殺傷武器輸出、解禁を議論 自民、公明が非公開の場で進める「平和主義」の分かれ道(東京新聞 2023年4月26日 06時00分)
自民、公明両党は25日、防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の見直しに向けた与党協議を始めた。ウクライナ支援や中国による台湾侵攻を念頭に、殺傷能力のある武器の輸出解禁に踏み切るかが焦点で、自民は前向きだが、公明は慎重だ。
解禁なら敵基地攻撃能力(反撃能力)保有に続く安保政策の大転換となる。市民団体は「憲法9条で国際紛争に加担しないようにしてきたのに、他国に武器を輸出して日本が『殺す側の国』に変わっていいのか」と警鐘を鳴らす。
防衛装備移転三原則
2014年4月に当時の安倍政権が決定した防衛装備品の輸出ルール。国際共同開発や輸出拡大に向け、従来の禁輸政策を撤廃した。輸出や供与の条件を国際協力や日本の安全保障に資することとし、国連安全保障理事会決議に違反する場合などは禁じた。運用指針では、殺傷能力を持つ武器の輸出を共同開発・生産をする国に限定。殺傷能力がない装備は、救難、輸送、警戒、監視、掃海の計5分野で認めている。
◆戦車やミサイルの輸出を解禁するか
自民の小野寺五典安全保障調査会長は国会内で開かれた初会合で「防衛装備移転の論点について、具体的な方向性を出せるよう議論したい」と強調。公明党の佐藤茂樹外交安保調査会長は「戦後の平和国家としての歩みを堅持しつつ、厳しさが増す安全保障環境の中で、望ましい制度の在り方を議論したい」と述べた。
会合では両党議員や政府関係者が三原則の歴史的経緯などについて意見交換した。主な論点は
(1)非殺傷の装備品のうち輸出可能なものを「救難」「輸送」などの5類型から拡大するか
(2)日本と武器を共同開発した国が第三国へ輸出する手続きを明確化して認めるか
(3)戦車やミサイルなど殺傷能力のある武器の輸出を容認するか
の3点だ。
特に問題となるのは、現在は三原則の運用指針で原則認められていない殺傷能力のある武器の輸出解禁。日本は憲法の平和主義に基づき、1960〜70年代に「武器輸出三原則」を確立し、全面禁輸措置を採用してきた。第2次安倍政権は2014年、「防衛装備移転三原則」に変更して一部認めたが、政府・自民党内では殺傷能力のある武器を含め、規制緩和を求める声が強まっている。
ウクライナのような国への支援や国内の防衛産業の振興のため、岸田政権は昨年末に改定した国家安全保障戦略で、装備品輸出を友好国との防衛協力強化に向けた「重要な手段」と位置付け、三原則の見直しを「検討する」と明記。この方針を受け、与党は今回の協議に着手した。
市民団体「武器取引反対ネットワーク」の杉原浩司代表は取材に、殺傷力のある武器の輸出を解禁すれば「平和国家のイメージが崩れ、他国の信頼を失う」と指摘。紛争地での日本の非政府組織(NGO)の活動に支障が出るなど実害が出ると危ぶむ。
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◆自民はなぜ武器を積極的に輸出したいのか
自民、公明両党が25日に始めた防衛装備品の輸出ルール「防衛装備移転3原則」の見直しに向けた与党協議では、自民党が前向きな殺傷能力のある武器の輸出解禁が最大の論点になる。敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有に続く「力には力」の論理がちらつき、慎重な公明党の対応がカギを握る。
自民党の与党協議メンバーの一人は会合後、記者団に「公明党の皆さんに言いたいが、韓国ですら毎年2兆円も武器を輸出している」と強調した。
自民党が目指すのは、ウクライナへの支援拡大の必要性を名目に「救難、輸送、警戒、監視および掃海」の5分野に限定している類型の拡大と、ミサイルや戦車など殺傷能力のある武器の輸出解禁だ。
理由の一つに挙げるのが、国内の防衛産業の維持。販路がほぼ自衛隊に限られ、防衛分野から撤退した国内企業は2003年以降で100社以上とされ、自民若手は「海外輸出の本格解禁が不可欠だ」と訴える。
海洋進出を強める中国に、装備品輸出でも「力には力」で対抗すべきだとの主張もある。自民中堅議員は「対中国を踏まえれば、ウクライナ以外の同志国にも、ちゃんと輸出できるようにしなければいけない」と指摘。東南アジアの民主主義国などへの提供を念頭に、輸出できる装備品の範囲を広げる必要性を唱える。
◆「平和の党」を自任する公明は
公明党は、三原則を見直すことに全面的には反対していない。非殺傷能力の分野で、地雷除去や教育訓練などに拡大することは容認できるとの立場。政府が英国、イタリアと3カ国で共同開発する次期戦闘機の第三国への輸出の手続きも「現実に即した対応に変えなければ」(党幹部)と柔軟な構えをみせる。
問題は、殺傷能力のある武器の輸出解禁。一貫して慎重な姿勢を見せ、山口那津男代表は25日も記者団に「公明党の見方だが、短時間で結論を出すのはかなり困難だ」とけん制した。過去には反対していた集団的自衛権の行使を一転して認めたこともあり、自任する「平和の党」の真価が試される。
国会など公の場でなく、与党協議という非公開の形式で議論が進んでいくことの妥当性も問われる。決定した大枠が、そのまま政府方針になる可能性が高いからだ。
日本は憲法に基づく平和主義のもと、日本の武器によって「国際紛争を助長しない」との大方針を継承してきた。殺傷能力のある武器輸出を認めれば大転換で、日本の武器が海外で使われ、紛争を拡大・助長することにもなりかねない。
日本経済新聞社の2月の世論調査では、ウクライナに「武器を提供する必要はない」との回答が76%に上った。重大な政策決定には、国民への重い説明責任が伴うのは言うまでもない。