京都大大学院の沼田教授らが“ゼロカーボン”たんぱく質繊維を開発 海で光合成する微生物を利用(繊研新聞社 2022/06/01 06:27 更新)
京都大学大学院工学研究科の沼田圭司教授は、海洋性紅色光合成細菌(海で光合成する微生物)を基に〝ゼロカーボン〟たんぱく質繊維「エアシルク」の試作品を作り出すことに成功したと発表した。主原料を化石資源に頼らず、大気中の二酸化炭素(CO2)と窒素(N2)を利用して生産できるという。
今回の研究開発は、科学技術振興機構(JST)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受け、バイオベンチャーのスパイバー(山形県鶴岡市)、シンビオーブ(京都市)と進められた。研究に用いた海洋性紅色光合成細菌は、大気中のCO2、N2、海水中のミネラル成分を利用して増殖する。沼田教授の研究室は、この仕組みに着目し、同細菌を用いて様々なバイオ高分子を生産する研究を進めてきた。
今回、遺伝子組み換え技術によって、軽量・強靭さが特徴のクモ糸シルクたんぱく質を合成する海洋性紅色光合成細菌を作ることに成功。さらに、同細菌を効率的に培養する方法も確立した。培養した細菌からクモ糸シルクたんぱく質を抽出、精製し、スパイバーが製造する人工たんぱく質と混合して同社の紡糸設備によって繊維化。これをエアシルクと名付けた。今後は細菌の培養スケールを拡大し、エアシルクの量産を目指す。
研究開発の背景には、既存の主要な繊維原料が環境への負荷が大きいという課題があり、「サステイナブル(持続可能)な繊維生産の実現」を狙って行われてきた。
「安価で大量生産が可能な化学繊維は石油が原料で、製造から廃棄までの過程で多くのCO2を排出する」とし、「ウールや綿は飼育、栽培に土地、飼料、肥料、農薬、水といった資源が必要で供給量が限られる」と指摘する。
一方、海洋性紅色光合成細菌は「大気中のCO2とN2を利用した環境負荷の低い物質生産システム」と強調。「化学繊維に代わる新たな選択肢として、持続可能な繊維産業に貢献することが期待される」という。