小泉進次郎「低所得者を狙った大増税」改革が危険すぎる…!ウラで「国民的人気候補」を操る「組織の正体」

小泉進次郎「低所得者を狙った大増税」 政治・経済

小泉進次郎「低所得者を狙った大増税」改革が危険すぎる…!ウラで「国民的人気候補」を操る「組織の正体」(現代ビジネス 2024.09.12)

藤井 聡 京都大学大学院工学研究科教授

進次郎「改革」は国民に害悪をもたらす「改悪」

自民党の有力総裁候補の一人である小泉進次郎氏が出馬会見を行った。その中で、進次郎氏は様々な「改革」を打ち出し、これを全て「1年以内でやり遂げる」と宣言した。そうした改革が日本の国益に叶うものならば大変結構なことではあるが、控え目に言ったとしてもその多くが国益に叶うとは全くいえない、至って怪しい改革案であったことが政策専門家の間で今、話題になっている。

例えば「選択的夫婦別姓」や「解雇規制の緩和」、あるいは「ライドシェア」は賛成する人もいるのだろうが、主としてそうした問題の専門家筋に大きな疑問符が付けられている改革案だ。つまりそれらは、彼の父親がかつて「抵抗勢力」とレッテル張りをした様な種類の人々とは”異なる”人々から、純粋に理性的、合理的な観点から批判され、否定されているものなのだ。

今日はそんな「危険な進次郎改革」の一つの典型例として、彼が会見で掲げた「年収の壁」撤廃改革の危険性について解説したいと思う。

「増税」による血も涙もない「鬼提案」

「年収の壁」の撤廃改革について、進次郎氏は記者会見で次のように説明している。

「年収の壁を撤廃。働いている方には原則厚生年金が適用されるように制度を見直す」

当方はこれを目にした時、その余りに酷さに心底仰天したのだが、一般の人には正確には理解できないのではないかとも同時に感じた。ついては一般の方々にこの文言を見せ、感想を伺ったところ「壁がなくなるなら、いいんじゃない?」「厚生年金の制度の幅も広がってなんか良さそうに思うよ」という反応ばかりだった。しかし、それは完璧なる「勘違い」だ。

結論から言うとこの進次郎提案は、「今まで低所得だから厚生年金の支払いが免除されてた人からも、一律に厚生年金を吸い上げるようにする」という「低所得者をターゲットとした”大増税”」に過ぎない代物なのだ(なお、ここでは保険料支払いも政府が国民から吸い上げるものであるという点で同じだという主旨で便宜上「税」という言葉で解説する。無論、年金は厳密に言えば税ではないが、例えば北欧諸国では税と保険料の区別はなく全て「税」と呼ばれており、両者の間に本質的差異はない)

以下、詳しく解説しよう。

まず、「収入の壁」というのは、扶養に入っている主婦やフリーターの若者等は年収106万円以下の人は厚生年金を払わなくてもいいとなっているから生じているものだ。つまり、年収が106万円を超えれば、それまで払わずに済んでいた厚生年金を払わないといけなくなるので、かえって「手取り収入」が減ってしまうという現象が「収入の壁」だ。

そしてこの壁を撤廃するためにしばしば主張されてきたのは、その壁の金額水準の引き上げや、「壁」のせいで減った所得プラスαを補助金で補填するなどの国民の負担を「軽減」する対策だ。ところが、進次郎氏はそうした常識的な内容とは逆に、国民負担をさらに「増加」させるべきだという恐るべき提案をしているのだ。

すなわち、進次郎は、「低所得の人が年金免除されてるから壁ができてるだけじゃないか! だったら、低所得の人に対する、年金の免除やめちゃえばいいじゃないか!」という、血も涙もない”鬼提案”をしているのである。

年収100万円にとっては9万1500円もの大増税

この”鬼提案”がホントに通ってしまえば、現在扶養に入っており、年収が106万円以下の例えば100万円の労働者の場合には、年収の9.15%、つまり年間9万1500円も政府に余分に吸い上げられる事になってしまう。これは、いわゆる「パートの主婦」や「若者のフリーター」においは極めて平均的なケースだ。

これだけでも大増税だが、進次郎氏のこの年金改革では、労働者だけではなく、彼らを雇っている「企業」もまた、同じ金額の被害をうけることになる。

というのも、厚生年金というのは、労働者が支払った年金と同じ金額だけ、会社側(雇い主側)も支払わないといけない仕組みだからだ。

厳密に言うと、厚生年金は労働者の賃金の18.3%を会社と労働者が折半で払わないといけないという仕組で、例えば100万の賃金の人の場合、9万1500円を会社と労働者の「双方」が払わないといけないのである。

