“岸田方式”と呼ばれる岸田首相の「脱法パーティー」 主催は“任意団体”、収支を公表せず収益を寄附させる手口は“政治とカネの不正”の温床になる懸念

岸田文雄・首相は任意団体を利用した“脱法パーティー”の「常習犯」だった 政治・経済

低迷する支持率回復のために岸田文雄・首相は「政治とカネ」をめぐる改革アピールに躍起になっている。その議論自体が迷走していることもさることながら、そもそもこの総理に政治改革を進める資格はない。自身が初入閣した15年以上前から、遵法精神を疑わせる資金集めを繰り返してきたからだ。その実態を総力取材で明らかにする。

“岸田方式”と呼ばれる岸田首相の「脱法パーティー」 主催は“任意団体”、収支を公表せず収益を寄附させる手口は“政治とカネの不正”の温床になる懸念

“岸田方式”と呼ばれる岸田首相の「脱法パーティー」 主催は“任意団体”、収支を公表せず収益を寄附させる手口は“政治とカネの不正”の温床になる懸念(週刊ポスト 2024.05.18 10:58)

“ガラス張り”にしたくない

終盤国会は迷走を続けている。

自民党の裏金問題の「再発防止策」として政治資金規正法の改正が議論されているが、政治資金パーティー券購入者の公開基準などをめぐって自民党と公明党の意見が折り合わず、与党の改正案づくりが難航。自民党側は政策活動費の使途公開にも消極的で、政治資金の使い途を“ガラス張り”にすることに後ろ向きなのは明らかだ。

それを野党が批判すると、自民党側は「自民党の力を削ぎたいという政局的な話がごっちゃになっている」と反論する泥仕合となっている。

自民党が改革を進められないのは、総裁である岸田首相の責任に他ならない。口では「今国会での改正に全力で取り組む」「与党間でしっかり協力してもらいたい」と言いながら、本気で再発防止に取り組む姿勢など見えない。

理由は岸田首相自身が「スネに傷」を持っているからだ。

岸田首相は2022年6月に地元・広島で約1100人を集めた「衆議院議員 岸田文雄先生 内閣総理大臣就任を祝う会」に出席している。そこで1100万円以上(会費は1人1万円)のカネを集めたと見られるが、形式上、任意団体が主催したことになっており、政治資金収支報告書に収支を記載しない“脱法パーティー”だったことが本誌・週刊ポストのスクープで明らかになった(2月2日号)。

この問題は国会で追及され、岸田首相は「地元政財界の皆さんが発起人となり開催いただいた純粋な祝賀会」と言いながら、「振込先の口座開設など様々な手続きについて、私の事務所の人間がお手伝いをした」と事務所の関与を認めた。そのため祝う会疑惑について政治資金規正法違反の虚偽記載容疑で広島地検に告発状が出された。

野党側はこの脱法パーティーの手法を「岸田方式」と命名。収支の公開基準の厳しい国会議員関係政治団体から、基準の緩いその他の政治団体に資金を移して使途公開を逃れていた茂木敏充・幹事長の「茂木方式」と併せて、法改正による規制強化を主張している。

ところが、岸田首相が指示して与党が合意した改正方針の骨子は、「茂木方式」の規制には触れているが、「岸田方式」の“脱法パーティー”の禁止は議論に上がっていない。岸田首相は自分の“脱法行為”を野放しにしておこうというのだ。

自民党裏金問題と首相の「祝う会」問題を検察に告発した上脇博之・神戸学院大学法学部教授が指摘する。

「岸田首相のように任意団体主催の形でパーティーを開き、収支を公表せずに収益の一部を寄附させる手法は政治資金規正法の抜け道です。法改正で政治資金パーティーを規制しても、この抜け道を塞がない限り裏金を集めることができる。むしろ、法改正で規制を強めれば強めるほど、政治家は抜け道の“脱法パーティー”に走り、政治とカネの不正の温床になる危険さえあります」

