赤外光を利用する「窓ガラス発電」 山林切り開く必要なく環境にも優しいと期待高まる(マネーポスト 2022年1月13日 7:00)
早ければ2030年に気温が1.5℃上昇するという予測もある中、地球温暖化を防ぐにはどうすればよいのか。人類の危機に立ち向かう科学の最前線を追った。
人類は太陽のエネルギーから様々な恩恵を受けているが、人類が主に使っているのは目に見える可視光。例えば一般的に知られている太陽電池は、この可視光を利用したものだ。
しかし、太陽光のうち約44%を占めるのが赤外光だ。波長が長く、人の目には見えないだけでなく、街中ではヒートアイランド現象の一因となり、人体には熱中症を引き起こすという、やっかいな存在だ。
赤外光のエネルギー変換はこれまでも試みられてきたが、効率が低く、実現は不可能と考えられてきた。
この赤外光を使った太陽光発電に挑戦しているのが、京都大学化学研究所准教授の坂本雅典氏だ。
坂本氏がエネルギー変換のための赤外線吸収材として開発したのが、ナノサイズの小さな粒子だ。様々なナノ粒子で試すことで、これまでより格段に高い効率で、赤外光から燃料となる水素を作ることに成功した。今、坂本氏が社会実装に向けて取り組んでいるのが、ナノ粒子を使った透明太陽電池研究である。
「赤外光を効率よくエネルギー変換できれば、人類は太陽からもっと大きな恩恵を得られます」(坂本氏)
エネルギーの地産地消窓ガラスで電気を作る
実は透明太陽電池は、すでに世の中に存在する。シンクタンクによると、透明太陽電池の世界市場は2025年には2.5兆円までに拡大するという。しかし現在の透明太陽電池は、光を吸収する材料に有機物を使ったものだ。坂本氏が開発するのは、無機化合物によるものであり、有機物では捕集と変換が難しい赤外光を電力に変換するという意味で既存製品とは一線を画す。
つまり、ビルのガラス壁面に使用しても、採光に優れ、熱線を吸収するためにヒートアイランドを和らげることができ、劣化することがなく長期にわたって使用できるのだ。発電+省エネ効果を生み出せる太陽光発電として期待が大きい。
例えば現在の発電効率は1%程度だが、変換効率が5%まで向上すると、大阪の高層ビル「アベノハルカス」に透明発電窓ガラスを設置した時、同ビルの全フロアの照明の電気量をほぼまかなえるという。
「これまでの太陽電池のように山林を切り開く必要もなく、環境にも優しい。透明なためデザイン性にも優れています」(坂本氏)
実装化に向けて変換効率を現在(約1%)のものからさらに高めるために研究に邁進している。それに先駆けて、坂本氏の取り組みは京都大学インキュベーションプログラムに採択され、2021年10月に大学発ベンチャー企業として株式会社OPTMASSを設立した。同社の設立により、実社会からくみ取ったニーズを透明太陽電池の研究に生かす。目標は2027年の社会実装だ。
「夢は、エネルギーの地産地消」と坂本氏は言う。ビルのガラスに実装すれば、都心に“発電所”を設けることになる。植物が可視光で光合成をするように、街全体が赤外光で発電する。「街を森にしたい」と坂本氏は、未来に向けて語る。
※週刊ポスト2022年1月14・21日号