ワグネル代表プリゴジン氏、飛行機墜落で死亡か 搭乗者名簿に名前とロシア当局

今年5月のプリゴジン氏。ウクライナ東部バフムート制圧に大きな役割を果たしたのち、後退するワグネル部隊を激励していた 国際

ワグネル代表プリゴジン氏、飛行機墜落で死亡か 搭乗者名簿に名前とロシア当局(BBC NEWS JAPAN 2023年8月24日 09:30)

ロシアの雇い兵組織ワグネルの創始者エフゲニー・プリゴジン氏(62)らを乗せた自家用機が、モスクワの北西約300キロのトヴェリ州クジェンキノ村近くで墜落したとされる。ロシア連邦航空局は23日、墜落機の乗客リストに、プリゴジン氏の名前があると明らかにした。国営インタファクス通信は、墜落現場で乗客乗員10人全員の遺体が確認されたと伝えた。プリゴジン氏は今年6月、ロシア国防省に対する反乱を起こし、部隊を一時、モスクワへ向かわせた。 他方、死者の身元について慎重を促す専門家の声もある。

ロシア非常事態省によると、23日午後にモスクワからサンクトペテルブルクへ向かっていた墜落機の乗客7人と乗員3人が死亡した。

ロシア連邦航空局(ロサヴィアツィア)は、墜落したプライベートジェット機「エンブレアル・レガシー」の搭乗者リストにプリゴジン氏の名前があったと、墜落の約1時間後に発表した。

国営タス通信は、プリゴジン氏所有の「エンブレアル・レガシー」が、地面に激突して炎上したと伝えた。墜落したのは離陸から30分以内のことだったとしている。

インタファクス通信は、墜落現場で10人全員の遺体が確認されたと伝えた。墜落現場は、モスクワとサンクトペテルブルクのおよそ中間地点に位置する。

ロシア連邦航空局はその後、プリゴジン氏のほかにドミトリー・ウトキン氏も墜落機に搭乗していたと発表。そのほか、セルゲイ・プロパスティン氏、エフゲニー・マカリャン氏、アレクサンドル・トトミン氏、ヴァレリー・チェカロフ氏、ニコライ・マツセイェフ氏が乗っていたという。墜落機の乗員は、アレクセイ・レヴシン機長、ルスタム・カリモフ副操縦士、クリスティナ・ラスポポワ客室乗務員だったという。

ウトキン氏は、ワグネル共同創始者で司令官。複数報道によると、チェカロフ氏はプリゴジン氏の側近。その他の4人もワグネル関係者やプリゴジン氏の警備担当者だという。

航空当局は、墜落の原因について、ロシア刑法にもとづき刑事捜査が開始されたと明らかにした。

ワグネル系とされる「テレグラム」チャンネル「グレイ・ゾーン」は23日夜、ロシア軍がプリゴジン代表やウトキン氏を乗せた飛行機を撃墜したと伝えた。

「グレイ・ゾーン」によると、クジェンキノ村の住民は飛行機が墜落する前に2回、爆発音を聞き、水蒸気の筋が2本伸びる様子を目にしたという。

「グレイ・ゾーン」は、プリゴジン代表が「ロシアに対する裏切り者の行為の結果、死亡した」と書き、「しかし彼は地獄でも最高の存在になる!」とたたえた。

また、プリゴジン氏が所有する別のプライベートジェット機は、モスクワ州内に無事に着陸したとしている。

モスクワで取材するBBCのウィル・ヴァーノン記者によると、ロシア連邦航空局は墜落の約1時間後の時点で、プリゴジン氏の名前が墜落機の搭乗者名簿にあると声明を発表した。これは連邦航空局にしては異例なほど素早い対応だと、ヴァーノン記者は指摘。国内ではそれに大勢が驚いたという。

ヴァーノン記者によると、ロシア国営テレビはこの件について報道を最低限にとどめており、国営チャンネル1の夕方のニュース番組では、約30秒しか触れなかった。

同じ23日には、ロシア空軍のセルゲイ・スロヴィキン総司令官が解任されたと伝えられた。スロヴィキン氏はプリゴジン氏と良好な関係にあるとされ、6月24日のワグネル反乱以降、スロヴィキン氏の姿は公の場で確認されていなかった。

「驚かない」とバイデン米大統領

プリゴジン氏が死亡した可能性について、訪問先のネヴァダ州で記者団に質問されたアメリカのジョー・バイデン大統領は、「自分なら何を飲んで何に乗るか気を付けると、前に言ったが」と前置きし、「正確な事実関係は分からない」ものの「驚かない」と述べた。

さらに記者たちから、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が関与していると思うかと聞かれると、「ロシアでは、プーチンが関与していないことは、そうはたくさん起きない」としつつ、「答えがわかるほどの情報を得ていない」と述べた。

ウクライナのミハイロ・ポドリャク大統領顧問はソーシャルメディアで、「戦争の霧が晴れるのを待つべきだが」としつつ、「プーチンは自分をおびえあがらせた相手を、許したりしないのは明らかだ。2023年6月に彼を無効化した当人は、まさに。そして時機をうかがっていたのだ」と書いた。さらにポドリャク氏は、「プリゴジンはルカシェンコの突拍子もない『保証』や、同じくらいばかげているプーチンの『名誉にかけた言葉』を信じた瞬間、自分自身の特別殺害令状に署名した。それは明らかだ」とも続けた。

