なぜAIを使っていると「時代遅れ」のチームになっていくのか? 勘違い上司のAIの使い方の問題点

AIを使えばイノベーションを起こせる!? 社会

なぜAIを使っていると「時代遅れ」のチームになっていくのか? 勘違い上司のAIの使い方の問題点 12/20(土) 6:34

横山信弘 経営コラムニスト

「うちのチームは生成AIを積極的に活用している。だから最先端だ!」

そう胸を張る上司が増えている。しかし、本当にそうだろうか。議事録の要約、メールの下書き、提案書の叩き台づくり……。確かに便利だ。時間短縮の効果もあるだろう。だが、それは「効率化」であって「革新」ではない。この違いを理解していない上司が、実は多いのである。

そこで今回は、生成AIの活用における勘違いと、チームが時代遅れにならないための視点を解説する。AIを導入したのに成果が出ないと悩むマネジャーは、ぜひ最後まで読んでもらいたい。

「効率化」と「革新」はまったく別物である

まず押さえておくべきは、効率化と革新の違いだ。

効率化とは、同じ目的をより早く達成すること。いっぽう革新とは、目的や前提そのものを問い直すことである。生成AIは効率化には極めて有効だ。しかし、使っただけで革新が起きるわけではない。

このように勘違いしている上司がとても多い、と私は感じる。

「生成AIを導入した=革新的なことをしている」

この思い込みはリスキーだ。

なぜ生成AIから突き抜けたアイデアが出ないのか

そもそも生成AIの仕組みを理解しているだろうか?

生成AIの中核である大規模言語モデルは、過去に学習した膨大なデータをもとに出力を生成する。「次に来る可能性が高いもの」を確率的に選んでいるのだ。

つまり、こういうことである。

(1)過去に多く存在した考え方に引っ張られる

(2)出力は無難で平均的になりやすい

(3)前提を壊すような発想は生まれにくい

過去の延長線上にあるものは大量に出てくる。しかし、既存の枠組みを超えるアイデアは自然には出てこない。これが生成AIの構造的な限界なのである。

多様性と心理的安全性が重要な理由

ここで重要になるのが、人間側のチーム設計だ。

なぜ今、多様性と心理的安全性がこれほど重視されているのか。それは、チームが過去の延長から抜け出すためである。

同質性の高いチームは、一見すると合理的に見える。価値観が近く、話が早い。衝突も少ない。しかし、出てくるアイデアは過去の成功体験をなぞったものになりやすい。これを「組織慣性の法則」と言ったりする。

たとえば、こんなケースを考えてみてほしい。

高学歴で同じ会社に長く勤めた40代、50代の男性管理職だけで構成されたチームだ。議論は整理され、破綻は少ない。しかし発想は既存の枠内に収まりやすい。

いっぽう、経験の浅い若手、他業界からの転職者、外国人、女性などが混ざったチームではどうか。議論は噛み合わないことも多い。しかし、そのズレこそが価値になることも多い。

既存の枠組みに染まり切っていないからこそ、”前提を疑う視点”が生まれるのだ。

心理的安全性がなければ多様性は機能しない

ただし、多様な人材を集めるだけでは不十分である。

心理的安全性とは何か。この場で発言しても否定されない、不利益を被らないという安心感のことだ。これが低い組織では、経験の浅い人や少数派ほど意見を言わなくなる。

その結果、多様性は形だけになる。実質的には同質的な意思決定が続くのだ。

多様性と心理的安全性。この両方がそろったとき、初めてチームは過去の延長線から外れることができる。

「ノミの話」に学ぶ見えない天井

ここで、ノミの話を紹介したい。

ノミを透明なフタ付きの容器に入れる。最初は高く跳ぼうとしてフタにぶつかる。しかし繰り返すうちに、フタの高さまでしか跳ばなくなる。

興味深いのは、フタを外しても以前の高さ以上には跳ばなくなることだ。見えない天井が、行動の上限を決めてしまう。

ところが、そこに別のノミを入れると状況が変わる。新しいノミは高く跳ぶ。その姿を見て、もともといたノミたちも再び高く跳べるようになる。

最初からポテンシャルはあった。ただ、天井があると思い込んでいただけだったのだ。

組織でも同じことが起きている。役職、年次、過去の成功体験、暗黙のルール。これらが見えない天井(=ガラスの天井)になっている。

生成AIを革新の象徴にしてはいけない

この見えない天井を突き破ることは、生成AIを使っているだけでは難しい。

生成AIは過去の蓄積をもとに、最もらしい答えを高速で出す道具である。無難さを加速させることはあっても、前提を壊す力は持っていない。

だからこそ、役割を明確に分けることが重要だ。

生成AIに任せるべき領域は以下である。

(1)整理・比較・下書き

(2)量産・効率化

(3)定型業務の自動化

いっぽう、人間が担うべき領域はこうだ。

(1)問いを立てること

(2)前提を疑うこと

(3)少数意見を引き出すこと

(4)異なる視点をぶつけ合う場を設計すること

この順番を間違えてはいけない。生成AIはあくまで道具だ。革新の主役は、あくまでも人間だ。多様な人間が集まり、心理的安全性のもとで問いを磨き続けることが、これからの私たちに求められていることだ。

<参考となる動画>

横山信弘 経営コラムニスト
企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。Voicy「絶対達成ラジオ」パーソナリティ。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍を通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。