円安どこまで進む? なぜここまで? 専門家に聞く背景や対策(東京新聞 2022年4月19日 20時28分)
円安は今後、どこまで進むのか。背景や必要な対策について、第一生命経済研究所の熊野英生氏と、ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏に聞いた。(聞き手・原田晋也)
「日本の政治の動きを市場が注視」
急激な円安が進んだ背景は。
第一生命経済研究所・熊野英生氏「インフレのリスクに対して米国の中央銀行に当たる米連邦準備制度理事会(FRB)が後手に回った。金融緩和をやりすぎて物価が上がってきていたところに、ウクライナ情勢が拍車をかけた。FRBがもう少し前に利上げするか、利上げの見通しを出して市場をけん制していればここまで円安が進むことはなかったと思う。投機的な動きも入っていて、なかなか止まりにくい」
どこまで進むか。
「1ドル=129円で止まると思っていたが、さらに進む可能性も出てきた。物価対策など日本の政治の動きを市場が注視している」
負担が大きい家計に必要な支援は。
「物価対策として財政政策で家計の負担を和らげようとするのは限界がある。エネルギー価格が上がっていくのできりがない。既に住民税非課税世帯への10万円の支給が行われており、低所得者対策はある程度できている。夏にかけての中小企業の賃上げをどこまで後押しできるかが重要だ。エネルギー戦略を見直して、脱化石燃料をもっと積極的に推進する必要もあるだろう」
1ドル130円見えてきた 「アベノミクスの副作用」
今後の行方は。
ニッセイ基礎研究所・上野剛生氏「円安はまだ進みそうだ。米国が利上げを続けていく可能性は極めて高い。一方、日銀は、賃金上昇を伴う物価上昇を目指して金融緩和を続けるとみられ、日米の金利差が開きやすいからだ。ロシア産のエネルギー排除で原油価格が上がることも、(日本の資金流出による)円安材料。1ドル=130円が見えてきた」
政府、日銀が市場をけん制したにもかかわらず、円安はさらに進んだ。
「政府は円安対策で円を買ってドルを売る為替介入を行うことができるが、ハードルが高い。米国は今、インフレに非常に苦しんでいて、インフレ沈静化に役立つドル高への介入は歓迎しない。介入があっても『日本単独だろう』と金融市場で見透かされている。政府にできるのは、円安で打撃を受けた人や企業への対症療法的な財政支出による手当てくらいだろう」
円安はアベノミクスの副作用か。
「日銀は賃金上昇を伴う物価上昇を目指して強力な金融緩和をしてきたが、(富裕層が潤えば低所得者層に富が滴り落ちるという)トリクルダウンは起きず、ずるずると緩和を続けざるを得なくなった。アベノミクスの副作用と言える」