「集団的自衛権」が実行可能段階に 安保法成立7年 米軍と初の実動訓練、識者は「権力の暴走」を懸念

集団的自衛権、憲法制定時からこんなに変わった 政治・経済

「集団的自衛権」が実行可能段階に 安保法成立7年 米軍と初の実動訓練、識者は「権力の暴走」を懸念(東京新聞 2022年9月19日 06時00分)

安全保障関連法が成立して、9月19日で7年を迎えた。自衛隊は今夏に初めて、米軍などと共同で、他国を武力で守る集団的自衛権を発動する「存立危機事態」想定の実動訓練を行うなど、法制化によって拡大した任務は実際の運用も可能な段階に入った。台湾を巡る米中対立の深刻化で、日本が戦闘に関わる可能性も現実味を帯び始めている。憲法学者は「権力は時に暴走する」と懸念し、武力行使の判断に際しては国会による統制を強めるべきだと指摘する。(川田篤志)

安全保障関連法が想定する主な事態と自衛隊の行動

実動訓練は、6月から8月までハワイ周辺で行われた米海軍主催の多国間海上訓練「環太平洋合同演習(リムパック)」の一環。他国が攻撃され、日本が「存立危機事態」を認定するというシナリオで、7月29日から6日間にわたって行われた。海上自衛隊は、事実上の空母化を進める「いずも」など護衛艦2隻を派遣した。

政府は訓練の詳細を明らかにしていない。複数の防衛省・自衛隊関係者によると、攻撃目標の探知や、ミサイル発射に際して日米両国で情報共有する手順などについて確認したという。

日本が直接、攻撃を受けていない相手に反撃する集団的自衛権は、憲法9条のもとで許される「必要最小限度の武力行使」の範囲を逸脱し、違憲だとの批判も多い。だが、防衛省関係者は「安保法で付与された任務を遂行するため、訓練するのは当然だ」と強調する。浜田靖一防衛相は、今後も同様の訓練を重ねていく考えを示している。

今回の訓練の意味について、安保法制定時に統合幕僚長を務めていた河野克俊氏は取材に、台湾問題を巡って強硬姿勢が目立つ中国に日米同盟の強固さを示し、抑止につなげる「アナウンス効果を狙ったのでは」と分析した。自衛隊は米艦などを対象とした「武器等防護」を年間20件ほど行うほか、昨年には米軍のF35Bステルス戦闘機の発着艦試験も実施するなど、日米の軍事的一体化が進む。

ただ、中国は今回の訓練にも強く反発している。日米の狙いに反し、かえって緊張が高まる恐れもある。

存立危機事態の認定には原則、国会の事前承認が必要だが、政府が急を要すると判断すれば後回しにできる。学習院大学の青井未帆教授(憲法学)は取材に、安保法採決時の国会付帯決議に、検討すると盛り込まれた「国会による自衛隊活動の常時監視」が実現していないとも指摘。「時に暴走の恐れがある権力を統制する観点から、政府判断の妥当性をチェックする国会関与を確立させるべきだ」と強調した。

【存立危機事態】

日本が集団的自衛権を行使できる事態として、第2次安倍政権下の2015年に成立した安全保障関連法で位置付けた。日本への攻撃がないにもかかわらず、米国など「密接な関係にある他国」が攻撃された場合に「日本の存立が脅かされ、国民の幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」事態としている。

集団的自衛権の行使について歴代政権は、戦争放棄を掲げた憲法9条の下で認められた「必要最小限度の自衛権行使」の範囲を逸脱し、憲法上許されないと一貫して説明してきた。しかし、安倍政権は安全保障環境が厳しくなった現代では、他国防衛さえ「自衛にあたる」として、憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を閣議決定で容認した。憲法学者を中心に違憲と指摘する人は多い。

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米国に「NO」と言えるのか? 学習院大・青井教授に聞く

ロシアによるウクライナ侵攻で国際情勢が不安定化する中、安全保障関連法は成立から7年を迎えた。憲法解釈を変更し、他国を武力で守る集団的自衛権の行使を可能にした法整備は、憲法学者ら多くの専門家から違憲の指摘を受けながら採決が強行された経緯がある。今も残る問題点について、学習院大学の青井未帆教授(憲法学)に聞いた。(川田篤志)

—自衛隊が今年、存立危機事態を想定した初めての実動訓練をした。

「安保法成立から7年を迎える中、付帯決議に盛り込まれた国会による統制の仕組みが作られないまま、今回の訓練や武器等防護などの既成事実が積み重ねられ、権力統制という観点から危機感を覚える」

—国会による統制とは。

「付帯決議には『安保法制に基づく自衛隊の活動に対する常時監視や事後検証のため、国会の組織の在り方などについて各党間で検討を行う』と明記されたが、仕組みは未整備のままだ。第2次世界大戦では国民全体が雰囲気に流され、権力を暴走させた歴史がある。政府が正しい判断をしているか、国会が統制する仕組みが必要だ」

—存立危機事態の問題点は。

「わが国の存立に関わる危機という概念が曖昧で、何が要件か分からないまま、適用の判断を政府に委ねていることだ。事態認定では米国から提供された情報を基にするはずで、日本政府が果たして妥当な判断をできるのか。自衛隊と米軍の一体化が進む中、日本が米国に『ノー』と言えるのか懸念される」

—安保法は違憲か。

「戦争放棄をうたう憲法9条の下で(合憲と)解釈できない集団的自衛権行使を容認する法律で、私は違憲との立場は変わらない」

—緊迫化する台湾情勢など、集団的自衛権の行使が現実味を帯びてきた。

「仮に台湾有事が想定される場合、先んじて自衛隊による米艦などの武器等防護が行われ、それが集団的自衛権の発動の端緒になる危険がある。『武力の行使を放棄する』とした憲法の下で、専守防衛や自国防衛を超える法制度を構築したことに無理がある。集団的自衛権の行使が現実化していない今こそ、状況を元に戻すチャンスだろう」

青井未帆 あおい・みほ
学習院大学教授(憲法学)。1973年生まれ。千葉県出身。東京大大学院修了。成城大准教授などを経て現職。専門は憲法学。著書に「憲法と政治」(岩波書店)など。