〈社説〉武器輸出解禁 戦後の蓄積を突き崩す(信濃毎日新聞 2023/04/05 09:31)
防衛装備移転三原則の運用指針緩和に向け自民、公明両党が今月下旬、協議を始める。
政府と自民は殺傷力のある武器の輸出を解禁する構えでいる。慎重な公明も、昨秋の国家安全保障戦略を巡る与党協議で、指針改定には同意している。結論ありきで進む恐れは強い。
装備品の輸出ルールを定めた三原則は2014年、安倍政権が閣議決定した。従来の禁輸政策を破り、強い批判を招いた。
それでも指針は救難、輸送、警戒、監視、掃海の5分野に装備の輸出を限定している。殺傷兵器は共同開発・生産する相手国への部品提供にとどまってきた。
岸田文雄政権は、侵攻されたウクライナのような国や、安保で協力関係のない国にも殺傷兵器を輸出しようとしている。
日本の安保環境の改善につながる―との条件は曖昧に過ぎる。目的外使用を捕捉しきれず、第三国に流れ、想定外の紛争に使われる危うさが付きまとう。
岸田政権は「政府安全保障能力強化支援(OSA)」制度を新設する方針を固めている。
非軍事に限ってきた政府開発援助(ODA)とは別枠で、民主主義や法の支配といった価値観を共有する“同志国”の軍隊に資機材や資金を無償提供する。
国際紛争に直接関わらない分野で協力すると言うものの、資機材は三原則の範囲で提供する。指針改定で解禁されれば、いずれ殺傷兵器がOSAの対象国にも渡ることにならないか。
政府の狙いは国内防衛産業の再生にある。利益率が低く企業の撤退が相次いでおり、海外に販路を広げたいのだろう。防衛産業衰退の主要因は、必要性を十分に見極めず、米国から高額な装備を買い続けてきた点にある。
ウクライナは日本からの武器供与より、戦後の復興支援に期待を寄せている。武器の輸出先に想定する東南アジア諸国も経済で中国と深く結び付く。中国をけん制した日本の露骨な「囲い込み」を歓迎するとは思えない。
武力による紛争解決を禁じた戦後の日本は、経済やインフラ分野で協力を推進し、信頼回復に努めてきた。官邸と与党は今、国会に諮りもせず、国民にも説明しないまま、内輪の調整だけでその蓄積を次々と突き崩している。
厳しい安保環境下で果たす日本ならではの役割とは何か。もっと幅広く意見を入れて外交構想を煮詰めるべきだ。安保政策の議論を仕切り直さなくてはならない。