「被害者救済法案」閣議決定→国会提出も…旧統一教会がビビる中身に仕上げられるか
「被害者救済法案」閣議決定→国会提出も…旧統一教会がビビる中身に仕上げられるか(日刊ゲンダイ 公開日:2022/12/02 13:20 更新日:2022/12/02 13:20)
旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)をめぐる被害者救済法案が1日、閣議決定され、国会に提出された。政府は今月10日に会期末を迎える今国会での成立を目指す。
与党は条文の修正には応じない構え。岸田首相は1日の参院予算委員会で「成立した際には条文の解釈の明文化を図り、実効性のある制度とするよう努力する」と答弁したが、立憲は「条文を変えないと勝手にそんな条文を超えた解釈はできない」(長妻昭政調会長)とあくまで条文修正を求めている。
条文修正が「理想」だとして、国会審議を通じて少しでも被害者救済を広げる努力も必要だ。全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の川井康雄弁護士が言う。
■問われる野党の質問力
「政府の国会答弁は条文を解釈する上で重要です。国会質疑でいかに被害者救済につながる答弁を引き出すことができるのか──。野党の質問力が問われています」
今週の質疑では、教団に痛手となりそうな首相答弁があった。
教団は高額献金の返金が要求されそうになると、信者に「自由意思で行った」「教団に返還請求は行わない」など念書にサインさせ、ビデオ撮影まで行うことがしばしばある。これが被害者の裁判の訴えを妨げ、敗訴につながっていた面がある。教団からすれば、献金を正当化する強力なツールなのだ。
11月29日の衆院予算委員会で立憲の山井和則議員は、母親が元信者の中野容子さん(仮名)が念書により敗訴した実例を挙げ、念書について質問。岸田首相はこう答弁した。
「困惑した状態で取り消し権を行使しない意思表示をしても(念書の)効力は生じない。むしろ、念書を作成させたり、ビデオ撮影をしていること自体が、違法性を基礎づける要素のひとつとなり、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求が認められやすくなる」
首相にここまで“ダメ出し”されると、さすがの旧統一教会も今後、念書やビデオ撮影をためらうのは明らかである。
中野さんも「(念書について)無効と、はっきりと総理が表明されたのはよかった」と評価している。
全国弁連は11月29日の声明で法案の問題点をいくつも指摘。例えば、個人の自由な意思を抑圧しないなど法人の配慮義務が盛り込まれたが、〈迅速な被害防止・被害救済は実現できない。禁止規定とすべきである〉と訴えている。
教団がビビり、悪事の企てをくじくような法律に仕上げられるか。
「被害者救済新法案」国会で柔軟に修正せよ…佐賀新聞論説
「被害者救済新法案」国会で柔軟に修正せよ(佐賀新聞 論説 2022/12/02 09:55)
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の高額献金(寄付)問題を巡る被害者救済新法案が閣議決定された。政府与党は、霊感商法被害の救済拡充に向けて先に提出した消費者契約法などの改正案と合わせて、今国会中に成立させたい考えだ。
新法整備について、与野党が協議を始めてから約40日になる。双方に政治的思惑もあるにせよ、家庭崩壊につながりかねない寄付被害を重大視し、未然防止と救済を目指すことでは一致しているはずだ。
その意味で、政府が協議過程で提示した新法の概要に対して、野党や被害関係者らから上がった指摘を受け止め、法案化に際して一部を修正したことは一歩前進と言えるだろう。ただ依然として十分とは言い難い。
野党、被害関係者らからは「救済効果は限定的」の批判が根強く、スピード最優先の「早かろう悪かろう」では意味がない。国会では、会期延長もにらみながら詰めの議論を進め、必要に応じて柔軟に修正すべきだ。
「概要」段階からの大きな修正点の一つは、寄付勧誘時の法人側の配慮義務規定を設けたことだ。
(1)自由な意思を抑圧し、適切な判断が困難な状態に陥らせない(2)個人や家族の生活維持を困難にしない(3)勧誘する法人名などを明らかにし、寄付金の使途を誤認させない―の3点を明記した。
