新型コロナ封じ込めに成功した台湾 死者9名、2020年GDP2.98%増

台湾の新型コロナ対策 国際

2020年GDP。対前年比でプラスを達成した中国だが、それを上回った台湾。2月8日2時22分時点での感染者数は927人、死亡者数は9人である。

ニュージーランドの成功例に続き、今回は台湾の成功を分析した。

新型コロナを封じ込めたニュージーランド 真逆の日本

台湾の2020年のGDP、対前年比で2.98%の増 中国を上回る

台湾の2020年のGDP(国内総生産)は、新型コロナウイルスの感染を抑え込んだことで消費の落ち込みが小幅に止まったことに加え、米中対立の影響で半導体などの受注が好調で輸出を押し上げたことから、世界で数少ないプラス成長を記録した。

台湾の行政院の発表によると、去年のGDPは前年と比べて速報値で2.98%の増加となった。

主要国で唯一プラス成長を維持した中国は、国家統計局1月18日の発表によると、物価変動を除く実質で前年比2.3%増である。中国もすごいが、台湾は中国よりも高い伸び率を示した。

世界がマイナス成長となった中で、中国と台湾がプラス成長を記録したのは、いずれも新型コロナ感染を早期に抑え込むことに成功し、経済を早期に立て直したからである。

新型コロナ撲滅を徹底せず、withコロナ政策の下で経済活動の再開に舵を切った国・地域では感染が再び拡大し、結果的には、感染拡大防止も経済回復も両面で苦戦している。

台湾成功の秘訣 第一は初動対策の徹底

感染の発生源とされる中国に隣接する台湾が、どうして新型コロナ感染の早期収束に成功したのか。

その要因の第一は、初動の対策を徹底したことである。

台湾は2019年12月31日の段階で、CDC(疾病管制署、Taiwan Centers for Disease Control)がネット上の噂話を解析し、武漢での異変を察知した。緊急臨時閣議を開き、武漢発フライトの検疫強化などの方針を決定し、中国当局に問い合わせするとともにWHOに情報共有のため通報した。

2020年1月2日に、行政院は緊急対応グループ(日本でいう対策本部)を設立した。15日に新型コロナ感染症を法定感染症に指定。20日にCDCに中央感染症対策指揮センターを設置して、陳時中指揮官が毎日2回の定例記者会見を開始した。

23日から段階的に入境制限を行い、2月7日には帰国者を除き中国からの入境を原則禁止にした。

台湾の初動体制を知れば知るほど、日本政府は如何にのんびりしていたかがわかる。それどころか日本政府は、春節で中国から多数の観光客が訪日することを期待し、また夏の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて入国制限はマイナスになるとして、中国からの入国規制をすぐに実施しなかった。

トップの有事感覚とリーダーシップ 適材適所の優秀な人材

台湾は厳しい国際環境の中に置かれており、トップの有事感覚とリーダーシップは、台湾の存亡に関わる極めて重要な資質だ。蔡英文総統は、新型コロナ感染症対策は戦争との認識を持ち、的確な対策を迅速に決定し、行政を指揮した。

行政府は日本の議院内閣制と異なるので同一に比較することは出来ないが、各部署の大臣は全て専門的知識と経験を備えた人物である。

例えば、陳建仁副総統は、公衆衛生学の分野では世界トップの米ジョンズ・ホプキンズ大学公衆衛生大学院で博士号を取得した人物であり、2002年から2003年のSARS危機の際には、行政院衛生署長として大活躍した。

唐鳳政務委員(オードリー・タン、無任所大臣、IT担当大臣)は全国のマスクの在庫一覧システムを作るため、情報を民間IT企業に公開し、政府の情報を国民に効率よく伝えるために活躍した。彼は、8歳からコンピュータープログラミングに興味を持ち、ずば抜けて知能が高く、逆に既存の学校教育になじめずに14歳で中学校を中退した。

