【QA】いまさら聞けない「COP26」6つの要点…石炭・EV・途上国支援。何が決まり、今後どうなるか?

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【QA】いまさら聞けない「COP26」6つの要点…石炭・EV・途上国支援。何が決まり、今後どうなるか?(BUSINESS INSIDER 湯田陽子[編集部] Dec. 09, 2021, 07:15 AM)

10月31日から約2週間にわたって開かれた、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)から1カ月。

石炭火力廃止をめぐる議論や電気自動車(EV)に関する宣言など、開催期間中は連日連夜、COP26絡みの報道が相次いだ。

COP史上最も注目を集めたと言われるCOP26で、いったい何が決まったのか。

「押さえておきたい注目ポイント」について、環境政策シンクタンク、地球環境戦略研究機関(IGES)の田村堅太郎・気候変動とエネルギー領域プログラムディレクターが解説する。

【Q1】COP26で何が決まった?

【A1】温室効果ガス削減を加速させる必要不可欠な国際ルールが決定

190カ国を超える締約国が合意したCOP26の採択文書。「2030年までに気温上昇1.5度に抑制する」対策を進めるために必要不可欠な国際ルールが盛り込まれたという点で、一定の成果を収めたと言える。

採択文書のなかで、最低限、押さえておきたいポイントは以下の3つ。

2030年目標を2022年末までに再提出

COP26に各国が提出した2030年までの温室効果ガス削減目標(以下、2030年目標)では、気温上昇1.5度に抑制できないことが判明。各国政府に対し、現状の2030年目標を「野心的な」数値に見直し、2022年末までに再度提出することを要請した。

現状の目標数値では不十分であり、再提出も要請ベースで拘束力はないとはいえ、2025年に予定されている次の目標提出時期を待たず、2022年末までに再提出することで合意した点は評価できる。

温室効果ガス削減量の国際取引ルールが決定

温室効果ガス削減量(クレジット)の国際取引にともなう二重計上防止策、クレジットの算定方法など、市場メカニズムに関するルール(6条ルール)の大枠が決定。パリ協定で提唱された最低限のルールを決めることができた。

まず、各国の取り組みの透明性を高めるために、2024年以降、2年ごとに提出する温室効果ガスの排出量・削減量などのデータ(透明性報告書)の統一ルールが決定した。

これにより、先進国は定期的に提出し、発展途上国は出せるときに出せばいいという従来の取り決めが変更され、今後は途上国も含むすべての締約国が提出することになった。

また、すべての締約国が2025年以降、5年ごとに10年後の温室効果ガス削減目標を提出していくことも決まった(2025年に2035年目標を、2030年に2040年目標を提出)。

年間1000億ドルの途上国支援を確実に実行

2010年に先進国が約束した「途上国に対し、2020年までに年間1000億ドルを支援する」という目標が一度も果たされなかったことに、途上国は強い遺憾の意を表明した。

このため、「1000億ドル目標」を早期に達成すると同時に、2025年までの継続を要請。加えて、2025年以降の目標金額について、2022年から議論を開始することを決めた。

なお、詳細は【A3】で後述するが、イギリスの提案した「石炭火力廃止」がインドの反対で「削減」という表現に後退した背景には、先進国がこの約束を守らなかったことに対する根深い不信感があった。

【Q2】COP史上、最も注目を集めた理由は?

【A2】「2030年目標」まで残された10年の最初に開かれたCOPであり、英米が国際世論を戦略的にリードした

「2030年に気温上昇を1.5度に抑制する」目標を達成するために残されているのは10年弱。

国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によると、2020年代半ばに世界の温室効果ガス排出を減少に転じさせないと、目標は達成できない。

いますぐ対策を強化しないと間に合わないため、先進国はこれからの10年を「決定的な10年」「勝負の10年」と強調した。

この1年間を振り返ると、2021年4月にアメリカが開催した気候リーダーズサミットをはじめ、『すべての道はCOP26につながる』と言っていいほど、さまざまな国際会議でCOP26に絡む話題が大きく取り上げられてきた。

議長国イギリスだけでなく、(パリ協定から離脱したトランプ政権に代わって誕生した)アメリカのバイデン政権が、この分野で主導権を握ろうと本気を出してきたためだ。

その結果、COP26には、パリ協定が採択されたCOP21(2015年)の記録を大きく上回る約4万人が参加(【図1】)。なかでも、企業やNPOなどのオブザーバー参加が急増し、従来の約2倍に上った。

【図1】COP参加人数の推移。これまではパリ協定を採択した2015年のCOP21が最高だったが、COP26で大幅に更新した。 出所:IGES気候変動ウェビナーシリーズ「COP26結果速報:グラスゴーで決まったこと」資料

【Q3】大きな話題となった「石炭火力発電」の扱いは?

