「日本は安全保障改革で立ち止まれない」 ロングボトム駐日英大使

ジュリア・ロングボトム駐日英大使 政治・経済

「日本は安全保障改革で立ち止まれない」 ロングボトム駐日英大使(毎日新聞 2024/2/19 09:44 最終更新 2/19 09:44)

自民党は連立相手の公明党と防衛装備移転三原則の見直しを協議している。日本が英国とイタリアとの間で共同開発する次期戦闘機を念頭に、国際共同開発品の第三国移転を認めるかも争点となっている。この問題を含めた日本の防衛政策について、ジュリア・ロングボトム駐日英大使が毎日新聞に寄稿した。

ジュリア・ロングボトム駐日英大使

見えない脅威に直面、自らを守る能力が鍵

英国政府は2022年末に発表された日本の国家安全保障戦略を強く歓迎した。昨年は、35年までに世界で最も先進的な戦闘機を製造する「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」に関する条約にイタリアを含めた3カ国で署名した。

機密技術の共同開発を促進するために欠かせない「セキュリティークリアランス制度」の導入に向けた議論、防衛装備移転三原則の一部改正など多くの進展が見られた。一方で私たちは、日本がより速く、より前に安全保障政策の改革を進められると考えている。

日本は戦後、憲法上の公約と米国による安全保障上の担保のおかげで国際紛争から距離を置くことができた。だが、地の利、経済力、そして同盟関係が日本の安全を保障してきた時代は悲しいことに終わりを告げようとしている。すべての国が自国を守れるかどうかを改めて検討しなければならないほど、世界の平和と安全保障に対する挑戦は深刻である。

ロシアによる違法なウクライナ侵攻は数十年にわたる定石を覆す出来事となった。簡単に言えば、ゲームのルールが変わってしまったのだ。岸田文雄首相は「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と言っているが、これは誇張ではない。北朝鮮の核計画、ロシアによる北朝鮮製武器の違法な調達とウクライナに対する使用、そして中国の領有権問題に対する攻撃的な姿勢によって、インド太平洋地域の平和と安定が脅かされているのだ。

私たちは拡大する目に見えない脅威にも直面している。核開発計画の資金源となっている北朝鮮のサイバー犯罪、ロシアによる民主的な選挙への干渉、中国による他国の重要インフラを危険にさらすサイバー空間への侵入などが記憶に新しい。日本に対する国家主導のハッキング事件の摘発が注目を集め、国民、企業、政府を守るために行動することがますます重要になっている。

私たちは、日本がサイバー防御の司令塔機能を担う組織の予算・人員を大幅に増やす計画や、岸田首相が新たなサイバー法整備を約束したことを強く歓迎する。この分野の対応力を向上させることは、国家だけでなく、国民や企業を守ることにもつながる。サイバー・レジリエンス(対応力)を強化し、密接に相互がつながっている世界に脆弱性が存在しないようにするため、英国は日本と協力し続けたい。

GCAPを担う一国として、英国は日本やイタリアと協力し、地域の安定と抑止力の維持に貢献する質の高い基盤を構築しようとしている。ウクライナでの悲惨な戦争からも、海や空からの侵攻をできる限り遠くで阻止し、敵から大きな妨害を受けずに、自分たちの作戦を実行するための航空優勢の維持が国民と領土を守るために不可欠なことを再認識した。

GCAPの成功には当事者間での防衛技術の円滑な移転と、信頼できる開発相手国や同盟国へ将来的に機体の輸出ができるような仕組みが欠かせない。これが実現できれば、世界の安定性を高めるだけでなく、GCAP加盟国の納税者の負担を軽減することにもなる。

日本が防衛輸出制度を更に改革することは、産業だけでなく、自国の防衛力を向上させるための体制づくりに貢献する。また、最先端能力を生み出す技術革新を進め、社会に恩恵をもたらすと英国は確信している。

防衛装備品の輸出など重要な安全保障改革に対して慎重になり過ぎるのは危険な賭けである。改革を進めなければ、日本は片手を縛られたまま、より危険な世界に備えるようなものだ。平和の維持は、危害を加える恐れがある者を抑止して、自らを守る能力にかかっている。

日本がこの分野で改革を進めれば、英国にとって防衛装備・技術協力で信頼できるパートナーとなるとともに、サイバー領域の世界的リーダーとして、日本国民の将来の安全と繁栄を保障する好機となる。英国は、日本がこの課題に取り組み続ける限り、協力を惜しまないことを約束する。

防衛装備移転三原則の見直し

2014年に策定した「防衛装備移転三原則」について、政府は23年12月に運用指針を改定。①従来の輸出は米国への部品に限定していたが、米国を含めたライセンス元の国への完成品の輸出②他国と共同開発した装備品の第三国への輸出――の許可を盛り込んだ。②については、公明党内に慎重論が強かったことから、24年2月末までに結論を出す方向で調整している。