しかも、本誌は岸田首相が任意団体を利用した“脱法パーティー”の「常習犯」であることを新たに掴んだ。後編ではその詳細を報じる。

岸田首相、「脱法パーティー」常習犯の可能性 “初入閣”“外相就任”などの「祝う会」として繰り返された事実上の資金集め

岸田首相、「脱法パーティー」常習犯の可能性 “初入閣”“外相就任”などの「祝う会」として繰り返された事実上の資金集め(週刊ポスト 2024.05.18 10:59)

「岸田方式」の繰り返し

本誌・週刊ポストは、岸田首相が任意団体を利用した“脱法パーティー”の「常習犯」であることを新たに掴んだ。

岸田首相が第2次安倍内閣の外相に就任した半年後の2013年6月22日、リーガロイヤルホテル広島のロイヤルホールで「外務大臣就任を祝う会」が開かれた。会費は1万円。報道では確認できないものの、地元の広島市議の1人はこのパーティーの壇上で挨拶する岸田首相の写真をフェイスブックにアップしており、広島県熊野町のこの年の町長交際費報告書にも、「衆議院議員 岸田文雄先生 外務大臣就任を祝う会」の名目で1万円の支出が記載されている。会場も会費も2022年6月に開催された「総理就任を祝う会」と同じだ。

外相就任を祝う会に関わった元岸田事務所関係者から具体的な証言を得ることができた。

「会場の収容人数は1000人規模ですが、およそ3000人に招待状を送りました。企業には10枚単位で送るし、欠席者が多いことも見込んでいましたから。会費1万円で収入は1000万円から1500万円くらいだったと思う。招待者の名簿づくりからお金の管理、受付まで全部岸田事務所でやりました。自民党支部、後援会ともに岸田事務所のなかにあって、秘書や元スタッフが応援に駆り出されました」

実質、岸田事務所が運営を取り仕切った“政治資金パーティー”のように見えるが、岸田文雄後援会、岸田首相の資金管理団体「新政治経済研究会」、政党支部(自民党広島県第一選挙区支部)のどの政治資金収支報告書にも、この外相就任を祝う会の収支は記載されていなかった。

祝う会の収益はどこにいったのか。

その一端がうかがえるのは、岸田首相の政党支部の2013年分の政治資金収支報告書に、「衆議院議員岸田文雄先生外務大臣就任を祝う会」なる団体から、パーティー当日の6月22日付で382万6112円の寄附がなされていることだ。団体の代表者名には「岸田文雄後援会」の収支報告書上の代表を2012年まで務め、後援会の会長だったA氏の名前が記載されている。

本誌の調べで、この「外務大臣就任を祝う会」なる団体は法人登記も政治団体としての届け出も出されていない任意団体であることがわかった。

1000万円以上の収入を得たという証言があるにもかかわらず、収支報告書上の寄附は約382万円のみ。差額は何に消えたかわからない。「岸田方式」そのものだ。

岸田首相の総理就任を祝う会(2022年)も企画・準備段階から運営まで岸田事務所が中心になって開催しながら、現後援会長が代表を務める「衆議院議員岸田文雄先生 内閣総理大臣就任を祝う会」なる任意団体が主催したことにして収益の一部である約322万円だけを政党支部に寄附させていた。

結果、パーティーの収入総額や収支、購入者名、寄附額との差額を何に使ったかも政治資金収支報告書に記載されず、“闇の中”になった。しかも、現後援会長は本誌の取材に、「祝う会の代表になったことはないし、寄附した覚えもない」と証言。任意団体は岸田事務所がでっちあげた“ダミー団体”であり、代表者は名義だけ拝借し、政党支部への寄附まで岸田事務所の自作自演だった疑いが濃厚だ。

本誌は改めて外相就任を祝う会の収益約382万円を寄附した主催団体の代表とされている元岸田後援会長A氏の自宅を訪ねたが、本人は亡くなっており、遺族は取材に応じなかった。

外相就任を祝う会でも全く同じ手法

ただ、現地取材ではある重大な証言を得た。外相就任を祝う会に出席した広島の元地方議員が語る。

「政治資金パーティーの案内状などには、政治資金規正法22条の8に基づくパーティーであると記載しなければならないが、岸田さんの外相就任を祝う会の案内状にはそうした記載がなかった。

