【前編】
岸田首相が創価学会・池田大作名誉会長死去で「異例の弔問」 政権に不満を抱える学会員に“媚び”を売る下心か
岸田首相が創価学会・池田大作名誉会長死去で「異例の弔問」 政権に不満を抱える学会員に“媚び”を売る下心か(週刊ポスト 2023.11.27 06:58)
公称会員世帯数827万を誇る創価学会の拡大をリードした池田大作・名誉会長の死は、自民党が選挙で頼る「学会票」に多大な影響を与える。「池田氏の弔い合戦」となる次期総選挙を前に、事態は焦眉の急を告げている。
長男が同席していた意味
池田大作氏の訃報に政界で最も敏感に反応したのは岸田文雄・首相その人だった。
〈池田大作氏の御逝去の報に接し、深い悲しみにたえません〉
池田氏が11月15日に死去していたことを創価学会が同18日に公表すると、岸田首相はサンフランシスコで開催されていたAPEC首脳会議への出席のため米国訪問中だったにもかかわらず、ただちに自身の公式サイトとSNSに「内閣総理大臣」として弔慰を発表した。
その直後から、SNSでは〈内閣総理大臣名で宗教法人のトップの訃報にコメントを出すのは問題〉〈政教分離に反する〉などの批判が相次いで炎上。松野博一・官房長官が会見で、「コメントは、個人としての哀悼の意を表するため、岸田総理大臣個人のSNSのアカウントやウェブサイトで弔意を示したものと承知している」と釈明するなど火消しに追われた。
過去に首相名義で政府が宗教指導者への弔意のメッセージを出したのは昨年12月に亡くなったカトリックの名誉教皇ベネディクト16世くらいだ。
支持率低迷のなか、批判には敏感になるものだが、岸田首相は逆に、批判が再燃しても構わないとばかりに翌19日はハードスケジュールを押して池田氏を弔問した。
この日は地元・広島(三次市)で裕子夫人の父、和田邦二郎氏の葬儀が行なわれた。岸田首相は当日未明に米国から帰国したばかりだったが、朝、空路広島入りして義父の葬儀に参列すると、火葬場からそのまま広島空港に向かって東京にとんぼ返りし、羽田からまっすぐ創価学会本部別館を訪れたのだ。
「総理は義父の邦二郎氏には初当選の頃から大変力になってもらったと恩を感じているが、お通夜には行けなかった。だから本当は葬儀で和田家の親類とじっくり話をしたかったはずなのに、池田氏の弔問には真っ先に駆けつけなければならないという総理自身の政治判断でとんぼ返りの強行軍になった」(官邸スタッフ)
首相を乗せた公用車が同別館に入る様子は日本テレビのニュースで報じられた。
そこで首相を迎えたのは原田稔・創価学会会長だけでなかった。池田氏の長男である池田博正・同主任副会長も同席していたという点は見逃せない。宗教専門誌『宗教問題』編集長の小川寛大氏が指摘する。
「岸田首相はこれまで創価学会との関係が比較的希薄だった。原田会長とも親しいとは言いがたく、ましてや博正氏と話す機会など、このタイミングを逃せば二度となかった可能性もある」
集団指導体制とされる創価学会組織のトップは原田会長だが、学会員からカリスマ的支持を集めるのは池田大作氏という二重構造があった。その池田氏亡き後、教団の精神的支柱になるとの見方もある博正氏。直接会える機会を逃したくないのが、岸田首相が批判のなかであえて弔問に出向いた理由ではなかったか。
テレビカメラが待ち構えるなかでの弔問は大々的に報じられ、岸田首相にとっては学会員への大きな宣伝になった。
岸田首相が今回の弔問をそこまで重要視したのには事情がある。
自公の亀裂、軋み
いま、創価学会の会員の間に岸田政治への不満が渦巻いているのだ。東京のある区の創価学会地区幹部が語る。
「学会員は岸田政権には当初からモヤモヤを感じていたが、その不満がかなり強くなっている。それは、安倍(晋三)政権、菅(義偉)政権の時と創価学会へのスタンスが大きく違うからです。学会員はタカ派の安倍政権を警戒していたけど、実際のところ、安倍さんや菅さんは自民党内の反対を押し切って消費税の軽減税率を導入したり、コロナの時も国民全員に10万円給付したりと公明党の主張を聞き入れてくれた。
しかし、学会の上のほうの人が集会で言うには、岸田さんは公明党の提案を全然聞かないそうです。それでいい政治ができるはずがない」
1人4万円の「定額減税」もすこぶる評判が悪い。
公明党は今回の経済対策では「減税措置は効果が出るまで時間がかかる。給付措置は即効性が高い」(北側一雄・副代表)と現金給付を主張していたが、首相は現金給付ではなく減税にこだわった。古参の学会員はこんな言い方をする。
