3000人の村に「10億円の交付金」! 河野大臣が絶賛…「スーパービレッジ構想」のトホホな実態(FRIDAY 2023年05月02日)
電話1本で店員が配達してくれる村に「宅配ロボット」の出番はない
スマートフォンを無料で貸しつけられ、使い方を教わるも覚えられずストレスを溜める高齢者たち。鳴り物入りで導入された自動配送ロボットは、雪道を走行できないため積雪シーズンは冬眠状態に――。
そんな実態を知るや知らずや、河野太郎デジタル大臣は去る4月9日、北海道の十勝に位置する人口約3100人の村を訪れ、11日の記者会見で次のように報告した。
「一昨日の日曜日、マイナンバーカードを活用して高齢者の暮らしを支えるデジタルサービスの実装を進めている北海道の更別村へ視察にまいりました。更別村では、高齢者を対象に月額3980円で医療や健康、趣味までを含めたさまざまなブログラムを提供するサービスに取り組んでいました」
河野大臣が絶賛したのは、「持続可能な村の実現」を目指す更別村の、デジタル技術で地域課題を解決する「スーパービレッジ構想」の取り組み。その内容とは、ロボット配送やスマートウォッチによる健康管理などの「100歳までワクワク(ひゃくワク)サービス」と銘打つ生活支援サービスの提供だ。
更別村がスーパービレッジ構想につぎ込む事業費は7億5337万円。地方紙の十勝毎日新聞によると、デジタル田園都市国家構想交付金の約5億円と新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金などの約2億円で賄われるという。
大層な額の国費が投入され進められている事業なのだが、サービスを利用する側の村民からは冷めた声が聞かれる。
「去年の10月からサービスの提供が始まったが、自動運転の車を使った移動サービスも自走ロボットの配送サービスも必要とする人がいるのかどうか。実際に利用したという人の話を聞いたことがない。
そもそも村民の多くが、スーパービレッジ構想にしても“ひゃくワク”サービスにしても中身をよくわかっていないと思います。先日、高齢者から『スーパービレッジって何をするところさ』と聞かれましたよ」
更別村で暮らす中沢浩史さん(仮名・60代)はそう言って苦笑する。
雪道NGの「買い物ロボット」、途中下車できない「自動運転車」…
自動運転車両による移動サービスは、高齢者の足を確保するために導入された。群馬大学発ベンチャー企業の日本モビリティが開発した自動運転システムを搭載する車両が、温泉や診療所がある複合施設と村役場間の約800メートルを30分間隔で運行するという。
「役場から温泉施設までの直線道路を往復するだけで、途中で乗り降りはできない。足腰の弱い高齢者が温泉施設に行くには、市街地を循環していてどこからでも乗れる村民バスのほうが便利なんですよ。
村の広報誌に、新たに購入した9人乗りのワゴンを3月から運行すると出ていたけど、関係者の話では、システムに不具合が生じて運休しているとか。前の車両もあまり稼働していなかったのか、自動運転車が走っているのを見たことがない」(中沢さん)
利用者もいないのに新車を購入するとは。村は「国のカネを使えるうちに」とでも考えているのか。
もう一つの目玉、ロボット配送サービスは「買い物弱者」の支援が目的だという。村内のホームセンターから高齢者向け村営住宅までの約700メートルの1ルートのみで運用されており、利用者が専用サイトで購入した商品を無人宅配ロボット「デリロ」が運ぶ。
「高齢者住宅の入居者が、スマホを使って商品を注文するなんて考えられない。車で2、3分の距離なんだから、店に電話をすれば従業員が配達してくれます。
これも関係者から聞いた話だけど、村が導入した宅配ロボットは雪道を走行できないので、冬の間は休止だったそうです。この北海道で、雪が降ったら使い物にならないのでは話になりませんよ」(中沢さん)
この4月に改正道路交通法が施行され、宅配ロボットによる配送に人の同行が必要なくなったことから普及が進むと見られている。が、果たして、この村のデリロに活躍のチャンスはあるだろうか。
今年もデジ田交付金「3億円」を追加獲得!
北海道新聞によると、“ひゃくワク”サービスの申し込みや利用予約にはパソコンかスマホが必要で、村はスマホを800台用意し、希望する65歳以上の村民に無料で貸し出しているという。ただし、このスマホはあくまでサービスを利用するためのツール。申し込みはQRコードかLINEですることになっており、標準アプリを使った通話やメールはできない。
無料貸し出し用のスマホは中古のiPhoneらしいが、「タップ」も「スワイプ」もわからない高齢者の間では混乱が起きているようだ。
高齢者住宅の近くに住み、入居者たちと懇意にしているという藤田さとみさん(仮名・50代)は、「会うたびに使い方を教えるハメになる」と笑う。
「高齢者住宅のじいちゃんやばあちゃんのうち、6人くらいが貸し出しスマホを使っていると聞いています。先日、頼まれてみんなに使い方を教えに行ったんですけど、高齢者は要領がわからなくて画面を長押しするものだから、アイコンが震え出してLINEが消えてしまって。ばあちゃんたち、大騒ぎしていました」(藤田さん)
住宅の高齢者たちは、河野大臣が視察に訪れた時にひゃくワクサービスの利用者として駆り出されている。
「村がスマホ教室を開くと言えば無理やり参加させられ、中には『スマホなんて使いたくないのに持たされて、私ら実験台みたいなもんだ』と愚痴をこぼす人もいます。
ひゃくワクサービスに登録していない高齢者からは『私たちだって河野大臣を見たいのに、なんであの人たちだけ』という声が聞こえてきました。住宅の人間関係が悪くならないか心配です」(藤田さん)
藤田さん自身は、無料貸し出しのスマートウォッチに惹かれてひゃくワクサービスに申し込んだというが……。
「何度も不具合が起きるので、1週間で返却しました。ひゃくワクの他のサービスは必要ないので、まったく利用していません」
村は今後、複数のサービスを有料定額制とし、月額利用料を3980円に設定する予定のようだが、藤田さんはその情報を知らなかった。
前出の中沢さんは「住民説明会で村は“無料”を強調していた」と憤る。
「ひゃくワクサービスには昼間に楽しむカラオケや写真共有アプリ、ファッション診断なんてものまで入っている。3980円の利用料に見合うサービスとはとても言えない。
スーパービレッジ構想の中身をまとめたのは東京のコンサルタント会社で、そのトップに立つ女性は村に住んでいません。村民のニーズを知りもしない人間が考えたサービスが、必要とされるわけがないですよ」(中沢さん)
国の交付金を得ることが地方自治体の目的になり、事業の計画や運営はデジタル人材が乏しいことから東京のコンサルタントに外注するといった例は多い。結果的に、国費は地方を経由して東京に還流することになる。更別村の場合もこのパターンに陥りかねない。
ところで、河野大臣は記者会見で「マイナンバーカードを活用したデジタルサービス」と話していたが、マイナカードについて触れた更別村民は一人もいなかった。
調べてみると、マイナカードの活用はこれからの話。更別村は「マイナンバーカードの申請率7割以上」の条件を満たした自治体として今年もデジタル田園都市国家構想交付対象に採択され、約3億円の交付金でひゃくワクサービスにマイナンバーカードの機能を追加するらしい。
人口わずか3100人の村に10億円もの交付金が渡っている。巨額な国費が無駄にならなければいいのだが……。