「この世が終わった」のを知らないのは日本だけだ 資本主義、民主主義が終わりバブルは崩壊する

筆者は「日本だけが『世界が終わった』という事実に気づいていない」と言う 国際

「この世が終わった」のを知らないのは日本だけだ 資本主義、民主主義が終わりバブルは崩壊する(東洋経済ONLINE 2025/03/08 6:30)

小幡 績 : 慶応義塾大学大学院教授

この世が終わった。

自分で予言しておきながら(「バブルは崩壊し資本主義が終わりこの世が終わる」、2月8日配信)、まさか本当に終わるとは思っていなかった。

この事実に気づいていないのは、世界で日本だけである。2月28日の「トランプ・ヴァンス・ゼレンスキー会談」で、この世の終わりがすでに来たことを、世界は目の当たりにし、世界は覚悟を決めたのである。

この分野の話は、本連載のパートナーであるかんべえ氏(双日総合研究所チーフエコノミスト・吉崎達彦氏)に譲るべきところが、事態が事態だけに、小幡で申しわけないが、一刻も早く伝えておきたい。

世界の報道は「アメリカへの非難、絶望」

事件そのものについての解釈は、同氏のブログである「かんべえの不規則発言」の3月2日、3日分を読んでいただきたい。同時に「ついにアメリカと欧州の『文化大戦争』が始まった」(3月1日配信)は本当に的確だった。この後でもふれる、「欧州の人々の、アメリカとの決別」は、アメリカのJ・D・ヴァンス副大統領の、欧州人を批判したスピーチによって、心の中では固まっていたからである。

かんべえ氏も言っているように、世間知らずなのは、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領ではなく、日本のメディア、有識者たちなのである。

世界での報道は、アメリカのドナルド・トランプ大統領、J・D・ヴァンス副大統領、そしてアメリカへの非難、絶望一色に近いのである。そして、アメリカがこの世を終わらせようとしている事実への諦念からの、次の世へ向けての決意表明である。

日本では、「ゼレンスキーはこうするべきでなかった、ああすればよかった」、というたぐいの話ばかりである。だが、当地のアメリカでさえ、FOXニュース以外は、「トランプ、ヴァンスの大批判、アメリカは終わり」という議論である。

「平和ボケの議論」をしているのは日本だけ

例えば、アメリカの3大ネットワークの1つCBSのニュースドキュメンタリー番組「60ミニッツ」では、トランプ大統領のロシアのウクライナ侵略に関して、この10日間の誤った発言を列挙し、「ロシアと北朝鮮の陣営にアメリカは加わった」と非難した。

また公共放送PBSの「ニュースアワー」では、イェール大学の歴史学者ティモシー・シュナイダー教授が、そもそもトランプ大統領の執務室での行動について、「ゼレンスキー大統領を侮辱し、よってたかっていじめただけの破廉恥な行為だ」と断罪し、「80年間の欧州という偉大な同盟を捨てて、経済規模でいっても20分の1しかないロシアにパートナーを変えようとしている」と指摘した。

欧州は、さらにはっきりしている。日本のニュースでも、英国のキア・スターマー首相、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が強力にゼレンスキー大統領を励まし、ウクライナを全面的に支援。ウルズラ・フォンデアライエンEU委員長ももちろん全面支持。英仏が中心となって、欧州は緊急首脳会談を開催した。

実質的にも欧州は即座に動いた。ドイツは、伝統の財政均衡主義を捨ててまで、全力で軍事支出を増やし、ウクライナを支援することを宣言、欧州軍事関連株が大幅上昇する事態となった。

それ以上に重要なのは、欧州の首脳もメディアも国民も、これは「戦後最大の危機」と認識しており、「欧米同盟はもはや終わった、欧州はアメリカ抜き、欧州自身で守らなくてはならない時代に変わった」と覚悟を決めていることだ。金の面でも武力でもアメリカには依存せず、自力でやる方向にすでに舵を切ったのだ。

ドイツを訪問中という岩間陽子・政策研究大学院大学教授は、日本経済新聞に「第2次世界大戦以来未曽有の事態を迎えています」とコメントしている。また、アジアでは、台湾も「有事にアメリカは頼れない」という前提で議論を始めた。「ゼレンスキー大統領の行動は賢くなかった」とソファーに寝そべり評論しているのは、日本という平和ボケで愚かになってしまった国民だけなのだ。

だが、今さら日本が愚かであるかどうかを議論している暇はない。すでに「パックスアメリカーナ」(アメリカにとって都合のいい平和)は決定的に終わり、覇権は衰退していたが、今回は決定的に自ら捨てて、終焉が宣言されたのだ。