「コロナの時の10万円は有り難かったが、今回は減税実施が来年6月と聞いてなんじゃそれはとガッカリ。岸田さんは庶民の気持ちを全くわかってないね。支持率が下がるのは当然だ」
自民党の「最強の集票マシン」である創価学会の“岸田離れ”は選挙にも影響している。
最近、自民党は地方選で大きく議席を減らしており、とくに東京では、9月の立川市長選、10月の都議補選、11月の青梅市長選と連戦連敗だ。選挙分析に定評がある政治ジャーナリストの野上忠興氏が指摘する。
「立川市長選、都議補選ともに公明党は自民候補を支持せずに自主投票に回った。その結果、市長選は負け、都議補選は定員が2あったのに自民候補は3位で落選。公明票がなければ都市部で自民は勝てない。そればかりか、青梅市長選は自公相乗りだったのに負けた。岸田首相の支持率が下がって公明党と選挙協力しても組織が動かなくなっている」
日程の無理を押しての弔問には、この機会に岸田離れを起こしている学会員に“媚び”を売っておこうという下心が見え隠れする。
※週刊ポスト2023年12月8日号
死の前日の党首会談
【後編】
【支持率低下で解散断念】岸田首相に迫る“2つの影” 早く選挙をやってほしい公明党・創価学会、岸田おろしに動く菅元首相・二階元幹事長
【支持率低下で解散断念】岸田首相に迫る“2つの影” 早く選挙をやってほしい公明党・創価学会、岸田おろしに動く菅元首相・二階元幹事長(週刊ポスト 2023.11.27 06:59)
池田氏は創価学会の政界進出を主導し、「日本最強の集票マシン」として育て上げた。
公明党・創価学会にとって、次の総選挙は負けられない「名誉会長の弔い合戦」となる。すでに選挙準備も整えた。選挙の第一線に立つ学会の活動家がこう言う。
「統一地方選が終わった後、今年7月から秋の解散総選挙を前提に全国で準備をスタートさせ、9月からは臨戦態勢です」
山口那津男・公明党代表も10月23日の講演で「ここから先は(解散が)いつあってもおかしくないという心構えで準備をしたい」と語っていた。
だが、その選挙戦略を狂わせたのも岸田首相だ。首相は「減税」を武器に解散に踏み切る構えを見せていたが、支持率急落で断念に追い込まれた。
新聞・テレビが「岸田首相 年内の衆議院解散 見送る意向を固める」(11月9日のNHKニュース)などと一斉に報じた5日後、11月14日に山口代表は官邸で首相と1時間にわたってサシの党首会談を行なった。
政界にはこんな情報が流れている。
「公明党・創価学会はカネも人手もかけて選挙準備をしてきた。今さら止められない。山口代表は岸田総理に年内解散は本当にないのかと迫った」(官邸関係者)
その翌日、池田氏が亡くなった。創価学会の選挙支援を受けてきた自民党ベテラン議員が語る。
「公明党・創価学会としては、池田氏が亡くなったからこそ、学会をまとめるためにも早く選挙で結集して頑張りたいはずだ。解散できないまま選挙の時期がズルズルずれ込み、時間が経つほど弔い合戦という名目を使えなくなる。だから、以前にも増して早く選挙をやってほしい事情ができた。しかし、岸田首相にはもう解散する力はないし、仮に岸田政権のまま選挙になれば自民党も公明党も玉砕になってしまう。公明党も学会も、岸田首相では選挙を戦えないということがわかっているのでは」
自民党では“岸田おろし”の動きが表面化してきた。注目されているのが反主流派の重鎮、菅義偉・前首相の言動だ。
「国民になかなか届いていないのは、きちんと説明をする必要がある」
ネット番組で岸田首相の経済対策を批判し、同じ反主流派の二階俊博・元幹事長、森山裕・総務会長と会合を重ねている。
「菅─二階─森山で加藤勝信・元厚労相を総裁に担ぐ動きがある。加藤氏と仲がいい安倍派の萩生田光一・政調会長がそれに乗れば、強力な候補になる」(政界関係者)
公明党・創価学会はそうした自民党内の“岸田おろし”の行方を見極めようとしているようだ。選挙分析に定評がある政治ジャーナリストの野上忠興氏が指摘する。
「創価学会が自民党で最も信頼している政治家といえば菅前首相です。菅氏が次の総理総裁の擁立に動き、自民党内の流れが決まってくれば、それに連動する形で公明・学会が岸田首相にNOを突きつけ、新たな首相を据えて解散総選挙で弔い合戦に臨むシナリオは十分あり得るでしょう」
そうなれば、まさに“死せる池田、生ける岸田を走らす”ではないか。
※週刊ポスト2023年12月8日号