おかしいなと思って案内状が届いた数日後、岸田事務所のB秘書に電話で『記載がないけど、どうやって会計処理するんですか』と確認したんです。そうしたらB秘書は事前に調べていたようで、『集まったお金から必要経費を差し引いて、残ったお金は寄附する』と即答しました。政治団体の主催にしないのであれば、政治資金収支報告書は出さなくていい。その後の総理大臣就任を祝う会も同じで、このやり方ならば、政治資金規正法を厳しくしても意味がない」

この証言からは、岸田事務所が最初から政治資金集めを目的に外相就任を祝う会を開催しながら、案内状には「政治資金規正法に基づく政治資金パーティー」だという表示をしないで任意団体主催の形を取り、意図的に政治資金規正法逃れをしていたことがうかがえる。

自民党裏金問題と首相の「祝う会」問題を検察に告発した上脇博之・神戸学院大学法学部教授が指摘する。

「岸田事務所の秘書が、外相就任を祝う会について開催前から『経費を差し引いて残ったお金を寄附する』と説明していたのであれば、この祝う会は岸田首相の政党支部や政治団体の政治資金パーティーとして収支を報告するのが筋です。

岸田事務所はそれを百も承知で、案内状に『政治資金規正法22条の8に基づく政治資金パーティー』との告知をせず、“政治資金パーティーではない”と見せかけたのだと考えられる。最初から政治資金規正法の抜け道はないかと考え抜かなければ、こんな手口にはならない。事務所にこんなやり方を認めていたこと自体、岸田さんの総理や大臣としての資質が問われる」

「初入閣でも大々的にやった」

そもそも、「岸田方式」の原点は、外相就任よりもっと前、第1次安倍改造内閣で内閣府特命大臣(沖縄・北方担当相)として初入閣(2007年8月)した時に遡る。

前出の元岸田事務所関係者の証言だ。

「2007年の初入閣の祝う会のほうが大々的でした。初めての入閣祝いとあって事務所も勝手がわからず、警備はどうするか、ゲストは誰が迎えに行くかなど課題が多く、警察に相談しながら準備したことを覚えています」

前出・広島の元地方議員はこう言う。

「会場はリーガロイヤルホテル広島で1000人以上は集まっていたと記憶しています」

この初入閣を祝う会を岸田首相が政治資金収支報告書でどう処理していたかを調べると、2007年に岸田首相の政党支部に「衆議院議員岸田文雄先生内閣府特命担当大臣就任を祝う会」なる団体から240万円の寄附があり、同パーティーの収益の一部だったことが推察される。しかし、同支部や資金管理団体、岸田文雄後援会の政治資金収支報告書には開催した事実も収支も記載されていない。

これに味をしめた岸田首相は“脱法パーティー”を繰り返してきたと考えられるのだ。だからこそ、政治資金規正法改正論議のなかで、「岸田方式」による抜け道を、規制が及ばない裏金づくりの“聖域”のまま守ろうとしているのではないか。

岸田事務所に聞くと、こう文書回答した。

「外務大臣就任を祝う会は、平成25年に地元経済界有志の主催で行われました。したがって、祝う会の主催者が岸田文雄後援会であるとの貴誌のご指摘は事実に反します。なお、同会の詳細を弊事務所は把握しておりません。故B(回答では実名)元秘書はすでに他界しており、同人に確認することもできませんので、貴誌ご指摘の第三者との会話の有無を確認することもできません」

内閣府特命担当大臣就任を祝う会については、「平成19年に地元の政財界の皆様に発起人となって開催していただきました。弊事務所は、同会の詳細を把握しておりませんので、ご質問に回答できる立場にありません」と答えた。

“脱法パーティー”と指摘されるような資金集めを常習的に繰り返していることへの見解を問うた質問には、回答をしなかった。

自身の政治とカネをめぐる重大疑惑に正対しようとしない総理大臣に「再発防止」など無理な話で、それを指揮できるはずがない。

※週刊ポスト2024年5月31日号