いじめっ子になったアメリカは自ら「より不幸な状況」に

もはやアメリカは伝統的な孤立主義に戻るどころか、利己主義に陥ったのだ。余計なことにはかかわらない、世界に対して無責任というのではなく、窮地に陥っている弱者の弱みに付け込んで絞り上げる、自国が得をすることだけを考え、ほかの国の将来がどうなっても構わない、という誰からも尊敬されない愛嬌すらないいじめっ子に成り下がったのだ。

アメリカを道徳的に非難しても仕方がないが、超短期的には、いやトランプ大統領の気分だけは良くなるかもしれないが、この新しい世の中は、アメリカにとって、これまでよりも不幸な状況に取り囲まれることになる。そして、その道を自ら選び、加速させたのが、今回の事件なのである。

当然、ロシアや、ウラジーミル・プーチン大統領が大喜びしているというのは日本ですら報道されているし、だれでもわかる。しかし、ロシアは長期的には持続しない。プーチン大統領の個人の力の部分が大きいから、「プーチン後のロシア」は混乱する。

実際、ウクライナ侵攻で、優秀な人材はすでにロシア国外に流出してしまった。ロシアは「資源を持っている北朝鮮」程度に成り下がってしまう。そして、資源は長期的には価格は下落する。まさに領土の大きい北朝鮮になるであろう。したがって、次の世の中で、ロシアの存在感はない。

一方、中国は、現状、高度成長からのバブル、それからのバブル崩壊、中央と地方の政治経済構造の破綻、次のシステムへの移行への模索、というまさに日本の20世紀末の転換期と同様の様相を呈している。

だが、2つ大きく違うのは、まず、中国の長い歴史において、少なくともアジアにおいては(時々はその外側でも)、中国は覇者であり続けたし、それを自認した文化と社会の仕組みが伝統として残っていることだ。第2に、習近平国家主席の独裁でプーチン大統領と同じく個人プレイという印象を持つ人も多いが、それはまったくの間違いだ。共産党という組織による支配である。

結局、最も恩恵を受けるのは中国

そして、共産党の内部相互牽制システムは依然機能しており、ほぼすべての社会主義国が政治的に崩壊する中で、政治的な持続性を保ちつつ、経済は革命に成功したという実績と実力がある。欧州人以外の国で、近代において、成功した社会経済は、一定の規模以上に限れば、日本と中国だけなのである。

したがって、中国は、長期的にはさらに経済発展を続けるだろう。経済力が国力として世界における影響力にとって重要であり続けるならば、中国は、22世紀には、アメリカが次の世では、別の世界で一人だけで生きていくのであれば、最大の影響力を持つ国になることは確実である。

そして、その中国こそが、今回の事件、およびこの世の終わりによって、最も恩恵を受ける国なのである。トランプ大統領は中国に対抗するために、ロシアを味方につけようとしているのかもしれないが、それは実は180度逆の効果を発揮し、自滅へ向かっているのである。ただし、彼はそれが明らかになっているときは死んでいるだろうが(生きていても、この瞬間の自分がディールを支配したという快楽以外は気にも留めないだろうが)。

19世紀からの英国、アメリカによる世界秩序が決定的に崩壊し、日本以外の国は、次の世の中の準備を開始したのが、2月末なのである。「そんな抽象的なことを『22世紀を見据えて』などと言われても、自分には関係ないし、自分も死んでいるから関心ない」という感想を持ったのなら間違っている。すべては動き始めたのだ。

ドル円相場は1ドル=147円台にまで突入、日本国債10年物の利回りは年率1.5%を突破した。株式は着実な下落を始めた。関税に振り回されているように見えるが、根底は、欧州とアメリカの別離、アメリカの世界からの離脱にあるのである。

今後、リスク資産市場の価格は、すべて下落していくだろう。短期的にはただの上げ下げで、一気の下落トレンドにならない理由は、この「ゼレンスキーいじめ事件」を相場的に短期的にどう解釈していいかわからず、わからないこと、そして長期的には都合の悪いこと、それらに対しては、「見ない、考えない」というのが相場の習性(悪いくせ)だからである。
だから、部分的に欧州軍需産業株が急騰したり、欧州の財政拡大で景気にプラスとこじつけてみたり、という反応だけしているのである。

いよいよバブルは崩壊する

しかし、世界は、今後ひとつひとつ、次の世の中に移っていることを目の当たりにし、そして、それはこの世が終わることにより、この世に依存したリスク資産、投機的行動には大きくマイナスであることが明らかになり、少しずつ着実に下落が続いていくであろう。

この世は終わり、資本主義・民主主義体制は終わり(戦争をはじめ、力だけが支配する世界であり、かつ日常はそれにかかわらず静かな繰り返しが行われる社会)、バブルは崩壊するのである。

小幡 績(おばた せき) Seki Obata 慶応義塾大学大学院教授
株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。