【A3】対策が講じられていない石炭火力の「段階的削減」を明記

会期後半の11月10日、開催国イギリスのアロク・シャルマCOP26議長が、「石炭および化石燃料補助金の段階的廃止の加速」を採択文書に盛り込むことを提案。

石炭依存度の高い一部の途上国の猛反発により交渉は難航し、最終的にはインドが提案した「対策が講じられていない石炭火力の段階的削減、および非効率的な化石燃料補助金の段階的廃止に向けた努力を加速」という表現を盛り込むことで合意した(【図2】)。

実は、イギリスの提案は、日本を含む先進各国にも衝撃を与えた「事件」でもあった。

というのも、COPで交渉する議題は締約国間で事前に決められており、石炭火力については開幕時点で含まれていなかったからだ。

ところが、イギリスは、交渉議題だけでなくCOP全体で議論された内容をまとめる採択文書のカバー決定(冒頭の総論部分)のなかで、この問題を取り上げることを提案してきた。

カバー決定の内容は議長の裁量が効くため、シャルマ議長の信念として打ち出したとみられるが、突然のことに各国は対応に追われた。

なお、この議論は「先進国 vs. 途上国」という単純な構図ではなく、温暖化によって海面上昇などの危機にさらされている小島しょ国をはじめ、多くの途上国がインド提案に遺憾の意を示したことにも注目しておきたい。

【図2】石炭火力をめぐる議論の経緯(二重下線部は追加修正された部分)。一部の途上国が反発し、11月12日に閉幕予定の会期を1日延長して何とか合意にこぎ着けた。 出所:IGES気候変動ウェビナーシリーズ「COP26結果速報:グラスゴーで決まったこと」資料より筆者作成

【Q4】「対策が講じられていない石炭火力」とは何を指すのか?

【A4】単に高効率なだけではアウト、CCSなどの対策が必要になる可能性が高い

結論から言えば、COP26では、「対策が講じられていない石炭火力」が具体的に何を指しているのかまでは決めていない。

ただ、これまでのIPCCの議論などを踏まえると、日本が東南アジアなどに積極的に輸出してきた「発電効率の高い石炭火力」というだけでは「対策が講じられていない」とされる可能性が高く、例えば、二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)などの温室効果ガス削減対策を施していることが不可欠になるとみられる。

【Q5】化石燃料で最もCO2排出の少ない天然ガスは今後どうなる?

【A5】石炭に続き、天然ガスに対する締め付けも厳しくなる

採択文書には盛り込まれなかったものの、COP26や会期中に開かれたサイドイベントでは、「Gas is the New Coal」「石炭の次は天然ガス」という議論も活発に行われた。今後は石炭と同じく、CCSなどによる削減対策を講じていない天然ガス火力などに対する締め付けが厳しくなることが予想される。

実際、今回のCOP26会期中に、アメリカや欧州諸国など33カ国が「クリーンエネルギー移行のための国際公的支援に関する声明」に署名(日本は署名せず)。国内外の化石燃料関連事業に対する公的資金の拠出を2022年末までに停止するという内容で、石炭・石油だけでなく、天然ガスも対象になっている。

また、デンマークやコスタリカなど20カ国強から成る小規模な枠組みではあるものの、石油とガスの生産を停止していくことを目指す「ビヨンド・オイル・アンド・ガス・アライアンス(BOGA)」も発足した。

こうした動きを踏まえると、化石燃料で最も二酸化炭素(CO2)排出量が少ないとはいえ、天然ガスも今後、フェードアウト(段階的削減)の対象になることは避けられないだろう。

【Q6】採択文書以外で注目される動きは?

【A6】日本への影響の大きさという点で、石炭・EVに関連する声明に注目

採択文書の議論と並行して、数多くの声明やイニシアチブ(枠組み)が打ち出されたことも、これまでのCOPでは見られなかった注目すべき点だ。

話題を呼んだ米中共同宣言を筆頭に、社会・経済全般に関わる声明が出され(【図3】)、「勝負の10年」にかける各国の本気度や関心の高さを示していた。

なかでも、日本経済への影響が予想される点で注目したいのは、石炭とEVに関する声明だ。

石炭火力の早期閉鎖支援

最大の注目は、欧米諸国が協力して南アフリカの石炭火力発電所を閉鎖するという枠組みだ。

これは、現地の石炭火力を早期に閉鎖して代替エネルギーを提供するだけでなく、閉鎖にともなうコミュニティや労働者に対する支援をパッケージとして行うというもの。

ただ閉鎖するだけでなく、閉鎖に伴う社会・経済への影響を最小限に留めようとする試みであり、今後の「石炭火力の段階的削減」のベンチマークとなり得る取り組みとして注目されている。

アジア開発銀行も同様の取り組みに着手することを公表、インドネシア、フィリピン、ベトナムでパイロット事業を進めていく計画だ。

2035年までに販売するすべての新車をゼロ・エミッション化

議長国イギリスは、先進国の主要市場で販売するすべての新車を、2035年までに(世界では2040年までに)、走行中にCO2を排出しないゼロ・エミッション化すると宣言。イギリス、インドなど先進国・途上国39カ国のほか、カリフォルニア州やニューヨーク市といった地方自治体、メルセデス・ベンツ、ボルボ、フォード、GMなどの自動車メーカーなどが署名した(自動車産業が強いアメリカ、ドイツ、日本の政府は署名せず)。

【図3】COP26会期中に出された、おもな声明・イニシアチブ。 出所:IGES気候変動ウェビナーシリーズ「COP26結果速報:グラスゴーで決まったこと」資料より筆者作成

(取材、文・湯田陽子)