野党側は当初からマインドコントロール(洗脳)下の寄付規制を強く求めていた。政府は「マインドコントロールを法律で定義付け、規制するのは困難」との立場だが、一定歩み寄ったものだ。しかし、禁止規定ではなく、取り消し権の対象でも刑事罰の対象でもないため、野党などの不満は解消されていない。
岸田文雄首相は国会で、配慮義務規定によって「民法上の不法行為の認定や賠償請求がしやすくなる」と説明したが、既に規定と同様の事実関係で勧誘の違法性を認めた民事判決は多く存在する。新たな効果がどれだけ期待できるかは疑問だ。
配慮義務の一部でも、さらに要件を絞り込んで禁止規定や刑事罰の対象にする必要はないのか。国会で議論を尽くしてもらいたい。
ほかの修正では、最終的に刑事罰(1年以下の懲役や100万円以下の罰金)の対象になりうる禁止行為のうち「借金や自宅などの処分」による寄付要求に「事業用資産」も含めた。
田畑や工場、店舗などを想定している。被害者ヒアリングに基づく野党の主張を受け入れたものだ。
一方で、批判を受けながら修正されなかった点もある。例えば取り消し権の対象にもなる禁止行為違反についてだ。「『霊感』等で不安をあおる」など6類型の勧誘によって「個人を困惑させた」場合に適用される。
これには「マインドコントロール下では、困惑せず進んで寄付する」として「困惑」を要件から外すように求める声が根強かったが、政府は応じなかった。これも突っ込んだ議論が必要だ。
岸田首相は国会で「日本の法体系の中で、最大限の救済を追求している」と答弁した。
もちろん憲法が保障する財産権などとの整合性を取ることは極めて重要だ。言葉どおり、それらと調和を図りつつ、被害防止・救済の実効性を確保してもらいたい。それが首相の責任だ。(共同通信・出口修)
【救済新法案】議論重ねて実効性高めよ…高知新聞社説
【救済新法案】議論重ねて実効性高めよ(高知新聞 社説 2022.12.02 08:00)
家族の困窮や人権侵害も指摘され、救済と被害の未然防止が求められている。国会での法案審議を通してその質を高めていきたい。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題を巡り、政府は被害者救済新法の法案を衆院に提出した。今国会での成立を目指す。
法案は、「霊感」で不安をあおる寄付の勧誘行為のほか、借金、生活に不可欠な事業用資産の処分による資金調達の要求を禁じる。国は違反行為があると勧告し、命令に違反したときの罰則規定も設けた。
寄付を取り戻す仕組みも盛り込んだ。寄付の取り消し権を行使できる期間は寄付の申し込み、意思表示から最長で10年とする。寄付した人が扶養する子や配偶者による寄付の取り消し権行使も記した。
焦点の一つだったマインドコントロール(洗脳)下の寄付取り消しは、法案への明記を見送っている。野党は救済対象とするべきだと主張したが、与党は洗脳の定義が難しいとの慎重な立場を崩さなかった。
一方で罰則の対象外の位置付けで、法人の配慮義務として「自由な意思を抑圧しない」との規定を盛った。ほかにも、個人や家庭生活の維持を困難にしないことや、勧誘する法人を明らかにし、使途を誤認させないことを明記した。
だが、配慮義務にとどめたことに不十分との批判もある。適切な判断ができずに不安や困惑を感じないまま寄付すると、自由な意思の抑圧が認められないことが想定される。
政府側は、信者が使命感や義務感から寄付した場合、救済は困難な事例があるとの認識を示す。悪質な勧誘と受け取っていなければ対処しにくい側面はあるだろう。それだけに被害は表面化が遅れかねない。
こうした場合も救済の対象に含めるように求める意見が出ている。政府は個別の判断になるとの見方だが、救済の網の目が粗くならないように注意する必要がある。
返還請求の規定も、家族の状況などで実効性への疑問が向けられる。どれほど救済につながるのか、論議を重ねる必要がある。
岸田文雄首相は、これらの配慮義務に反する不当な寄付行為が行われた場合、民法上の不法行為の認定や損害賠償請求が容易になると述べている。条文の解釈の明文化を図り実効性ある制度にする考えを表明した。被害者救済につながる方策を手厚くすることは不可欠だ。
世論調査では、洗脳された人の寄付取り消し規定が必要だとの判断は75%に上る。今国会での法成立を過半数が望み、一方でこだわる必要がないとの考えも4割弱ある。実効性を見定めたい思いがうかがえる。