プログラマーは「大量失業」の恐れ…米ペンシルバニア大の最新研究「ChatGPTで8割の働き方が変わる」の意味

プログラマーは「大量失業」の恐れ 社会

プログラマーは「大量失業」の恐れ…米ペンシルバニア大の最新研究「ChatGPTで8割の働き方が変わる」の意味(PRESIDENT Online 2024/02/19 7:00)

田中道昭 立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント

チャットGPTなどの生成AIの登場で人間の仕事はどう変わるのか。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「安泰だと思われていたプログラマーなどへの影響が特に大きい。彼らのような『ホワイトカラー』が担っている仕事の約30パーセントは、AIによって代替される可能性が高い」という――。

※本稿は、田中道昭『生成AI時代 あなたの価値が上がる仕事』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。

プログラミングは生成AIの得意分野

現代の花形職業といえば、IT時代を象徴するプログラマーですが、このプログラマーの世界が大きく揺れています。実は、生成AIの得意分野にプログラミングがあるのです。

チャットGPTやバードといったテキスト生成AIは、膨大な量のデータを読み込ませて事前学習させています。このデータのなかに、プログラムも入っているのでしょう。簡単なプログラムなら、機能を指定するだけでほんの数秒で作成してくれます。

IT系の企業だけでなく、プログラムはさまざまな業務で活用されています。簡単なプログラムを自作して、文章を自動で作成したり、エクセルで簡単なマクロを作って複雑な計算を行わせたり、あるいは数値の分析を行って企画に役立てる、といったことを実践しているビジネスパーソンは少なくありません。

あるいは、自社のホームページの作成。ホームページはHTMLというマークアップ言語で作成されますが、これも簡単なプログラミングのようなものです。

これらの簡単なプログラムが、何の知識もなく作成できるとしたらどうでしょう。プログラミングを行うためには、プログラミング言語を習得する必要があります。そのプログラミング言語も、ジャバ(Java)やC言語、パイソン(Python)、ルビー(Ruby)などさまざまなものがあります。ワードやエクセルで何らかの操作を自動的に行わせるためには、VBA(Visual Basic for Applications)というプログラミング言語が必要です。

安泰だったプログラマーは大量失業時代に突入

これまではプログラミングなど専門家でなければ難しいからと、外注したり、プログラムの利用そのものを諦めたりしていた企業も少なくないでしょう。

ところがチャットGPTに、こんな機能を持ったプログラムを作ってと指定すれば、即座に指定したプログラミング言語でプログラムを作成してくれます。

もちろん、まだ完全ではありません。実際にチャットGPTが作成したプログラムが、正しく動作するという保証はありません。一見正しく動作しそうでも、バグ(虫、プログラムのミス)が潜んでいることも少なくありません。

これら生成AIが作成したプログラムを正しく評価するためには、プログラミング知識のあるプログラマーが必要です。ただし、そのための専門プログラマーは少数でかまわないのです。

さらに言えば、生成AIは日々進化しています。ミスのないプログラムが、手軽に作成できるようになる日もそう遠くはありません。

生成AI時代に必要なのは、AIを作成・操作するプログラムを作り出す高度な知識と技術を持ったプログラマーと、生成AIが吐き出したプログラムを点検するプログラマーの2種類だけでかまいません。それ以外のプログラマーは、やがて淘汰とうたされていく可能性があるのです。

「詐欺メール」「フェイクニュース」も簡単に作成できる

生成AIを利用すれば、プログラムが簡単に作成できるようになると述べましたが、実はこのプログラムのなかにはコンピュータ・ウイルスのようなものも含まれます。23年4月には、早くもチャットGPTでサイバー犯罪に悪用できるコンピュータ・ウイルスが作成できることが、専門家の調査によって露呈しています。

この報告を受け、オープンAIではコンピュータ・ウイルスにつながるようなコード(プログラムの一部)を生成しないよう改善したそうですが、悪意のあるユーザーとのイタチごっこになりかねません。

ウイルスとともに迷惑なのが、迷惑メールや詐欺メールの類です。条件を絞って命令すれば、詐欺メールのようなものは簡単に生成できます。そして詐欺メールが簡単に作れるのですから、フェイクニュースといったものも簡単に作成できると考えていいでしょう。

ここ数年、ネット界ではフェイクニュース問題が噴出しています。フェイクニュースとは、虚偽報道、偽ニュースなどとも呼ばれ、事実とは異なる情報やニュースがマスメディアやソーシャルメディアで拡散されることです。

23年10~11月には、女性アナウンサーが架空の投資を呼びかけるものと、岸田首相が国民にメッセージを語りかけるものの2つのフェイクニュースがX(旧ツイッター)を中心に拡散されました。この映像では、アナウンサーの音声が生成AIを利用して作成されたものだったことが確認されています。

