2024 変わる世界>③

誰がアメリカ大統領になっても、協力の枠組みは続く

バイデン米政権下では日米韓の安全保障協力が強化され、中国や北朝鮮との対立が続いた。今年秋の大統領選を経て、こうした構図は変わるのか。韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)政権の外交ブレーンでもある韓国国立外交院の朴喆熙(パクチョルヒ)院長は「各国で政治指導者が代わっても、これまでに築かれた枠組みは続くだろう」と展望する。

米韓は2023年4月の首脳会談で発表したワシントン宣言に基づき、北朝鮮の抑止戦略を検討する核協議グループ(NCG)を発足させた。2023年8月の日米韓首脳会談でも安保協力強化を打ち出し、連携の制度化を進めてきた。

判断基準は結局のところ「アメリカの利益になるか」

朴氏は、こうした試みの意義を「首脳だけでなく外相や安保、産業担当の高官らの会合を定例化しておけば、各国で政権交代があってもその枠組みは続く」と説明する。米国は独裁国家と異なりシステムで動くとして「特異な指導者の考えで、全てを変えるのは難しい」とも指摘した。

影響力を増す中国に対する米国の強硬姿勢は、民主党と共和党に共通する。米国が対中けん制を念頭に深化させてきた日米韓の協力を覆すことは「米国の利益にならない」とし、誰が大統領になっても「結局、判断基準は『米国の利益になるか否か』だ」と語る。

トランプ前政権は、北朝鮮との融和を目指した韓国の文在寅(ムンジェイン)政権と時期が重なる。トランプ氏は外交を商取引のように扱うスタイルだったが、朴氏は、文政権にもそのような発想があり、「北朝鮮との関係を良くするためなら、米国との同盟すら俎上(そじょう)に載せた。同盟が弱くなっても構わないという方針だった」と話す。

文氏は退任間際のインタビューで、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長(当時)との直接会談をトップダウンで決めたトランプ氏が「韓国にとって非常に良かった」と振り返った。米国では北朝鮮との交渉に慎重な雰囲気が根強いためだ。しかし米朝の仲介役を自任した文氏が描いた南北融和は、ハノイでの米朝首脳会談が決裂して実を結ばなかった。

枠組み重視のバイデン、2国間関係重視のトランプ

一方、尹政権は北朝鮮の核の脅威に対し、米韓の同盟強化で対応する方針だ。朴氏は「米政権が代わっても、米国との同盟を基軸とする韓国の方針は変わらない」と断言する。

米国の意向は日韓関係にも影響してきた。尹政権で関係改善が進んだ背景について、朴氏は「同盟国や友好国とのネットワークを重視するバイデン政権は日本と韓国をつなげるという明確な戦略を持っていた」と話す。一方のトランプ氏は多国間の枠組みより、2国間関係を重視する。朴氏は「米国の顔色を見るのではなく、韓日は自分たちの利益になるよう連携を維持、強化すべきだ」と訴える。

「アメリカ中心」対「多極化」の戦いの構図

現在の世界情勢は「米国を中心とした国際秩序を維持しようとする勢力と、米国の指導力を弱めて多極化の秩序をつくろうという勢力の戦い」と指摘したうえで、「韓国と日本は明らかに前者だ。その根本を見失うべきではない」と強調する。(ソウル・木下大資、上野実輝彦)

朴喆熙(パク・チョルヒ)
1963年生まれ。日韓関係に詳しく、ソウル大国際大学院長など歴任。尹錫悦大統領の外交政策のブレーンを担い、政権発足直前の2022年4月に日米を訪れた政策協議代表団にも加わった。23年3月から現職。

<米大統領選2024 変わる世界>
各国の識者への取材から、米大統領選が世界情勢にもたらす影響を探る。

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