広島ビジョンに「被爆者」の記載なし 説得力なく残念(毎日新聞 2023/5/21 12:00 最終更新 5/21 13:07)
「核なき世界」を目指して行動する若者たちが広島にいます。グループの名前は「核政策を知りたい若者有権者の会(通称・カクワカ広島)」。広島市で開催中の主要7カ国首脳会議(G7サミット)」は、その目にどう映るのでしょうか。共同代表、田中美穂さん(28)による現地報告の4回目です。
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核軍縮に焦点を当てたG7サミットの首脳声明「広島ビジョン」が発表されました。率直なところ、内容に驚きはありませんでした。残念なのは、せっかく首脳たちが広島に来て平和記念公園を訪れ、原爆資料館を視察し、さらに被爆者の小倉桂子さんとの対話もしたのに、声明には「被爆者」という言葉がどこにもなかったことです。被爆者という言葉なくして核廃絶を語るのは難しいと思います。広島に来て、見て、聞いたことが文書に反映されていない。首脳たちがどう感じたかが出てきてこそ説得力が出ると思うのですが、これならば広島に来なくても発することができた内容です。G7首脳が議題にした「核軍縮」と、私たちが目指す「核廃絶」との溝なのでしょうか。
19日に原爆資料館を視察したG7首脳が芳名録に記帳したメッセージが公表されました。アメリカのバイデン大統領は、思った以上に具体的に自身の言葉を書いたんだな、と受け止めました。同時に「世界から核兵器を永久になくせる日に向けて、共に進んでいきましょう」とあるのは、まずはアメリカから減らすべきだろう、と思いました。岸田文雄首相の記帳は、主語がよく分からない。「議長として各国首脳と共に『核兵器のない世界』をめざすためにここに集う」とありますが、自分がどう行動するかが書いてありません。
全体的に他の首脳も「私が」と主語を明確にしたものがありませんでした。これまであまり記帳の内容に注目したことはなかったのですが、例えば「核兵器のない世界を追求する勇気を持ちましょう」と記したオバマ元米大統領がもう一度広島に来たら何と書くだろう、と考えます。今からでも遅くありません。そうすれば「本気度」を感じることができるでしょう。
私たちは核政策について国会議員への行動を続けてきたグループなので、このサミットの間に日本の議員から目立ったアクションがないのが気になります。フランスの国会議員グループは広島を訪問したマクロン大統領に対し、核廃絶に取り組むよう求める文書を出したと聞きました。しかし日本では、地元の広島の国会議員からも核廃絶に向けた動きが与野党とも出てこない。こうしたことが国内で世論が盛り上がらない要因ではないかと思います。
20日にはウクライナのゼレンスキー大統領が広島に入りました。広島でどんな行動をし、どんな発言をするのか。核兵器反対と戦争反対を訴える広島の市民と同じ方向であってほしい--。そんな思いで会場の宇品島に向かう車列を見ました。