便利な生成AIですが、悪用すればウイルスを作成したりフェイクニュースを作成したりするなど、いくらでも悪事に利用することも可能なのです。

ニュースも小説もAIが作る時代

このように、誰もが手軽にニュースなどを作成できるとなると、生成AI時代には記者や作家、画家、漫画家、イラストレーターといったクリエイターの仕事が、どんどん奪われていく危険性もあります。実際、その可能性を危惧して全米脚本家組合のメンバーによる大規模なストライキがハリウッドで起こりました。

テキストでも画像でも、生成AIが作成したものは「盗作」ではないかとする考えもあります。これらの作品の著作権問題も出てきています。しかし、それをきちんとクリアするコンテンツであれば、簡単に、しかもほとんど無料で文章が生成され、写真やイラストが表示されるため、これを利用する企業も増えていくでしょう。

そうなると従来のクリエイティブ系の業種は、壊滅的な打撃を受ける可能性もあります。すでに動画生成AIも実用化されはじめており、ニュースも小説も、コミックも動画も音楽も、人間よりも生成AIで作り出された作品が広まっていく時代が、すぐそこまで来ているのです。

23年9月には、アマゾンの自費出版サービスのKDP(Kindle ダイレクト・パブリッシング)では、1日あたりに出版できる本の冊数を3冊までとする制限が追加されました。KDPでアダルト系の写真集や生成AI系の解説書を検索してみれば、テキスト生成AIや画像生成AIで作成された本が、それこそ膨大な数、出版されているのがわかります。

生成AIの発展によっては、そんなクリエイター受難時代に突入してしまうのかもしれません。

ホワイトカラーこそAIの影響が強い

プログラマーやクリエイターといった職種は、いわばホワイトカラーです。生成AIの影響が強いのは、このホワイトカラーです。

ホワイトカラーの対義語となるのはブルーカラーですが、こちらはいわゆる肉体労働者で、製造業や建設業、農業、漁業、林業といった生産現場で現場作業に直接従事する労働者を指しています。

このブルーカラーの労働者は、機械やロボットなどの導入によって雇用状況が変わってきますが、生成AIの発展にはあまり影響されません。ただし、たとえばトラックや物流現場、それにタクシー運転手などは、自動運転の導入によっては影響を受けるでしょう。そしてこの自動運転の頭脳部は、AIと密接に結びついており、生成AIもまたブルーカラーに多少なりとも影響を与えると考えていいでしょう。

問題は、ホワイトカラーです。現代のホワイトカラーが担っている仕事の25~30パーセントの業務が、AIによって代替される可能性が高いからです。ゴールドマン・サックスのレポートでも、オフィス事務職の46パーセントが生成AIに影響を受けると報告されていますから、ホワイトカラーの多くの仕事が生成AIに取って代わられる可能性が高いのです。

ホワイトカラーは知的作業だから、機械やITなどに仕事を奪われる心配などない、と考えているようではこのAI化の時代を生き残れません。生成AIが脅威なのは、人間にしかできないと思われていた知的生産を、AIが見事に成し遂げてしまう点です。それも人間より早く、より深い位置にまで到達します。作業速度という側面から見れば、人間などまったく太刀打ちできません。

AI時代に生き残るための条件

もちろん、AIにどのように命令を出すかによって、出来あがってくる成果も大きく異なってきます。正確な命令を与えられれば、より正確で効果的な成果が得られ、そうでなければAIが出力する成果もあまり期待できないものです。

この点から見れば、AI化が進んだ時代にホワイトカラーがどうすれば生き残れるかがはっきりします。AIを使いこなす知識とノウハウを持つホワイトカラーが、AI時代に大きな成果を手にすることができるのです。

AIに仕事を奪われないためには、AIを使いこなす。人間とAIとでは、蓄積されている知識の量に圧倒的な差があります。その差を埋めるためには、AIを恐れず、AIをツールとして使いこなす能力が必要なのです。

もちろん、同じホワイトカラーといっても、職種や仕事の内容といったものが異なっています。それらの職種で、どのような仕事が生成AIに影響を受けるか、米ペンシルバニア大学やオープンAIの研究者のグループが発表しています。

この研究グループが23年3月に発表した「大規模言語モデルの労働市場への影響に関する初期の考察」と題するワーキングペーパーには、米国の労働人口の約80パーセントがGPTの導入によって、少なくとも仕事の10パーセントが影響を受ける可能性があると報告されています。さらに、労働人口の約19パーセントは、仕事の50パーセント以上が影響を受ける可能性がある、と結論づけているのです。

生成AIはホワイトカラーにこそ大きな影響を与え、その仕事を奪う可能性が高いことを心に留めておく必要がありそうです。

田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント
専門は企業・産業・技術・金融・経済・国際関係等の戦略分析。日米欧の金融機関にも長年勤務。主な著作に『GAFA×BATH』『2025年のデジタル資本主義』など。シカゴ大学MBA。テレビ東京WBSコメンテーター。テレビ朝日ワイドスクランブル月曜レギュラーコメンテーター。公正取引委員会独禁法懇話会メンバーなども兼務している。