「太陽光を赤色に変換するプラスチック」で作物収穫量を最大37%アップ!(ナゾロジー 2022.02.21)
オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学(UNSW)の産業科学者アレクサンダー・ファルバー氏とアレクサンダー・ソエリヤディ氏は、光合成にとって効率的でない緑色の光を赤色の光に変換する材料を開発しました。
赤色の光が光合成の効率をアップさせる
植物の光合成で重要な役割を担っているのは、光エネルギーを吸収する物質「クロロフィル(葉緑素)」です。
そして、このクロロフィルは波長が約400~700nmの光を吸収可能。
波長によって光の色は異なるので、光合成可能な波長域は、青色(400~500nm)、緑色(500~600nm)、赤色(600~700nm)の3つに大きく分類できます。
またこれまでの研究により、「クロロフィルの光吸収効率は波長によって異なる」と分かっています。
特に赤色の光は吸収効率が良く、緑色の光は吸収効率が悪いのです。
そこで研究チームは、「緑色の光の割合を減らし赤色の光の割合を増やすなら、光合成が促進され農作物の生産性が向上するかもしれない」と考えました。
そしてこの案を実現させるため、緑色の光を赤色の光に変化させる材料「LLEAF」を開発しました。
光の波長を変化させる赤いプラスチックで農作物がよく育つ
研究チームが開発したのは、太陽光を吸収・放出する特殊な染料です。
これをプラスチックと組み合わせることで、太陽光の波長を操作する色付きプラスチックとなります。
例えば、今回利用されている赤色のプラスチックは、太陽光を吸収した際、緑色の波長(500~600nm)を赤色の波長(600~700nm)に変換。
これにより緑色の光を少なく、赤色の光を多く放出でき、光合成の効率を向上させられるのです。
そしてこの新しい材料「LLEAF」を使った実験も行われました。
光合成を促進する赤いLLEAFを温室の天井に取り付け、いくつかの農作物の収穫量が変化するか調べたのです。
その結果、それぞれの収穫量は以下のように変化しました。
チンゲン菜:37%増
ロメインレタス:14%増
バターヘッドレタス(サラダ菜):27%増
温室の天井を変えるだけで、収穫量を平均2~3割も増やすことができました。
LLEAF自体は安価であり、既存の施設にも適用できるので、生産者たちにとっては画期的な発明だと言えるでしょう。
とはいえ、この新しい試みには懸念点もあるようです。
偏った光で育った農作物は安全なのか?
実験では、LLEAFの下で育てられたレタスがオレンジ色を帯びていました。
研究チームは、「太陽光の波長の変化が、レタスに含まれるカロテノイドやその他の色素の組成にも変化を与えた」と考えています。
このことは、LLEAFを用いた栽培方法に1つの疑問を植え付けました。
「緑色の光を取り除き、赤色の光を増やすことは、植物に害を及ぼすのか?」という点です。
確かに収穫量は増えましたが、農作物の中身がどう変化するかは分かっていません。
実際、色が変化したのは事実なので、他の要素も変化している可能性は十分あるでしょう。
そのためチームは、「LLEAFによる栽培が作物の風味や栄養にどのような影響を与えるか、さらなる研究が必要です」と述べました。
とはいえ総合的に見て、この新しい栽培方法は有用だと考えられています。
安全性が確認されるなら、増加する食料需要を満たすのに役立つからです。
現在、ブルーベリーを使った別の試験が開始されており、今後の進展と報告に期待できるでしょう。