脳の老化を防げる「強化学習」その方法
脳は若返る(1)
脳の老化を防げる「強化学習」その方法(ZUU online編集部 2023/03/05)
本記事は、茂木健一郎氏の著書『脳は若返る』(リベラル社)の中から一部を抜粋・編集しています。
ドーパミンが、何歳の脳であっても成長させてくれる
「茂木さんは、いつもエネルギッシュですね!」
これは、私と日頃一緒に仕事をしている人たちからよくいわれることです。
私自身、何か特別なことをしているわけではないのですが、ここで私の日常的な1日の活動をご紹介しておきます。
朝起きて、最初にやるのはツイッターのトレンドワードをチェックすることです。ツイッター上で今、話題になっているニュースがすぐにわかるからです。トレンドを確認するのは、一般のニュースでは出てこない若い世代の情報を効率よく収集するためです。
その後、近くのコンビニまで歩いておこなって目を覚まします。なぜ、私が起きたらすぐにコンビニまで行くのかというと、戸外の太陽の光を浴びるためです。これには科学的根拠があります。朝、太陽の光を浴びると、網膜から光が入り、視神経が刺激を受ける。その刺激が脳内の視床下部ししょうかぶの視交叉上核しこうさじょうかくに伝わります。それによって、脳の覚醒かくせいを促すホルモンであるセロトニンが放出され、朝になると目が覚めて、夜になると眠くなるという生体リズムが整えられていくからです。
コンビニから帰ってきて取りかかるのが、朝の連続ツイートの執筆です。自分のツイッター上に、今気になっていることを連続でツイートしてあげていくというものです。
それが終わるとメールをチェックして、次に朝食を食べながら新聞を読み、そしてランニングをした後にシャワーを浴び、本格的な仕事に入っていきます。
日によってやることが違いますが、実験のデータ解析や論文の読み込み、必要に応じて数件の打ち合わせや取材対応、移動中のタクシーでは雑誌の原稿を書きあげたり、読まなければいけない本を読み込んだり。そのほかにも、テレビやラジオの収録をしたりしています。
夜は情報交換を兼ねて、さまざまな業界で活躍している方たちとの会食といったような1日を過ごしています。
ありがたくも、日々忙しく仕事に向き合っているおかげで、達成感と心地よい疲労を感じながらベッドに横たわります。
自分でいうのも恥ずかしいのですが、もし私がほかの人から見ればエネルギッシュだとするならば、それは毎日、脳に程よい負荷をかけながら何かを達成しているからにほかなりません。
皆さんも、学生時代を思い出してみてください。一所懸命考えて問題が解けたり、課題を解決できたりしたときの感覚を。「わかった!」「できた!」という喜びでいっぱいだったはずです。このとき、脳のなかでは「ドーパミン」という物質が分泌されています。ドーパミンとは快感を生み出す脳内物質の1つで、この分泌量が多いほど大きな喜びを得ることができるのです。
すると脳は、このときの喜びが忘れられず、ことあるごとにその快感を再現しようとします。そして、もっと効率的にドーパミンを分泌するため、脳内では神経細胞がつながりあって新しい神経回路が生まれます。つまり、脳が活性化して成長するのです。
そして、快感を生み出す行動がクセになり、再び新しい問題に挑戦するようになります。このサイクルを「脳の強化学習」といいます。これを繰り返すことにより、思考の老化を防ぎ、いつまでも若々しい脳を保つことができるのです。
私自身、この脳の強化学習によって、10年、20年前よりもさまざまなスキルが上がっているなと感じているくらいです。私は普段から、脳には無限の可能性があると強調しています。言い換えれば、何歳になっても脳は成長することができるということです。
脳をずっと若々しく保つ、たった1つの条件
脳は若返る(2)
脳をずっと若々しく保つ、たった1つの条件(ZUU online編集部 2023年3月6日)
ソーシャルな刺激が脳をいつまでも若々しく保つ
アクティブシニアになる必須条件――。
その重要なキーワードのひとつが、「ソーシャル・コネクション」というものです。ソーシャル・コネクションとは、社会や他者とのつながりを持つこと。私たちの脳はいくつになってもソーシャルな刺激があることで活性化していき、いつまでも若々しさを保つことができるからです。
ところが、高齢化がますます進展する現代社会では、そうしたソーシャル・コネクションに対する問題を抱えている人も少なくないようです。
いくら現在、心身ともに健康なシニアであっても、社会的な孤立や他者とのつながりが極端に少なくなっていけば、脳が衰えて老化が進むのはもちろん、身体機能の低下や抑うつなどのリスクが高くなるという研究結果が出ており、シニア層の社会的孤立をいかに防ぐかが課題として提起されています。
内閣府が発表した「高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査結果」(令和3年度)によれば、過去1年以内に地域の社会活動に参加した高齢者は50.8%。その内訳は「健康・スポーツ」(26.5%)がもっとも多く、次いで「趣味」(14.5%)、「地域行事」(12.8%)、「生活環境改善」(9.8%)が続いています。
その一方で、「活動または参加したものはない」という回答者は41.7%にのぼりました。つまり、10人に4人はソーシャル・コネクションが充実していないということです。近年では、シニア層の町内会や自治会への参加率が低下し、地域コミュニティから孤立するシニアが増えてきています。特に定年退職をした後は、社会との接点がなくなり孤立するケースも珍しくありません。
健康に問題がある、生活が困窮しているなどの理由で地域コミュニティや社会との接触もほとんどなくなってしまっているようです。
皆さんは、「欲求5段階説」をご存じでしょうか。
欲求5段階説とは、人間性心理学の生みの親ともいわれているアメリカの心理学者アブラハム・マズローが「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」と仮定し、人間の欲求を5段階で表したものです。マズローは、人間には5段階の欲求があり、低次の欲求が満たされると、もうひとつ上の欲求を満たそうとする心理的行動を提唱しています。
第1段階は生きていくために必要な基本的かつ本能的な生理的欲求、第2段階は安心安全な暮らしへの安全欲求、そして第3段階は社会や他者とつながり、受け入れられたいという社会的欲求が位置付けられています。
第4段階に承認欲求、第5段階に自己実現欲求と続くわけですが、私たちがたとえ何歳になっても社会や人とのつながりを求めるのは、人間として自然な欲求なのです。
このように欲求5段階説でも示されているだけでなく、脳科学的な視点からも、脳をいつまでも若々しく保つためにはソーシャルな刺激を持つことが大事になってきます。人と会話をしたり、身体や手先を動かすことで脳の活性化につながるからです。
日本は今後も高齢化がさらに進行していきます。
もし、就労やボランティア活動、生涯学習などの社会活動への参加はハードルが高いということであれば、近所の老人クラブや地域の少数コミュニティへの参加活動を通じて生きがいを見つけてみるのもいいかもしれません。
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茂木健一郎
1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。脳科学者。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職はソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。専門は脳科学、認知科学。主な著書に『ストレスフリーな脳になる! 茂木式ごきげん脳活ルーティン』(学研プラス)、『緊張を味方につける脳科学』(河出書房新社)、『脳がめざめる「教養」』(日本実業出版社)など多数。