さらに、「反乱未遂から2カ月後に、プロゴジンとワグネル司令部を明確に排除したことは、2024年大統領選を前にプーチンからロシアのエリートたちへの合図だ。『警告する! 不忠は死を意味する』という意味だ。同時に、これはロシア軍への合図でもある。『特別軍事作戦の英雄』など生まれない。ウクライナの軍事法廷に裁かれるのでなければ、ロシア保安庁(FSB)の銃弾で死ぬことになる」とも、ポドリャク顧問は書いた。

イギリス下院外交委員会のアリシア・カーンズ委員長は、ロシア当局が非常に素早く、プリゴジン氏が墜落機に乗っていたと確認し発表したこと自体が、「私たちが知るべきすべてを物語っている」とソーシャルメディアに書いた。

「プーチンが絶対に許せない罪はひとつ、プーチンとロシアに対する裏切りだ」とカーンズ氏は書き、「プーチン氏は裏切り者だとみなす相手を追跡する。それがイギリス国内でも。たとえばアレクサンドル・リトヴィネンコやセルゲイ・スクリパリのように。今回エフゲニー・プリゴジンもそのリストに加わり、プーチンの恥辱がこれで終わった」

英紙デイリー・テレグラフはイギリス安全保障当局筋の話として、プーチン大統領の命令を受けたFSBが、プリゴジン氏の搭乗機を撃墜したのだろうと書いていいる。

イギリス対外情報部(MI6)のロシア部門責任者だったクリストファー・スティール氏は、プリゴジン氏がこのような結末を迎えることは「避けがたい」ことだったと指摘。スティール氏はBBCに対して、飛行機墜落はおそらくロシアの保安当局の幹部によって手配されたことで、「もしかするとプーチンは暗黙の承認を与えていたかもしれない」と話した。

「ロシア国内でビジネス界のトップレベルがプリゴジン氏の殺害を指示したという情報も、数週間前に耳にしていた」、「プリゴジン氏にはたくさんの敵がいて、政権内に支援者はほとんどいなかった。なので、こういう結末を迎えるのはある意味で避けがたいことだった」と、スティール氏は付け加えた。

一方、死亡したのが本当にワグネル代表のプリゴジン氏なのか、慎重に見極めるべきだという専門家もいる。

ロンドンの王立国際問題研究所(チャタムハウス)のロシア専門家、キア・ジャイルズ氏は、「(ロシア航空当局は)『エフゲニー・プリゴジン』という名前の乗客が搭乗していたと発表した。しかし、彼の移動経路をたどりにくくするため、これまでに複数人が『エフゲニー・プリゴジン』に改名したことも知られている」と指摘。

死亡したのがワグネル代表のプリゴジン氏だと「確定」するまで、「いきなりアフリカから新しい動画で登場しても、驚かないようにしよう」と、ジャイルズ氏はべた。

「プーチンのシェフ」から反乱の首謀者へ

プリゴジン氏の出身地サンクトペテルブルクの旧ワグネル・センター近くには、花やろうそくが供えられた

プーチン氏と同じサンクトペテルブルク出身のプリゴジン氏は、ソ連崩壊後にサンクトペテルブルクでケータリングやレストラン経営を開始。プーチン氏とそのころに知り合い、やがてプーチン氏が大統領になると、傘下企業が大統領府向けケータリングを受注。「プーチンのシェフ」と呼ばれるようになった。

2014年に雇い兵組織「ワグネル」を創設。現在の戦闘員は約2万5000人に上る。

ウクライナ侵攻では、東部バフムートなど激戦地の戦闘に参加し、数々の残虐行為を重ねたとされる。ほかにもシリアや西アフリカで活動し、最近ではアフリカ各地での政情不安への関与が指摘されていた。

バフムート攻防戦終盤の今年5月、プリゴジン氏は、ワグネル兵の遺体が多数横たわる中を歩く自らの動画をソーシャルメディアに投稿し、ロシア国防省を激しく非難。「数万人」がバフムートで死傷したとして、「ショイグ! ゲラシモフ! 弾薬はどこだ! この連中は志願兵として来てお前たちのために死んでいった。お前らが豪華なマホガニーのオフィスでぶくぶく太っていけるように」など、激しい表現を交えながらショイグ国防相とゲラシモフ総司令官を罵倒していた。

6月には、ロシア政府が「ワグネル」を直接傘下に置く方針を示したことに、プリゴジン氏は強く反発していた。

6月23日には、ウクライナでの戦争は「ショイグが元帥になれるよう」開始されたのだと非難。「国防省は国民をだまし、大統領をだまし、いかれたウクライナが我々を攻撃しようとして、NATO(北大西洋条約機構)と一緒になって我々を攻撃しようとしているだとか、そんなでたらめをまきちらしていた」のだと攻撃していた。

プリゴジン氏は6月23日夜になると、ロシア軍の砲撃で戦闘員30人が死亡したのだと主張し、これを機に部隊をロストフ・ナ・ドヌへ進軍させた。24日朝にはワグネル部隊を率いてロシア南西部ロストフ・ナ・ドヌの軍事拠点を占拠。ウクライナ侵攻をめぐりロシア軍幹部を罵倒した。その後、部隊を首都モスクワから数百キロの地点まで進軍させたが、同日夜に撤収を命じた。

プーチン氏は24日午前に異例の緊急演説で、ワグネルの行動は「わが国民を後ろから刺す」「裏切り」だと非難し、「厳正に対処する」と約束した。

ロシア政府はその後、プリゴジン氏がベラルーシへ移動することで合意したと発表。27日には、ベラルーシのルカシェンコ大統領がプリゴジン氏の到着を発表した。

最近では今月21日に、アフリカで撮影したとみられる動画をオンラインで公開した。反乱後初の演説動画だった。

(英語記事 Wagner chief Yevgeny Prigozhin presumed dead after Russia plane crash / Live page