日本の高級菓子を手土産にするとドイツで歓迎されない理由 便利だけど「使い捨て」文化の日本(姫田小夏:ジャーナリスト JBpress 2022.4.12)
4月1日から「プラスチック資源循環促進法」が施行された。企業に対してプラスチック製品使用量の削減義務を課す法律で、小売店で配るスプーンやストロー、ホテルが提供する歯ブラシなど12品目が対象となる。
プラスチック循環利用協会によれば、2020年の日本の廃プラスチックの排出量は822万トン。政府は使い捨てプラスチックの排出量を2030年までに25%削減する目標を打ち出しているが、目標自体や目標期限、強制力などについて国際機関から「不十分」との指摘も上がっていた。
不便でも文句を言わないドイツ人
他の先進国はどう取り組んでいるのか。2019年、EU理事会は「特定プラスチック製品の環境負荷低減に関する指令」を策定し、2021年に使い捨てプラスチック製品・容器包装をEUの市場で提供することを禁止した。同年、ドイツでも使い捨てプラスチックの提供が禁止され、プラスチック製の容器やストロー、スプーンなどが一斉に紙製や木製に置き換えられた。
同年秋、筆者がドイツを訪れた際、滞在中にプラスチック製の容器やスプーン、フォークを使用することは皆無だった。
姿を消した使い捨てプラスチック容器
米国資本のファストフード店「CHIPOTLE(チポトレ)」でも、注文したサラダが紙製の容器に盛られて出てきた。現地の友人たちによると「ファストフード店では、使い捨てのプラスチック製容器は完全に姿を消した」とのことだった。
紙製ストローはすぐにペチャンコになってしまう。平面的な木製のフォークも持ちにくく、けっして使い勝手がいいとは言えない。しかし、ドイツ人はこうした不便さに文句を言わず、「これなら環境にいいね」と支持しているという。
宿泊したホテルでは、歯ブラシやクシ、シャワーキャップのどれも、使い捨てのプラスチック製品は一切なかった。ドイツ経由で訪れた他のEUの国でも同様で、洗面台にはタオルとコップしかなく、その徹底ぶりに驚かされた。旅行の際は自分の歯ブラシを持参するのがもはや常識、といった状況だった。
ドイツIT企業で多発する意外な事件
滞在中のドイツで、筆者は、「ここには便利なはずの使い捨て文化がないのでは?」と感じることがあった。
そう思ったきっかけは、ヘッセン州にあるアジア系IT企業で、箸の盗難事件が問題となっているという話からだった。
この企業で働くのはアジア系エンジニアたちだ。彼らはほとんどが弁当持参で出社するのだが、米国育ちのエンジニアのT君は「最近、社内で箸がしょっちゅう盗まれるんですよ」と言う。
T君は「課内で1人を除いて全員が箸を忘れた日があり、昼食をとるのに1つの箸を使い回して食べたこともありました」と話す。コロナ感染も気掛かりだが、腹が減っては仕事ができない、というわけだ。
ドイツは「便利さ」を産業にしない?
T君のエピソードを聞いて、 “箸文化”ではないドイツで箸がどれほど貴重品かを思い知らされた。
同時に、実感したのは日本の生活がいかに便利なのか、ということだ。コンビニ、スーパー、100円ショップでは、生活に必要な、ほぼあらゆるものが売られており、もちろん箸やそれに代わるスプーンやフォークもすぐ手に入る。
不便さに文句を言わないドイツ人
ドイツにも100円ショップに代わる「ユーロショップ」があるが、T君にとっては助けにはならなかった。そもそもあちこちに店舗があるわけでもなく、安い文具やおもちゃ、菓子などが売られていても、使い捨てのスプーンやフォークなど気の利いた商品を揃えているとは限らないからだ。不断の企業努力で商品開発・改良を重ねた商品が、いつでもどこでも安い価格で手に入るという日本の便利さとは隔世の感がある。
では、ドイツも日本の便利さを見習うべきなのか。
実は、決してそうとは言い切れない。日本の小売業態が当たり前のサービスとして行っていることが、回りまわって環境に負荷を与えることにもなっているからだ。
T君たちが箸を使い回ししたのも、プラスチック製品を手軽に手に入れられる便利な店舗が近くにないためだが、そもそも彼らの生活や考え方そのものが「使い捨て」には大きく依存していない。
一方、環境意識が高いドイツには、消費者が不便に耐えることが環境負荷削減の第一歩になる、という認識があるのかもしれない。だからこそ、使いにくい紙製ストローや木製フォークに対しても文句を言わず、「環境にいいね」と歓迎するのだ。
筆者は帰国後、取材に協力してくれたT君に宛てて、日本の100円ショップで箸と箸箱を買って送った。毎日それを大事に使ってくれているという。
歓迎されない日本の高級菓子
筆者はドイツを訪れて、ドイツの店では商品を個別に包装することがほとんどない、ということも知った。
ドイツに出張してきた日本人ビジネスパーソンが、商談相手のドイツ人に、手土産として、日本のお菓子を渡すことは珍しくない。そうした菓子は、たいてい個別包装され、化粧箱に入れ、さらに全体を包装紙でくるみ、それを紙袋に入れて相手に渡すのが通例だ。だが個包装はもとより、何重にもものを包んで渡す文化がほとんどないドイツでは、そうした手土産が“もろ手を挙げて歓迎”されるわけではない。
日本の高級菓子を受け取ったあるドイツの企業のスタッフが、こんなふうに語っていた。「何重もの包装が大量のゴミになってしまう。せっかく日本から持ってきてくれた手土産でも、正直言って喜べないのです」。
私たちは、生活をより豊かなものにするために、あるいは、より便利なものにするために、さまざまな「工夫」や「サービス」を形にしてきた。プラスチックの利用もその一環だ。多くの産業が、豊かさや便利さを実現するために発展を遂げてきたわけだが、環境負荷の削減が世界共通の課題となる中、従来型の生産や消費のあり方も、もはやこれまでのままではいられないだろう。