子育て支援金 負担増ごまかす説明やめよ(中國新聞 社説 2024年2月19日(月) 07:00)
政府は少子化対策の関連法案を国会に提出した。人口の半減や高齢化率の4割超えが現実味を帯び、ラストチャンスとして子育て世代に集中投資する方針に異論はない。
問題は、児童手当や育児休業給付の拡充といった対策の裏付けとなる財源確保の手法だ。2028年度までに年3兆6千億円の確保を掲げ、このうち1兆円を「子ども・子育て支援金」の創設で賄うとした。個人や企業が支払う医療保険料に上乗せし、徴収する仕組みである。
政府が医療保険の加入者1人当たりの負担見通しを初めて公表したのは、今月上旬の衆院予算委員会だった。28年度は月平均500円弱を見込むとした岸田文雄首相の答弁に、唐突感を覚えた人は多いだろう。中旬には加藤鮎子こども政策担当相が、制度開始の26年度に300円弱、27年度は400円弱と示した。いずれも「粗い試算」らしい。
首相の主導で少子化対策を掲げて1年余りたつ。財源の提示を先送りしてきた上、法案提出段階でこれほど大ざっぱとは国民を軽んじている。
予算委での説明は誤解を与える。支援金は均等割ではなく、医療保険と同じルールでの徴収だからだ。加入する保険の種類や所得によって一人一人の額は異なる。
現に民間試算で、中小企業の「協会けんぽ」や大企業の健保組合は、被保険者1人当たり労使合計で月額千円を超える。一方、75歳以上の後期高齢者医療制度は低くとどめる。保険ごとにモデルケースや上限下限の試算を明らかにし、公平性に問題はないかチェックするのが常識だろう。批判を受け、政府は新たな試算を来月に公表する方針を決めたという。
加えて、支援金は現役世代の負担が高齢者に比べて重く、子育て世代の経済的な負担を減らす対策に逆行するという、まっとうな批判がある。政府はまず基礎データを包み隠さず出すべきだ。
首相が「実質的な負担は生じない」と、説明し続けるのにも大いに疑問がある。
社会保障の歳出削減と賃上げを同時に進めるからという理屈だ。医療や介護の社会保険料は年々増えているが、歳出削減すれば保険料の伸びが抑えられ、支援金の上乗せ分が相殺されるという。
しかし医療や介護分野では、高齢者の自己負担を増やす案は何度も先送りされ、人件費を増やす報酬改定が予定されている。狙い通りの歳出削減は望めそうもない。また民間企業が判断する賃上げを財源論に組み込むのは奇妙だ。支援金で保険料の負担が増す中小企業などが十分な賃上げに踏み切れるだろうか。
制度を複雑にした上、ごまかした説明に陥るのは、選挙を意識し、国民に負担増と言いたくない岸田政権の姿勢が原因といえよう。
そもそも給付の対象が限られる対策の財源確保に、リスクを負担し合う保険の仕組みを使うのはそぐわない。本来なら税金を充てる話で、制度設計をし直すべきである。国会で負担増に真正面から向き合う審議が必要だ。