AIに精通する起業家「松本勝」インタビュー「Chat GPT社会を生き抜くためにこそデザイン思考が必要です」

「デザイン思考」について語る松本勝氏 科学・技術

AIに精通する起業家「松本勝」インタビュー「Chat GPT社会を生き抜くためにこそデザイン思考が必要です」(デイリー新潮 2023年05月07日)

昨年秋頃から、俄に人口に膾炙(かいしゃ)し出したオープンAI「Chat GPT」に、今、注目が集まっている。画面に質問を打ち込むだけで、AIが生成した文章が返ってくるのだが、これまでのAIとは違い、その文章の完成度は、人間が作成したものと比べても遜色のないもの。あたかも専門家とチャットで話しているような感覚に陥ってしまう。そんな「Chat GPT」、研究機関や大学で、論文作成の際に使われることなどが問題として指摘されてきた。が、それだけでなく、このサービス、今度はビジネスの世界にも大変革を巻き起こそうとしている。

今後、どんなタイプの仕事が「Chat GPT」に取って代わられていくのか。そしてどうすれば、そんなAI時代に生き残ることができるのか。そのヒントは、「デザイン思考」にあるというのだ。今年2月、「デザイン思考2.0」(小学館新書)を上梓し、話題となった起業家の松本勝氏(47)に、話を伺った。

メガバンクも導入を検討

松本氏は1975年大阪府生まれ。東京大学大学院修了後、ゴールドマン・サックスに入社。株式トレーダー、金利デリバティブトレーダーを経て、2010年、人工知能を用いた投資ファンドを設立。2014年には、VISITS Technologiesを設立し、人の創造性やアイデアの価値を定量化するアルゴリズム「CI技術」を開発、日米で特許を取得。企業や行政、教育機関のイノベーションやDXの支援を行っている。

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松本 勝氏(以下、松本)「Chat GPT」の登場が今、世間に大きな衝撃を与えています。現在は、教育分野での使用についての是非が議論され、注目を浴びていますが、まもなく、ビジネスの世界にも浸透してくるでしょう。すでにメガバンクがChat GPTの導入を検討しています。これまでもさまざまなAIが開発され、世に出てきましたが、今回の「Chat GPT」は、そのどれと比較しても優秀ですね。かつて、ブルーカラーの方々の仕事の多くが、産業用ロボットに代わっていきましたが、同じ現象が、いよいよホワイトカラーの働くオフィスでも起きることになるでしょう。

誰よりも物知りなAI

――AIのシステムを、企業が導入するということにイメージが湧かないが、例えばGoogleの検索システムと大きく違うところは。

松本 Googleで検索すると、ご存じの通り、一般的な情報はどんどん出てきますが、当然ながら、企業の内部情報などは含まれません。もちろんChat GPTも、一般に流布されている膨大なデータから文章を生成しています。が、さらにそこから、企業や組織ごとに、ローカライズし、カスタマイズすることが可能なのです。しかも比較的簡単に社内のあらゆる情報を学習させ、その会社に合ったChat GPTを育てることができる。すると、社内のことを全部学習している、誰よりも会社について物知りなAIが誕生するというわけです。いつ、どこからでも、カスタマイズされた「Chat GPT」に話しかければ、なんでも教えてくれますし、解決策を提案してくれるでしょう。

――会社のあらゆるデータ、あらゆるプロセスを熟知しているChat GPTに聞けば、最適解がもたらされるようになる。

松本 そうですね。今後は、ある程度パターン化された作業的な仕事、実務はもはや人間がやるより、AIの方がミスもなく、正確にこなしていくことになると思います。かつて電卓が登場した時と同じです。とはいえ、電卓が出てきたからといって、それで仕事がなくなったわけではない。仕事の内容が変化していくというだけです。その変化についていけず、仕方なくずっと「電卓」と張り合おうとしていく人は、残念ながら淘汰されることになるでしょう。

「デザイン思考」とは

――そういう、実務ではない部分でこそ、「デザイン思考」が役に立つということか。

松本 まさにその通りです。デザイン思考とはもともと、デザイナーさんたちが、デザインを行う上で使っている思考法なのです。それをビジネスに転用したものが「デザイン思考」と呼ばれています。そもそも「デザイン」という言葉には、問題解決の意味が含まれています。問題解決といっても、一般的な、学校のテストのような、すでにある問題を解いて正解を導き出す、というものではありません。まず、企業や個人に「こうありたい」「こうしたい」という理想がある前提で、そのためには何が問題となるのか、その問題をまず創造していく。つまり、「問いを立てる」ことが何より重要なのです。

――具体的には。

松本 例えばコンサルタントが、製造業の顧客のところにいって、具体的に、「最近は売上が良くないから、どうにかして上げたい」と相談を受けたとします。従来型の問題解決の思考だったら、問題は、「売上が減っている」であり、解決は「売上を上げる」になります。すると、解決策として出てくるのは、「製造コストのカット」や、「製品の価格改定」といった、ありきたりなものばかりになってしまう。

これからの仕事は、「いい問い」を立てること

松本 一方、デザイン思考では「売上を上げたい」という欲求の裏に、何があるのかを考える。なんで売上を上げたいのか、その先に何があるのか。本当に売上を伸ばすことが解決につながるのか……。相手に共感しながら、顧客本人すら気がついていない課題やニーズを探りあて、その上で解決策を作ってゆく。それがデザイン思考です。

――この思考法がなぜ、AI時代に重要になってくるのか。

松本 先述した従来型の問題解決は、実はAIでもう、事足りるんですね。むしろAIの方が、膨大なデータから素早く、もっとも最適な数値を見つけて、提案できる。一方、デザイン思考は、AIが最も苦手とする作業なのです。つまり、ユーザーの欲求を理解し問いを立てる、ということです。AIは統計学をベースに構築されているため、もっともらしい平均的な解を導き出すことはできますが、問いそのものを生成することは、今のところできていません。いい問いを創造すること、それこそがデザイン思考と言えます。私の著書には、実践的なデザイン思考のステップが書かれていますので、興味のある方はぜひ手に取ってみてください。