【首都直下型地震の危険度】東京でワースト1位「荒川6丁目」はなぜいけないのか?(日刊ゲンダイ 公開日:2024/05/10 06:00 更新日:2024/05/10 06:00)
最大震度6弱の揺れを観測した四国では今もなお断続的な余震が続いている。南海トラフ巨大地震の地震エネルギーは、この震度6弱の四国地震の約1000倍となる。もちろん、首都圏でも直下型地震への対策を怠ってはいけない。東京都は市街化区域別に危険度を公表しており、ワースト1位は「荒川6丁目」となっているがなぜなのか?
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首都直下型地震の犠牲者の7割は火災
東京都の「地震に関する地域危険度測定調査」は、都内市街化区域5192町丁目それぞれの「建物倒壊危険度」「火災危険度」「総合危険度」などを算定している。
自分が住んでいる町の危険度をピンポイントで指摘するもので、2年前の第9回調査で総合危険度ワースト1位となってしまったのは荒川区の「荒川6丁目」だった。
トータルの危険量は「9.36棟/ヘクタール」となっており、これは1ヘクタール(100×100メートル)当たりの建物全壊棟数と建物全焼棟数を合算し、道路整備状況など災害時活動困難係数を乗じてはじき出されたもの。
何がいけないのか? 同エリアの特徴は、消防車や救急車が入って来られない狭く曲がりくねった道が多いこと。これにより、「火災危険度」が足立区柳原2丁目に次ぐワースト2位となってしまった。その火災危険量は19.01で、1ヘクタール当たり19.01棟の家が全焼してしまうという計算になる。
一方、「建物倒壊危険度」のワースト1位は古い建物が密集する墨田区「京島2丁目」で、ワースト2位も同区「京島3丁目」、ワースト3位が足立区「柳原2丁目」となっている。荒川6丁目は比較的新しいマンションも目立ち、20位だった。
では、火災に弱い荒川6丁目は地震が起きたら何が起きるのか?
南海トラフ巨大地震(最大死者約32.4万人)の犠牲者の多くが津波なのに対し、首都直下型地震(同約2.3万人)の犠牲者の7割が火災によるものとされている。東京都の「首都直下地震被害想定」によれば、都心南部を震源とするM7.3の地震(冬・夕方・風速8メートル)が発生したケースでは、都内915件で出火し、延焼などによって11万8734棟が焼失する。うち荒川区の出火は17件で、焼失棟数は1996棟だ。
木造住宅密集市街地は消火までに24時間以上
その都の被害想定にはこう書かれてある。
火災による建物被害
地震発生直後
「地震による揺れや建物倒壊の影響で、住宅や事業所の火気・電気器具、燃料等から出火し、同時多発火災が発生する」
「木造住宅密集市街地等では、住民等による初期消火活動や消防活動により多くが消火されるが、未対応の箇所から出火、延焼し、消防隊の消火活動や焼け止まりによる鎮火まで、24時間以上を要する。また、延焼火災が鎮火しても、数日後に停電していた地域から通電火災が発生する可能性がある」
「スプリンクラー等の消火設備がない一般の集合住宅では、耐火造であっても多数の火災が発生する可能性があり、居住者らによる初期消火ができない場合は住戸全体に延焼する」
1日後
「大規模な延焼火災により多数の建物が焼失する。区部西部や北部に存在する木造住宅密集地域などを中心に、焼失する建物は、最大で都内の建物数の4%に相当する約12万棟に達する」
「路上の放置自転車、沿道家屋の倒壊、液状化による道路支障、電柱の倒壊による道路閉塞等により、消火活動が著しく阻害された場合には、消火困難な火災が増え、被害が拡大する可能性がある」
数日後
「木造住宅密集市街地などを中心に、想定よりも出火が増加すると、延焼が拡大し、約3日間断続的に燃え広がり、焼失棟数が想定以上に発生する可能性がある」
「地域の住民が自宅等を離れ、避難所等に避難している場合は、不在建物からの出火に対する通報が遅れる可能性がある」
地震発生直後に消防車が入れないような場所は自然鎮火を待つしかなく、またスプリンクラーのないアパートなどは全体が焼失して住めなくなるのだ。
小さな公園避難は火災に巻き込まれるおそれ
火災による人的被害はどうか?
火災による人的被害
地震発生直後
「都心南部直下地震では、冬の夕方、風速8メートルにおいて発生した場合が最大で、出火現場からの逃げ遅れや、倒壊家屋内での閉じ込め、避難中の延焼への巻き込まれ等により、都内で最大約2500人の死者、約1万人の負傷者が発生する」
1日後
「延焼地域の住民が、火災のために避難場所から避難所へ移動できず、避難場所に留まらざるを得なくなるおそれがあるが、避難場所には飲食料等の備蓄がないため、滞在し続けることが困難となる」
荒川6丁目の住民の1次避難所に指定されているのは、「第九峡田小学校」や「第四中学校」。指定されていない小公園などに避難した場合は、避難者が殺到して全員の受け入れができず、あぶれた人が火災に巻き込まれて多数の死傷者が発生するとしている。
また、指定場所に避難できても、避難者が殺到すれば、高齢者や妊産婦らを除いて別の2次避難所に移動することになる。
「今日から始める家庭の防災計画」などの著書がある「ソナエルワークス」代表の高荷智也氏がこう言う。
「初期消火については、全体の6割が水道・浴槽・くみ置き等の水または寝具・衣類等をかけて行っています。家庭用の消化器を備えておくことが鉄則ですが、いざという時は濡らしたバスタオルや毛布をかぶせることでも、空気を遮断して火を消すことができます。避難所については『屋根と床』以外は自前で用意し、毛布や寝袋も家族全員分準備しておくといいでしょう」
通行不能の「1.7メートル制限」より狭い道
荒川6丁目はどうなっているのか。ゴールデンウイークを利用して実際に足を運んでみた。
まず、飛び込んできたのが「この先通行不能 四輪車」と書かれた黄色の看板。通行不可ではなく、通行不能だという点に留意したい。実際、5ナンバー車までが通れる「1.7メートル制限」の道すら少なく、これより狭い道がいたるところにあった。道路の端には電柱もあり、これが通行の妨げになっているケースもある。一方、急速な再開発も行われているが、昔ながらの長屋や敷地10~15坪程度の古い狭小住宅も残っていて、荒川区では一部で建物敷地細分化に規制を設けている。
もっとも、最寄り駅は京成本線・地下鉄千代田線が乗り入れる「町屋駅」で、都電荒川線(東京さくらトラム)の「町屋駅前」も使えるアクセスの良さ。さらに犯罪件数(2023年)も23区で2番目に少ない(1位は文京区)。下町の近所付き合いが残っていたり、防犯カメラ設置を増やしたことなどが背景にある。荒川6丁目の「総合危険度」もこの5年でかなり減っており、昔ほど危険ではなくなっている。