独学でプログラミングを学び、16歳で液晶ディスプレイやプロジェクターの世界的大手、台湾明基公司(BenQ)の顧問になるなど、IT関連企業の要職を経験した。

マスクの輸出禁止や増産体制などを整え、マスク不足問題の解決に活躍したのが、沈栄津経済部部長(経産大臣に相当)である。彼は台湾国内におけるマスクの増産体制を作り上げるため、全国の工作機械組合、精密機械センター、マスク生産業者、紡績所、その他研究団体など30以上の企業と国家組織をまとめて、構築に3か月から半年かかるといわれた60本のマスク製造ラインを、わずか1か月で完成させた。

2019年、台湾はマスク需要の約93パーセントを中国からの輸入に頼っていたが、2020年1月に中国はマスクの輸出を禁止した。そこで台湾政府はマスクの製造と流通を一元管理し、2月初旬に1億8000万台湾元を投入してマスク製造機を購入し、4月には1700万枚まで増産。台湾は一躍、世界第2位のマスク生産拠点に早変わりした。

オードリー・タンはネット上にマスク供給地図を作り、予約販売などのシステム構築を行い、マスクを巡る国民の混乱を防いだ。

迅速な経済対策で、産業と雇用、国民生活を守る

新型コロナ感染症の影響を受け経営困難になった産業や事業等に対する財政援助や経済振興策、解雇されたり休暇を強いられた労働者に対する支援策として、台湾政府は2月27日に600億台湾元(約2100億円)を上限とする特別予算案を閣議決定し、3月13日に国会で可決・成立させた。

世界各地で感染拡大が続く中、蔡英文総統は4月1日、新型コロナウイルスの感染拡大に関する対策費を1兆500億台湾元(約3兆7100億円)規模に拡大すると発表した。

すでに成立した600億元の特別予算に1500億元(約5400億円)を追加する他、既存予算の組み換えや基金の活用、政府系金融機関による金融支援などで、打撃を受ける産業の救済を図るとした。4月21日に本会議で可決・成立させた。

また、6月2日には、感染症流行で落ち込む個人消費を刺激するため、個人負担1000台湾元(約3600円)で3倍の3000元分の消費ができる振興券「三倍券」政策を発表した。使用期間は7月15日から12月末までとなる。

但し、中・低所得世帯は1000台湾元の自己負担が免除され、政府から直接口座に1000台湾元が振り込まれるので、これを「振興三倍券」に兌換することができる。

【台湾基礎データ】

人口 約2360万人(2020年2月)
名目GDP 6050億米ドル(2019年、台湾行政院主計處)
2021年度予算 歳入2兆450億元(約7兆4200億円)、歳出2兆1615億元(約7兆8500億円)を計上
為替レート 1元=3.65円(2020年3月24日)、1元=3.77円(2021年2月8日)

情報公開と市民の理解

感染対策の指揮を執っている陳時中・衛生福利部長(衛生相)が西日本新聞のオンライン取材に応じた。

コロナ対策、情報公開と市民の理解が鍵 台湾衛生相インタビュー(2021/1/17 18:57 2021/1/17 20:03 更新)

インタビューの中で、日本などは経済への影響を懸念して厳しい防疫措置に二の足を踏むが、「防疫ができなければ経済も成り立たない」と感染対策最優先の姿勢を強調。

台湾内でも新規感染者が出なくなると、すぐに経済活動への規制緩和を求める声が高まった。それでも8週間連続で感染者ゼロとなるまで緩和せず、推移を見守った。

封じ込め成功のもう一つの鍵として挙げたのが、「公開と透明化」だ。デマや噂で混乱が広がらないよう、陳氏が連日記者会見に臨み、感染情報や防疫措置の細かい質問に答え続けた。

「発生当初、国民は不安を抱いていた。この不安を減らさない限り全ての政策は行き渡らず効率は上がらない。規制や罰則だけでなく、国民が手を携えて団結することが最も重要だ。」

と語った。

中国は、国内でのコロナ封じ込め「成功」を高らかに主張するが、その手法は情報統制を含む強権の発動だ。台湾が対策の中で重視した「情報の透明化」とは対照的だ。

コメント

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