ベーシックインカムの導入は歴史の必然的な流れ

手のひらに球体 政治・経済

【関連記事】コロナ禍で注目される「ベーシックインカム」 海外の事例が示す課題とは?

近年、世界的にベーシックインカムへの関心が高まっている。ベーシックインカムとは、すべての人が最低限の生活を送れるように、政府が国民に一定の金額を無条件で支給する制度である。すでに、スペイン、フィンランド、ドイツ、イタリア、オランダ、アメリカ等で導入実験が行われている。

まずは、ベーシックインカムのメリットとデメリットを整理しよう。

ベーシックインカムのメリット

【貧困への対策】
一定の所得を補償することで、最低限以上の生活を送れるようになる。また、生活保護レベル以下の生活をしながら、生活保護を受給できずにいる「隠れた貧困層」を救済することも出来る。

≪ 追記 2020.10.23 ≫
「最後のセーフティーネット」と呼ばれる生活保護も、無条件ではない。健康で働けると見なされた場合や、親や兄弟の支援が受けられると見込まれた場合は、受給できない。2017年3月時点の被保護世帯は約164万2000世帯であり、生活保護基準以下で生活する約784万1000世帯のおよそ21%である。また、政府が給付する対象は基準に合致した人(世帯)であって、想定外の困窮者には恩恵が届かない。セーフティーネットはこれらの問題を解消できる。

【労働意欲の向上】
生活保護には様々な受給条件があり、また別の収入があると受給額が減額される。しかし、ベーシックインカムは働いて得た収入は上乗せされるため、労働意欲の向上が期待される。

【労働環境の改善】
労働環境の悪い会社や職場でも生きるために我慢して働く必要がなくなる。そのため、雇用者側は労働環境の改善に努めるようなる。ブラック企業は淘汰される。

【多様な生き方】
一旦就職した後でも大学に入り直して勉学したり、資格の取得を目指したりと、自分のキャリアアップが可能になる。リスクを覚悟して起業することも容易になる。

【少子化対策、介護手当て】
個人単位での支給なので、子どもが増えることで世帯の所得が増加する。経済的な事情で子どもを産めなかった家族への支援となる。また、年老いた親を引き取った子ども家庭には相応の収入増となる。

【社会保障制度の簡素化】
現在の社会保障制度には、失業保険、生活保護、児童手当など、様々な仕組みがあり、その相談窓口や審査制度など煩雑な業務となっている。ベーシックインカムが導入されることにより、複雑な仕組みは簡素化され、行政コストは大幅に削減される。申請が不要あるいは簡素化される。不正受給もなくなる。

ベーシックインカムのデメリット

【財源の確保】
すべての国民に等しく給付するためには、膨大な額のお金が必要になり、その財源の確保がベーシックインカムを導入する際の最大の課題である。

現在、様々な案が検討されている。例えば、①年金・生活保護・失業保険・児童手当・医療補助などすべての社会保障の仕組みをまとめてベーシックインカムに移行することで、削減できるコストを財源にする案、②高所得者に増税して財源にする案、③消費税を大幅に増税する案、など。

【社会福祉水準の低下】
既存の社会保障制度を全廃し、ベーシックインカム制度に集約した場合、現行の制度より社会福祉水準が下がるのではないか、特に、難病患者や身体障がい者への支援が削減されるのではないか、と心配する意見がある。

【労働意欲の低下】
最低限の生活が保障されると、労働意欲が低下したり、労働自体を拒否する人も出てくるかも知れない。

≪ 追記 2020.10.23 ≫
実際、太平洋上の島国ナウル共和国はリン鉱石の発掘で1980年代に最盛期を迎え、税金は徴収されず、教育と医療は無料になり、働かなくても暮らせる手厚いベーシックインカムが導入された。その結果、大半の国民は働かなくなり、2000年代以降にリン鉱石が枯渇すると、経済は破綻した。

逆に、2017年から18年にかけてフィンランドで行われた実験では、ベーシックインカムの導入により、人々のストレスが減少し、幸福度が上昇したことが確かめられた。

給付額が重要なカギを握る。目安としては、生活保護の基準額が参考になる。

【個人への責任負担が増大】
ベーシックインカムとして得た収入の使い道は、支給を受けた個人に委ねられる。中には、一度に娯楽に興じたり、将来の受給を担保にして借金する人が出るかも知れない。生活が立ち行かなくなった場合、これまでの生活保護はない。

ベーシックインカムの導入は歴史の必然的な流れ

ベーシックインカムの導入は社会構造を抜本的に変えてしまう。そのため導入は慎重に検討しなければならない。しかし、長期的には、ベーシックインカムの導入に向かうと考える。

その理由は、第一に、日本では今後さらに高齢化が進み、年金・医療・介護等の社会保障費が一層増大するため、様々な社会保障のあり方や、社会保障の給付と負担について、抜本的に考え直す必要がある。かつての一体改革では財源を主に消費税に求めている点に問題がある。

第二に、現行の社会保障制度は、継ぎ足し継ぎ足しで既存の補充や新規創設がなされて来たため、制度がかなり複雑になっており、国民にとっては煩雑な申請をしなければならず、行政側は申請者への説明や資格審査の業務が増大している。しかも、制度を理解できずに受給できない方や世間体を気にして手続しない方がいる。制度を整理し簡素化する必要がある。

第三は、これまでの社会・経済システムは新型コロナウイルスのようなパンデミックに非常に無力であることが判明した。今後も遭遇するかも知れない、感染症、大規模自然災害、紛争などを想定した、有事に強い制度に変更する必要がある。

第四は、現在、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、AI(人工知能)、ロボットによる第4次産業革命が進んでいる。多くの仕事がAIやロボットに置き換わると、その仕事に従事していた人間は不要となり解雇される。社会の高度化に伴い増加する失業者やワーキングプアを支える新たなセーフティーネットが必要になる。
悲観的に見れば失業者の増大だが、前向きに考えれば、社会全体としては生産性が向上するのだから、富は増大し、富の分配を適切にすれば、今までよりも豊かで快適な社会になる。富の分配と新たなセーフティーネットを兼ねるのがベーシックインカムである。