つまり政府の側から言うなら、100万円の労働者が一人いれば、小泉年金改革をやれば、それだけで18万3000円も余分に国民からカネを吸い上げることができるようになる、という極めて「オイシイ」話なのだ。しかし、それはあくまでも「吸い上げる側の論理」であって「吸い上げられる国民の側」にとってみれば、それは単なる天から降ってきた「災厄」と言うほかない。

パート/アルバイトなら16万8000円の可能性も

ところで、今回ターゲットとされる年収100万円程度の労働者の多くが、正規雇用ではないパートやアルバイトというより弱い立場の方々であることを踏まえると、さらに恐ろしい次のようなケースが危惧されることになる。

例えば、「年収100万円のバイト」を1人雇っている会社を想定してみよう。その会社は小泉年金改革が決まってしまえば9万1500円も「余分」に政府に(保険料として)支払わないといけない、ということになるわけだが、それは勿論、会社にとっては是非とも避けたい話だ。だから中には、次のように考える会社が必ず出てくる事になる。

『俺(雇い主)は、このバイト君1人に100万円以上のカネなんて絶対払いたくない。だから、バイトにかかる金を100万円以下に抑えるために、俺の負担分の9万1500円も全部バイトに払わせるようにしてしまおう! もちろん、書類上は我が社が払ってるってっていう「体裁」を整えないといけないから、実際には次のすることにしよう。

1)まず、バイト代を92万弱にする
2)その18.3%の半分の8.4万円を、厚生年金としてバイト君が政府に払う。
3)そして、俺もそれと同じ8.4万円を政府に払う

こうすりゃ、俺がこのバイト君一人に払う金はトータルおおよそ100万ってことになって、俺にとっちゃ結局何もかわらねぇ。だけど俺がまるでこのバイト君のための厚生年金を半額負担してやってるって体裁になる、まぁ、バイト君はえらい災難だろうけど(笑)』

お分かり頂けただろうか?

要するに、全員を厚生年金に入れるっていう小泉年金改革をやれば、100万所得の労働者は最低でも9万1500円の増税になり、経営者がずる賢い奴なら、最悪16万8000円もの大大増税になるのである。誠にもって恐ろしい話だ。

裏で操っているのは財務省を中心とした緊縮財政勢力

とはいえこの年金改革は、進次郎氏が急に今回思いついたものでは断じてない。こうした年金改革は長年、財務省が進めたいと思い続け、温め続けてきた「改革」だ。財務省にとってみれば、「扶養」という仕組みによって守られ、保護されているという状況のせいで、一部の労働者から年金を吸い上げることができないという現状の仕組みは、まるで喉に刺さったサカナの骨のように「鬱陶しい」ものだったのだ。

そんな財務省(および彼らを中心とした諸勢力)が今回目を付けたのが、国民人気が高く、そして事の重要性をどこまで理解しているか曖昧な「軽い神輿」としての小泉進次郎氏だったという次第だ。

そう考えれば進次郎氏も半ば「あわれ」な存在と言うこともできるだろうが、何より「あわれ」なのはそんなことに気付かずにイメージだけで進次郎氏を支持し、その帰結として「大増税」をされてしまいかねない状況に追い込まれている我々日本国民だ。

だからこそ我々国民は政治家のイメージはさておき、その政治家が一体どのような政策論を主張しているのかを一つ一つしっかりと吟味する姿勢を何よりも大切にせねばならない。さもなければ、我々の日本はこれから何十年も、「失われ」続ける事になるのだ。

とりわけ今回の総裁選の有権者である国会議員、ならびに自民党の党員・党友各位には、そうした「真面目」な姿勢を、心から祈念したい。さもなければ来たるべく衆議院選挙、あるいはおそくとも来年の参議院選挙で、自民党は大敗を喫し、政権を明け渡しかねないだろう。「目先の人気者」ばかりに頼っているようでは、国政政党の未来が明るくなるようなこと等、絶対にないのだ。

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藤井 聡 SATOSHI FUJII 京都大学大学院工学研究科教授

元内閣官房参与。京都大学レジリエンス実践ユニット長。1968年、奈良県生まれ。京都大学卒業、同大学院修了後、同大学助教授、東京工業大学教授等を経て現職。2012年より2018年まで安倍内閣・内閣官房参与にて防災減災ニューディール政策を担当。専門は経済財政政策・インフラ政策等の公共政策論。文部科学大臣表彰・若手科学者賞、日本学術振興会賞等受賞多数。著書に『MMTによる令和「新」経済論』(晶文社)、『令和日本・再生計画』(小学館新書)など。「正義のミカタ」(朝日放送)、「東京ホンマもん教室」(東京MXテレビ)等のレギュラー解説者。2018年より「表現者クライテリオン」編集長。